【京都】世界遺産・清水寺を舞台に、小説家・原田マハが仕掛ける前代未聞のアート展とは?

1200年の歴史を持つ世界遺産・清水寺を舞台にして、西洋近代絵画、現代美術、文学、マンガ、映画など、ジャンルを超えた作品が展示される。9月2日から開催のわずか8日間の展覧会は、世界的な作品と歴史ある空間との究極のコラボレーションでもある。その仕掛け人は、作家であり、キュレーターでもある原田マハさんだ。


展覧会のために書き下ろした小説も発表!

ICOMという非政府組織をご存知だろうか。1946年に創設され、世界141の国と地域から3万7000人のミュージアム関係者が加入する国際博物館会議である。3年に1度開かれる大会が、今年は初めて日本で開かれることになり、3000人を超える博物館の専門家が、開催地である京都に集結する。

その開催を記念し、キュレーターというキャリアを持つ作家の原田マハさんが『CONTACT つなぐ・むすぶ日本と世界のアート展』を企画。その会場が、あの世界遺産でもある、京都の清水寺だというから驚きだ。

「3000人もの専門家が来日する素晴らしい機会に、せっかくだから日本の文化芸術の発展の軌跡をお見せし、認識していただきたい。そしてICOMメンバーの方々に、日本ならではのおもてなしはできないだろうか。さらにICOMという素晴らしい組織とそのコンセプトを、もっと日本の方々にも知っていただきたい。そんな私の“ミュージアム愛”から始まった企画なんです」

その提案を喜び、快く賛同したICOMの全面協力のもと、企画はスタートした。

「展覧会の内容は、まず国内にあるものにこだわりました。それをジャンルで固めるのではなく、関係性に注目したんです。ICOM自体、『戦争で分断された世界をミュージアムで再び繋ぐ』という思いで設立された団体。世界と日本があり、それが対立構造ではなく、お互いが密接にコントタクトしながら発展してきた、そのプロセスを展示で見せたいと思って」

展覧会は美術品に限らず、漫画や映画、文学などにもおよぶ。その中には国際的に活躍した日本人アーティストの作品、さらに日本の文化や美術に影響を受け、また与え、密接にコンタクトしてきた外国人アーティストの作品も並ぶ。

「鎖国している間は、西洋の文化があまり入ってこなかった日本ですが、開国以降、西洋の芸術文化の知識を取り入れ、大きな影響を受けながら日本人のクリエイターは発展していったという歴史があります。一方で、西洋には19世紀以降、ジャポニズムが広がりアーティストに影響を与え、さらに戦後は美術以外のところ、漫画や映画、文学などで多くの影響を受け続け、発展してきた歴史があるのです」

長い年月の間、コンタクトし合い、コネクトし続けていた世界と日本。実際、日本の多数のアーティストやデザイナーに多大な影響を与えてきたアンリ・マティス。南仏でその彼に師事した洋画家・猪熊弦一郎。哲学者・矢内原伊作と深い交流をもった彫刻家・アルベルト・ジャコメッティ。四半世紀以上も日本で個展を開催し続けてきたゲルハルト・リヒター。さらに文学界からは宮沢賢治、川端康成、海外に多くのファンを持つ小津安二郎、手塚治虫などの作品も展示される。

「さてどこに展示しようとなった際、ミュージアムの専門家の方たちにも見ていただくのだから、独自の場所を探すべきと考えたんです。京都にとってミュージアムの原型とは? と考えたところ、それはお寺じゃないかと思いついたんです。古来、お寺は仏師や絵師をサポートし、彼らが作ったものを信仰崇拝の対象にして、一般の人たちの目に触れるところにおいて、飾っておもてなしをした、という歴史があります。ミュージアムの原型であるお寺という場もICOMのメンバーに知ってもらいたいし、一般の方々もそれを知るいいチャンスだと思ったんです」

マハさんは早速、世界遺産のひとつ、京都・清水寺にコンタクト。

「清水寺は未来に文化をどう継承していくかを常日頃から考えていらっしゃるお寺であり、それは面白いアイデアだとご快諾いただきました」

成就院、経堂、馬駐、西門という4箇所を使い、それぞれの空間を生かした展示になっている。そこには解説パネルなどを一切置かない展示になるのだとか。

「手元資料は用意します。でもキャプションや解説があると、どうしても意識がそっちにいってしまう。むしろ『見た人が感じる』『場の力を感じる』展覧会にしたかったので」

通常非公開である成就院では、小堀遠州作といわれる庭園を背景に作品を展示するという。それを聞いただけでも、一般の展示とは違う贅沢な特別鑑賞になることは間違いないと確信する。そして同じく通常非公開で重要文化財である経堂では、ゲルハルト・リヒターの作品を公開。また共に重要文化財である西門と馬詰には、加藤泉の作品が展示される。

でも解説パネルなしに、美術や芸術に知識がない人たちが楽しめるのだろうか? と問いかけると、そこにはマハさんならではの、大きな仕掛けが用意されていた。

「展示のために一冊の本『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』を書き下ろしたんです。あるミッションを受けた私自身が、アートを通して日本と世界を積極的にコンタクトした物故アーティスト20人にインタビューしていく話です。このアーティストはどう日本とつながっているのか、誰とコンタクトし、響きあったのか? みなさんも展示を見て「なぜマハさんはこのアーティストを選んだの?」と疑問に感じると思うんです。まさにその答えがこの本の中にあります。私自身、それぞれのアーティストや彼らのストーリーにコンタクトし、自分なりに考え、見る方々が納得するものを作ってみました。それぞれのアーティストを訪ねるときは、ちゃんと手土産も用意したんですよ(笑)」

たとえば陶芸家ルーシー・リーを訪ねる際は、彼女の器に映えるであろう、九段下・一口坂「さかぐち」のおかきとあられを持参している。物語の中でリーは「とてもきれい」とそのあられを自分の器にさらさら注ぎ、緑茶を淹れてもてなしてくれる。さらに帰宅間際のマハさんと引き留め、抹茶を点てる姿に、彼女の優しさ、上品さ、そして強さがにじみ出ている。

またあの棟方志功を訪ねた際は、ねぶた祭りの会場で彼を探し、浅虫温泉旅館のロビーで絵を描くところを見つけるという設定だ。そして創作のBGMの定番がベートーベンの第九というエピソードから、手土産にはMP3プレイヤー。イヤホンを耳にした瞬間の棟方志功の喜びとイアホンをしながら板にへばりつく姿が、目の前に浮かんでくるようである。

「手土産を考えるのは楽しい時間でした。皆さんも憧れの人を訪ねるときは、必ず手土産を用意すると思うんですが、これはまさにそのリアルな気持ち。宮沢賢治さんには何をもって行こう。棟方志功さんは何を喜ばれるのかな?と。棟方志功さんは、第九の歓喜の歌を古いレコードプレーヤーで大音響で聴きながら板画に取りくんでいたという資料を読んだものだから、私が会いに行くときは『今はこんなすごいのありますよ』と渡したら、志功さんが喜ぶだろうなと思い、時空を超えて届けに行きました(笑)」

アーティストのプロフィールを読むだけでは感じられない、彼らが生きた時代、彼らの思考や性格、そして風貌。インタビューに答える声が聞こえるかのような錯覚を覚えさせるのは、マハさんの作家ならではの技である。そして手土産を喜ぶ彼らのリアクションに、自分が選んだかのように心が温まってくる。

展覧会ではマハさんが書いた『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』の一部を掲載したタブロイド紙が手渡されることになっている。だけどそれだけではもったいない! ぜひ本書を読んでから展覧会をみるべきである。そうすれば本書の中でマハさんが偉人たちとコンタクトしたごとく、作品の前に立った瞬間、あなた自身がアーティストとコンタクトできるはずだから。

わずか8日間の展覧会はまさに一期一会である。清水寺という素晴らしい空間に身を置き、世界がアートによってつながっていることを、実際に感じてみてほしい。


「CONTACT つなぐ・むすぶ 日本と世界のアート展」
会期:2019年9月1日(日)~9月8日(日) 
開催時間:7:00~18:00(最終入場17:00)
休み:会期中無休
会場:清水寺(京都市東山区清水1丁目294)成就院、経堂、西門、馬駐
入場料:大人¥1,800、子供(小学生以下)無料
*モーニングチケット(7:00~9:00入場)¥1,600
*トークイベントとのセットチケット¥5,000
https://contact2019.com/


『20 CONTACTS 消えない星々との短い接触』
原田マハ
¥1,600 幻冬舎


Text=今井 恵 Photograph=須藤敬一