佐野元春~Elvis loves you. ~野村雅夫のラジオな日々 vol.1

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな顔を持つ野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらいます。

はじめまして! 野村雅夫です

どうも、僕です。見た目は洋風、中身は関西風、そして名前は純和風。野村雅夫です。

そんな短い口上で番組を担当するようになって、およそ10年。大阪FM802のラジオを中心に、テレビの音楽番組やEテレのイタリア語講座などにメディア出演している。母親がイタリア人で生まれはトリノだが、ろくに首も座っていない頃に琵琶湖のほとりへとやって来て育った。自宅での会話はすべて日本語。保育園は仏教系。学校は地元の公立一本。イタリア語は、大阪外国語大学(現大阪大学外国語学部)で学んだ。映画論の研究で大学院まで進み、20代にまるっと重なる「万年モラトリアム期」に蓄えた体験を踏まえ、映画の字幕制作やイベント企画、評論なども実施。イタリアの文化的お宝を日本に紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」を運営しつつ、自宅のある京都を中心に興味と行動範囲を無闇に広げている。

連載開始にあたり、自己紹介が必要だろうと書いただけで、自分で言うのも何だが、ややこしい。情報が多すぎる。自分ですら処理するのが億劫になる。困ったものだ。まあ、僕のそんな雑多な側面はおいおい披露していくとして、まずはラジオや音楽にまつわることを書くとしよう。

日々ラジオの生放送を担当していると、いくら準備をしたところで、突拍子もないトラブルに見舞われたり、その逆に予想もしないサプライズに我を忘れて興奮することもある。天災が起きた時の対応や機材の不調などといった前者は、肝を冷やしながらも、放送終了後にチームで検証をすることで経験値を蓄積・共有していくことが次への備えになる。対して後者は、むしろその瞬間を謳歌することがまず重要で、うまく対応できた時には、自分たちが双方向のメディアであるラジオの電波を乗りこなせた楽しい記憶として、今後の発奮材料となる。

かつて深夜番組を担当していた頃、とあるバンドの曲をオンエアしていたら、その放送をキャッチしたメンバーたちから、当時リスナーと交流する手段としてメインで活用されていたBBSに書き込みがあった。彼女たちはちょうど大阪で車を走らせていたのだという。僕には個人的な面識はなかったものの、つきあいのあったディレクターがすぐさま電話を繋いでくれた。「はじめまして!」。予定などしていなかったインタビューではあったものの、そこでの息を弾ませた会話は段取りを踏まえた場合よりも血の通ったものとなった。

こちらは、つい先日のこと。3月に東京公演を控えるジョン・レジェンドの『Ordinary People』という曲をかけようと僕たちは準備していた。ジョンと言えば、昨年は『ラ・ラ・ランド』にミュージシャン役として出演、さらには実写版の『美女と野獣』でアリアナ・グランデと主題歌をデュエットするなどしたグラミー賞シンガー。イントロでこの曲を紹介するにあたり、「ピアノ一台と声だけにあえて絞り込んだシンプルな弾き語りは、聴けば確実に胸に沁み入ってくる」というような表現を僕は考えていた。ところが、蓋を開けてみると、生放送の進行上、この曲までに時間が余ることがわかり、リクエストを挟み込むことになった。採用したのは、GReeeeNの『キセキ』。来月結婚を控えているというリスナーのメッセージを僕は読み上げた。そして、問題のジョン・レジェンドが次に来る。ヘッドホンで『キセキ』を聴きながら、僕はしばし考えた。『Ordinary People』は共に困難を乗り越えていこうというラブソング。GReeeeNはリスナーからのリクエストだが、この曲は逆に僕からのプレゼントとして放送するのはどうだろう。その数分後、ディレクターからのキューを受け、僕はこう口を開いた。

「続いては、来日公演を来月に控えているジョン・レジェンドの1曲を、来月結婚するさっきの○○さんに送ろうかな。僕らは特別な人間じゃない。だからこそ、落ち着いて日々をじっくり生きて愛し合おう。そう歌われる『Ordinary People』」

この言葉がリスナーに響いたかどうかはわからない。けれど、予定していたストレートな曲紹介よりは、音楽を僕たちの暮らしに寄り添わせることはできたのではないか。マイクのオンオフを切り替えるカフという装置のバーを下げながら、僕は静かにそう思った。

なるたけの準備をしながらも、その場その時に起こることへの咄嗟の対応が求められる生放送。内容は違えど、この種の反射神経を要する仕事は他にもたくさんあるだろう。たとえば、僕にとってのラジオブースは、ミュージシャンにとってはライブステージにあたるのかもしれない。そう感じたのは、先月、佐野元春のトークショーを取材した際に、とあるエピソードを耳にしたからだ。

僕が佐野元春さんをリスペクトする理由

話が脇へそれるようだが、僕は佐野さんを偉大なる先輩だと考えている。彼は第一線で活躍し続けるミュージシャンでありながら、そのキャリアの初期から優れたラジオDJでもある。歯切れの良い語り口で、啓蒙的であると同時に決して難しくはない言葉を選んで音楽を届けてくれるそのスタイルは、知的で何よりかっこいい。そんな佐野さんを自分の番組にゲストでお迎えする時に、選曲をお願いすることがよくある。すると彼は、番組の曜日や時間帯、そしてどんなリスナーからのアクセスが多いのかを必ず確認し、曲のチョイスをちゃんと僕の番組に「チューニング」してくれるのだ。こうした姿勢に僕は感銘を受けてきたし、ここで具体的に書くのは控えるが、ブースでふたりきりでいる時に直接アドバイスをいただいたこともある。そう、佐野さんは僕にラジオの楽しさと奥深さを教えてくれたひとりなのだ。

一方で、仕事のことは抜きに、もちろん僕は彼の奏でる音楽のファンでもある。そのディスコグラフィーの中でも思い出深い1枚が、佐野元春 and The Hobo King Band名義の『THE BARN』だ。ウッドストックで録音され、アメリカのルーツ・ミュージックから大きな影響を受けたサウンドは、J-POP全盛だった1997年の日本の音楽シーンにおいて特異な存在で、決して派手ではないが、当時大学生だった僕は繰り返し耳を澄ませて滋味豊かな作品を味わった。あれから20年。アニバーサリーを祝うイベントがゼップなんばで行われるというので、喜んで出かけた。目玉は98年のアルバム・ツアー大阪フェスティバルホール公演を記録したライブ・フィルムの上映なのだが、その前に佐野さん本人も登壇するトークショーあり、これまで語られることのなかった秘話も披露された。

全国を回るうちに演奏が磨かれ、バンドのコンディションはピークを迎えていた。しかも、当初は予定されていなかったことだが、その大阪公演には特別ゲストとして、アルバムのレコーディングに関わった名プロデューサー、ジョン・サイモンとザ・バンドのガース・ハドソンが参加。「あの日のフェスティバルホールには、ロックの神様がいたのかもしれませんね」。司会者がそんな振りをすると、佐野さんは照れくさそうにこんな裏話をしてくれた。

本当の神様がいたかどうかは別として、エルヴィス・プレスリーというロックの神様は、あの日あの場所にいたんです。これから上映されるフィルムからは漏れているんだけど、演目が一通り終わって、アンコールに応えて僕が夢中で身体を「シェイキン、シェイキン」していた時、舞台にはプロンプと呼ばれる歌詞を表示する機械があるんだけど、そこに「Elvis Loves You.」という文字が突然浮かび上がったんですよ。一瞬「なんだこれは?」と戸惑ったんだけど、すぐにわかりました。ジョン・サイモンとガース・ハドソンのイタズラなんだってね。

会場の熱気が最高潮に達しているような時に、敬愛するミュージシャンが繰り出した最高のサプライズ。何とも粋な計らいではないか。当時を振り返る佐野さんの朗らかな話しぶりに、僕はすっかり胸が熱くなると同時に、彼が今もステージでパフォーマンスを続ける原動力の一端をそこに見た気がした。入念な準備をした後は、現場で起こるできごとを柔軟に受け止めて楽しむ。またひとつ佐野さんから仕事の極意を教わった。

2018年3月11日。佐野元春はまたフェスティバルホールのステージに上がる。きっと僕らの予想を超えるマジカルな夜にしてくれるに違いない。

佐野元春 公式ウェブサイト

FM802 Ciao! MUSICA(fri. 12:00-18:00)番組ウェブサイト   

野村雅夫氏ツイッターフォローはコチラ    


オザケン is comin' back ~野村雅夫のラジオな日々 vol.2 小沢健二~

世界最大規模の音楽フェスSXSW見聞録~野村雅夫のラジオな日々 vol.3~

MONDO GROSSO大沢伸一との再会 ~野村雅夫のラジオな日々 vol.4


野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
気になる方はこちらをチェック