オードリー若林がオジサンになって失くしたものとは?

お笑い芸人やマルチタレントとしての才能はもとより、近頃、文学人としてのオードリー若林正恭さんの存在感がジワジワと高まっている。


アラフォーを迎えて変化した

2013年に刊行されたエッセイ集『社会人大学人見知り学部卒業見込』は発行20万部を超え、キューバへの一人旅を描いた『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』は第3回斎藤茂太賞を受賞。今年8月30日には待望の新作エッセイ集『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋)を刊行した。

雑誌『ダ・ヴィンチ』の連載に書き下ろしを加えた最新作は、「ナナメの視点だけでモノを作ってきた」と語る自身の“自分探し完結編”だ。かつては某巨大掲示板サイトで「中二病」とイジられ、常にナナメの目線からしか物事を見ない“ひねくれ者”だった若林さんの思考回路は、アラフォーを迎えてどのように変化したのか。

ある人は「だよなあ」なんて小さく声を漏らしながら、またある人はニヤリと微笑みながら、本作品に収録されたエッセイの数々は、ナナメに見れば「人生の過渡期」と言えるアラフォー男子の心にグサリと突き刺さるに違いない。若林さんは言う。

「10代の頃から、ずっとナナメ目線だったんですよね。この世界に入ってからも、テレビ番組の打ち上げで順番にひとこと言ったり、それに対してみんなで拍手することが気持ち悪いと思っていたし、バーベキューやハロウィンで盛り上がる人たちを白けた目で見ていたりして。人が集まる場所が苦手で、いちいちびっくりしちゃってイヤだったんです。

でも、今年40歳になるオジさんになると、そういうことに対しても諦めがつくというか、通用しなくなるんですよね。オジさんなのにナナメでいることが、なんだかダサいし似合わなくなる。で、ナナメの終わりを感じるいうか、そんな自分に夕暮れを感じるわけです。だから、『ナナメの夕暮れ』というタイトルをつけたんですけど」

わかる。わかる。ものすごくわかる。10代や20代の頃はマイノリティであることがカッコいいと思っていた。それこそが価値であると信じていた。ハリウッド映画のどこが面白い? 100万枚売れる音楽のどこがいい? 白々しいバーベキューやハロウィンなんて平気でスルーして、あらゆる局面でオリジナリティを発揮してこその俺らしさだぜ――。なーんてナナメ目線でマジョリティをぶった切り続けてきた自分がいつしかアラフォーを迎えると、今度は逆に、いい年こいてササクレ立った自分に恥ずかしさを覚えたりする。40歳にもなって、何言ってるんだと。

若林さんのオジサン論が面白い

「白髪染めを使ってるオジさんが、インスタでナイトプール女子を見て文句言ってもね。『見なきゃいいじゃん』って話ですから(笑)。もう5、6年も前から、そういう意味での違和感を覚えていて。

ただ、それに気づいてナナメでいることを諦め始めると、逆に若返るという感覚もあるんです。プロレス会場で誰よりも叫んでいるのはオジさんだし、涙ぐんでいるのもオジさん。パドルサーフィンやって、すり傷を作ってるのもオジさんだし、キャンプで妙に張り切っちゃうのも、SUV車をカスタムしちゃうのもオジさんだったりするでしょ? つまり、オジさんになると他人から見て『イケてる、イケてない』というのを気にしなくなるんですよね。

若い時は、誰かに『ダサい』と言われるのが怖い。でも、オジさんになるとそういう自意識や承認欲求が薄れて、自分の好きなものに突き進めたりする。漫才なんてわかりやすいですよ。『その設定は今までにない』なんて言われることが嬉しかった若い頃と違って、オジさんになると設定がくだらなくなるんです。『ここからあそこまで瞬間移動できるか』みたいな(笑)。

でも、それって、逆に若い頃の感覚に近いじゃないですか。むしろ10代みたいな。だから、ナナメの夕暮れの次は、夜じゃなくて次の日の朝みたいな気がするんですよね。ナナメを諦めたオジさんは、むしろ中学生みたいに元気いっぱい。僕の場合、それに直面して、またちょっと戸惑っていたりもするんですけど(笑)」

ゴルフは変化の一例だ。ナナメだった頃の若林さんは、もちろんゴルフが嫌いだった。ところが、ナナメじゃなくなったアラフォーの若林さんはゴルフが好きだ。

「いやあ、仕事終わりに行く打ちっぱなしなんて、道楽じゃなく、むしろ“禅”みたいなものですよね」

ああ、そうそう、それそれ。言い得て妙とはまさにこのこと。血気盛んなナナメを卒業した人だからこそ、まるで禅のようなゴルフの魅力がわかるというものだ。退廃的な意味の「オジさん」ではなく、まるで中学生のようなエネルギーを取り戻した進歩的な意味の「オジさん」と、ゴルフの絶妙なマッチング――。若林さんとの対話はゴルフ談義へと発展する。

次回に続く

Masayasu Wakabayashi
1978年生まれ。春日俊彰と「 オードリー」結成。現在、テレビ朝日「激レアさんを連れてきた」、フジテレビ「セブンルール」「潜在能力テスト」、ニッポン放送「オードリーのオールナイトニッポン」等で活躍中。今年8月30日にエッセイ『ナナメの夕暮れ』を刊行。


Text=細江克弥 Photograph=鈴木規仁


オードリー若林がゴルフにハマる理由がおもしろい!