【JRAのブランド学③】ディープインパクトが示した「血」のスポーツとしての魅力とは?

秋の深まりとともに、競馬シーズンが本格化する。年末まで、ほぼ毎週開催されるGⅠ競走には、時に10万人を超えるファンが集まり、好きな馬や騎手を応援し、馬券に一喜一憂する。7年連続で売り上げを伸ばしているJRA(日本中央競馬会)は、どのようにして競馬のブランド力を築いてきたのか。日刊スポーツの競馬担当・木村有三記者が、人気の秘密を探った。


史上最強馬の死が教えてくれたこと

2019年7月30日、1頭の名馬がこの世を去った。史上最強馬、ディープインパクト。'05年に21年ぶり史上2頭目の無敗の3冠馬となりGⅠは通算7勝、現役を引退して種牡馬になってからも'12年から昨年まで7年連続でリーディングサイアー(産駒の獲得賞金1位)に輝き"日本競馬の至宝"と呼ばれた。その死は、テレビ朝日「報道ステーション」もトップニュースで報じたほどだった。

同じ3冠馬でもシンザンやシンボリルドルフは30年以上生きたが、ディープインパクトは17歳で、数多くの記録を打ち立てた生涯に幕を閉じた。その日、主戦騎手だった武豊騎手は、北海道に滞在中で、訃報を聞くと空港から引き返して、ディープが繋養(けいよう)されていた社台スタリオンステーションを訪れたという。

「体調が良くないと聞いていたので心配していたのですが残念です。私の人生において本当に特別な馬でした。彼にはただただ感謝しかありません」とコメントを残し、多くのファンも希代の名馬との突然の別れを惜しんだ。

ディープインパクトの死を受けて、さまざまな場所に献花台や記帳台が設けられた。

サンデーサイレンスから続く偉大なる「血のブランド力」

競馬は「ブラッドスポーツ」と呼ばれる。優秀な血を引き継ぎ、さらに強く速い馬をつくり出すことで、数百年もの歴史を紡いできた。血統は、他のギャンブルにはない"唯一無二"の大きな魅力だ。ディープの父サンデーサイレンスは米国産でケンタッキーダービーを制すなどGⅠに6勝。引退後は日本に輸入され、1991年から種牡馬生活を始めた。初年度産駒からフジキセキ、ジェニュイン、タヤスツヨシらGⅠ馬が続々と誕生。そして最後の世代から1年前の産駒として、2002年に生まれたのがディープだった。

ディープは母系も優秀で、曾祖母ハイクレアはエリザベス女王が所有したGⅠ馬だった。そんなディープの血は、世界からも求められていた。世界一と言われた4000万円の高額な種付け料が必要にもかかわらず、海外の大物馬主は繁殖牝馬を日本へ送り込んでいた。交配した産駒を欧州で走らせ、仏1000ギニーや英2000ギニーなど、伝統あるクラシック競走を制した。活躍した産駒は世界の各地で種牡馬生活を送り、ディープの孫世代が誕生している。その「血のブランド力」は、すさまじいものがある。

北海道の社台スタリオンステーションには、2002年にこの世を去ったサンデーサイレンスの功績をたたえた銅像が建てられている。

孫と言えば、ディープの子で'13年のダービーを制したキズナの産駒が今年、日本でデビューした。ディープ、そしてキズナにも騎乗してダービーを制した武豊騎手は「キズナの子に乗って、親子3代ダービー制覇をやりたい」と公言する。ディープインパクトで競馬を始め、キズナでも興奮を体験したファンは、その子供でも大きな感動を味わえるかもしれない。競馬だけが持つ血統のドラマで、人々が引きつけられる理由のひとつだろう。

当然のことながら、人間の人生サイクルは、競走馬ほど早くない。ほとんどの人は生まれて20年以上経てから子供を持ち、孫の誕生も60年近く待たなくてはいけないし、ひ孫に恵まれる人はそう多くないだろう。しかし、活躍したサラブレッドは生まれて数年で親になり、10年を待たずに子供が生まれ、15年ほどで孫も誕生する。さらに、その子、孫…と、競馬ファンは何代も血のつながった馬たちを、見届けることができる。人生ではとても体験できないような、何世代も後の子孫の活躍を目の当たりにできるのだ。

JRAは、'16年の凱旋門賞(GⅠ、フランス)から海外主要レースの馬券発売を始めた。その最初の売上額は41億8599万5100円と想像以上だった。海外馬券発売レースの数は'16年の7レースから'17年10レース、'18年13レースと増え、今年は10月6日の凱旋門賞で早くも14レース目になる。

海外レースでは、参戦する日本馬がファンの購買意欲を左右してきたが、これからは新たな動機も出てくるだろう。それは、海外生まれのディープインパクト産駒や孫世代の参戦だ。ディープの血を受け継ぐ馬が走れば、競馬ファンの海外レースへの興味も高まるはず。「血のブランド力」は、世界に目を向けているJRAにとっても、大きな力になりそうだ。

終わり

Text=木村有三 Photograph=Getty Images


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