クリエイティブディレクター水野学「オーダーは信頼関係の元に成立」【私のオーダー履歴書】

世界にたったひとつ自分だけの品は、人生をより豊かに彩ってくれるもの。オーダーメイドのある生活を愉しんでいる各界のトップランナーに、その魅力を語ってもらう。そう、オーダーメイドは己を映し出す鏡なのだ。


作り手との信頼関係を得るために

自分はモノ作りの人間と称する水野学氏は、オーダーする際にいくつか気をつけていることがあると言う。

「オーダーは頼むこと自体が醍醐味。だからこそ作り手への敬意が大切だと思っています。その気持ちがないと仕事の発注みたいになってしまう」

その水野氏が『伊藤若冲 感性インスパイア作品展』からオファーを受けたのは2012年のこと。一旦は引き受けたものの自身のなかには葛藤が生じていた。

「作品を制作してください、という依頼だったのです。でも僕は作家やアーティストではない。けれども出展しないのも、もったいない。そこで思いついたのが、スカジャンだったのです」

「生地選びから柄まで、ああでもない、こうでもないと交渉を繰り返しました」と言う思い出深いスカジャン。水野氏は凝り性ゆえ、ファスナーはスイスの名門、riri社のものを採用。「デザインは絵や色使いが派手なので、袖や身頃の色はシックなものを選びました」

スカジャンを選んだ理由は、アートは元来デザインだったという水野氏の考えにある。必要に応じて作られたモノのデザインこそが芸術であり、アートである。だからこそ、作品展が終わっても使える機能や実用性のあるものを選んだのだ。

しかし作業は困難を極めた。いくつもの刺繍屋に断られ、やっと引き受けてくれた相手とも何回にも及ぶ交渉を重ね、絵をいかに糸で表現するか苦心した。

「昔から伊藤若冲が好きだったこともあり、やるからには若冲に怒られるようなものは作りたくないじゃないですか(笑)」

その水野氏が美術と工芸品の橋渡し的存在として考えるのが漆器である。そう、もうひとつのオーダーは、今、水野氏が手がけている、新世代漆を使った器。扱いが難しい漆器を子供も使える器として制作中だ。

1500年前から続く日本最古参の漆の産地・越前の漆琳堂と共作。地が木だと割れてしまう場合もある漆器のベースを樹脂加工に変更。口に触れる表面部分は天然素材にすることで、実用性と美しさを両立した、次世代漆。手で調色するため毎回同じ色を出すのが難しい。

「漆器は幼い頃に見て、単純にプロダクトとして格好いいと感じました。今考えれば、道具としての機能を形にした、装飾デザインの究極だと思います」

その漆器を食洗機にも使えて、投げても割れないものとして、未来へ継承しようとしている。

「オーダーは制作者との信頼関係があって、初めて成立する。互いに信頼していれば、やり直しがあっても相手が気に入るまで何回でも頑張れるじゃないですか。僕にとってオーダーは、そういうものだと思います」`


Manabu Mizuno
クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント、good design company 代表。1998年、good designcompany 設立。ゼロからのブランド作りをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。


Text=いとうゆうじ Photograph=杉山節夫 Illustration=芦野公平