宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.1 『風の谷のナウシカ』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてジブリ純潔を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意し、筆おろし作品に選んだのは、1984年の作品『風の谷のナウシカ』だった。

※この漫画は作者が「ナウシカ」を観る前に、記憶にある断片的な情報を元に妄想したものです。













それでは以下、宮川サトシにとって記念すべきジブリ筆下ろし作品となった『風の谷のナウシカ』のレビューです。


【『風の谷のナウシカ』レビュー】

正直、想像していた以上にジブリ童貞を卒業することには抵抗がありました。30年童貞を貫けば魔法が使える、なんてよく言いますが、ジブリ童貞を40年以上貫いた方がよっぽど魔法に近づく気がするというか、ほうきで飛べるようになるかもしれないのに俺は…なんて、アホみたいな後悔をわりと本気でしていました。

ジブリ童貞を卒業すると決めてから、今の情報過多社会において“皆が知ってることを知らないということ”は逆に個性、むしろ新しい価値なのかもしれない、そんなことを考えるようになりました。未開封の宝物を開封する罪深さ、新築の家にお邪魔して、家主より先に新品のトイレにオシッコをしてしまった時のような、取り返しのつかない重み。

私はGOETHEの担当S氏から送られてきた「ナウシカ」のBlu-rayのパッケージを開封しながら、その重みをひしひしと感じていました。なかなか剥がせないBlu-rayパッケージのビニール、それを理由に観るのを辞めてしまうのもありかもしれない…引き返すなら今しかない、そう思いつつも私は覚悟を決め、ビニールを前歯でコリコリと破いて開封し、そして再生ボタンを押したのでした。

ケチのつけようのない完璧な世界観だった

どこから切ってもほころびの見つからない完璧な世界観だということは、開始5分ぐらいのところで、ジブリ初心者の私にも一発でわかりました。これを一人のおじさんの頭の中から切り出して作ったものだと思うと、正直ちょっとゾッとしましたね…。

岡本太郎さんの太陽の塔を初めて見た時も、これが地中からそのまま生えてきたんだよって言われたらそのまま信じてしまいそうなぐらい、元からそこにあった感が強烈だったのですが、ナウシカの世界観に触れた時もまさにその時と同じでした。

ナウシカって風の谷で何年か暮らした人のエッセイ漫画が基になってます?…みたいな気持ちになるというか。  

幼い頃の私に「ジブリは見るな」と釘を刺した兄に言わせると、ジブリ作品は「おっさんの寝言」だそうですが、確かに人間の普段使っていない脳みそをフル活動させないと作れないような情報量なので、「おっさんの寝言」というのは言い得て妙な気がします。かなり壮大な寝言でしたが。

ナウシカって女性としてみなさん的にはどう?

ナウシカが最初から最後まで「どや!ワイがナウシカやで!ええでっしゃろ〜!」と駆け回っているので、ナウシカに感情を入れて見ようと思うのですが、なかなか心が入っていきませんでした。

というのも、ドラクエの教会で「こんな夜更けにわが教会にどんな御用でしょう?」としか言わないシスターに男が欲情しないのと同じで(欲情する人いたらごめんなさい)、自分にはちょっと女性として聖女過ぎて、人間味を感じられなかったんですね。

もっとも、そういうキリスト的な、人間離れした聖女を描きたかったのだろうとも思うのですが、個人的には胸のあたりにマウントしている6つの薬莢、あれのひとつぐらいは、火薬じゃなくて山椒を入れてて、こっそり松屋の牛丼にふりかけてるぐらいの人間臭さがあると、もっと彼女のことを好きになれたのにな……と思いました。

王蟲の抜け殻をくり抜く時のように、松屋の牛丼の周りに山椒をトントントン…

巨大イモ虫の目の素材の使い道

ここでどうでもいいことですが、気になったことをひとつ。冒頭で巨大イモ虫(※以後 王蟲(オウム))の抜け殻を見つけてナウシカは大喜びし、その王蟲の目のガラスみたいなところを切り取って大事に持って帰りますよね。

で、風の谷の人も子供達もそのイモ虫の目のガラスでテンションが上がるのですが、あれは結局どう使うんでしょうね…皮の部分はナウシカの先生(ユパ様)が削り出してナイフにしてるって言ってたけど。

自分は、仕事で帰りが遅くなったお父さんとかのために、作り置きの晩御飯にかぶせておくような、食卓カバーに使うかなとか考えてました。

気持ち悪くてデカイ虫たちと美少女のコントラスト

王蟲から触手が伸びてきて、ナウシカのことをチロチロチロチロするシーンとか、美少女と気持ち悪い巨大虫とのコントラストを描くシーンがちょいちょい出てくるのですが、途中から「あれ? これ、作り手のそういう嗜好に付き合わされてる?」と思うようになって、ちょっと変な気持ちになりました。

裸の女性に刺身を盛りつけたり、グラビアの女の子にAK-47ライフルを持たせたりする文化ってありますが、ああいうのにピンと来ないように、虫×女の子の掛け合わせも個人的にダメでした。子供の頃に見ていたら、こんな余計なことも考えずに、純粋に「虫との美しい交流」が入ってきたと思うんですが…いけないですね、おっさんになってしまった私がいけないのです。

ちなみに触手チロチロタイムの時に流れる、(ラン♪ランララランランラン♪)と幼女が歌う曲も気持ち悪さに拍車をかけてはいたのですが、あ、バラエティとかでロリコンとかの偏愛を持つ人が登場すると流れる曲だ! これ、ナウシカの曲だったんか! と、ちょっと感動しました。

ジブリ飯とかチコの実?とか

ジブリと言えば、角田光代さんの小説のように、美味しそうな食事シーンが見所だと聞いたことがあります。冒頭で風の谷のお婆さんが、古き言い伝えを話しながら壺の中のカレーみたいな茶色いドロッとしたものを、ぐるぐるとかき混ぜているぐらいでちょっと残念でした。…やっぱり角田光代さんの話と勝手に混同してるだけかもしれません、ごめんなさい…。

あと、風の谷の小さい子たちが非常食としてナウシカに渡したチコの実、あれを初めて食べたレジスタンスの男の子のリアクションを見て、UHA味覚糖のシゲキックスを初めて食べた日のことを思い出しましたね。買ってきてくれた母親の手前、ややオーバーにリアクションして見せた記憶があります。

巨神兵がカッコイイよぉ

結局なんだったのかイマイチわからなかったものの、巨神兵のインパクトが凄かったです、とてもカッコよかった。肉が腐って溶けて骨格が見えてるデザインとか、AKIRAの鉄雄の断末魔とかエヴァンゲリオンのような…ちょっと前に見た、シンゴジラも思い出しましたね。

ビームが一回ビヤッと発射して、時間差でボカーンと爆発する描写とか。あそこだけ妙にエッジが効いてて、全体の牧歌的な印象の作画を、ギュッと締めてる感じがしました。

翌日も巨神兵のことばかり考えてて、ちょっとフィギュアとか探してしまってました。金田のバイクの次に好きな造形が見つかってワクワクしています。


【結論 『風の谷のナウシカ』は生命の息吹を感じる凄いアニメ作品だった】

正直、面白かったか? と言われると、もちろんつまらなくはないのですが、あまりの世界観の構築度にやや置いてけぼり感があったりして、感動!…とまではいけませんでした。「はぁ…はぁ…そうですか…は〜それは凄いですね…え?あ、時間ですか?全然大丈夫ですよ?すいません、なんとなく腕時計見る癖があって…ええ、はい…」という感じというか。

感動とまではいかなかったとはいえ、作品全体が生命力に溢れていて、(子供の頃、わけもなく敬遠していた)オタクっぽさもほとんどなく、隅々まで血が通っている感じがして、それだけでずっと見続けることができる作品でした。実際、アホな私は1回ですべての情報が拾いきれず、合計3回も見れましたから(暇かよ)。

血が通っているからなのか、予想外に「古さ」が感じられなかったのも驚きでした。あのキャラクターの躍動感、滑らかな動きを見てしまうと、ファーストガンダムとか見返すと古く感じてしまうでしょうね…。

あ、でも音楽だけは時代を感じましたね。ミニマルミュージックっていうんですか、巨大王蟲と追っかけあいしてる時とかに流れるテクノっぽい曲とか、「うる星やつら」とかをなんとなく見るともなしにテレビで流しっぱなしにして、よく噛みもせず夕飯を食べていた幼い頃を思い出しました。隣では元気だった頃の母が、エンドウ豆のスジ取りをセッセとしていました。


【ジブリ童貞を卒業してジブリの野に降り立ってみて…】

レーシックの手術を終えた人のように、見えている景色がわかりやすく変わっていれば良かったのですが、そんなことは今のところはありません、まだ1作品目ですから。

ですが、学生の頃に「ユパ様」と呼ばれていた教師がいたこと、王蟲から伸びてきた触手にチロチロされている時に流れる幼女が歌うロリコンを象徴する曲、19(ジューク)の歌詞にあった「メーヴェ」という飛行機の名前など、自分の中でバラバラに入ってきていた情報が、このナウシカからきているものだとわかって、それが作品をベースにどんどん頭の中で繋がっていく感じは新鮮なものでした。

過去の記憶を一度に思い出して、ちょっと頭痛くなってロキソニン1錠飲みましたから。

それと、この完成度の高いアニメ映画を、「志村けんのだいじょぶだぁ」を見るかのごとく、普通に見てきた身の周りの人たちが、どう咀嚼して、どう解釈したのか今とても気になっています。

その咀嚼の仕方によっては、これまでの関係性とか、その人の印象も変わってしまうかも?…なんてことを思ったりもしました。人を判断する時の項目の一つに、「ジブリ観」という新たな項目が加わったことは否定できませんね。


【次回のジブリレビューは?】

初ジブリレビューいかがでしたか? 次回以降は読者の皆さんの意見を反映して作品を選んでいきたいと思っています。『風の谷のナウシカ』の次に見るべきあなたのオススメ作品を教えてください。ツイッターやfacebook、Instagramなどで「#ジブリ童貞」のハッシュタグをつけて投稿してください。参考にさせていただきます。


去る4月5日、高畑勲監督が逝去されました。心よりご冥福をお祈りいたします。



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宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー

宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.2 『となりのトトロ』


宮川サトシ
宮川サトシ
漫画家。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』など。現在、週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』を連載中
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