イケメン店員が言ったDarling、Lovelyって?~英語力ゼロの私がロンドンに移住したら⑩

35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めて渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と日本人含め各国人からお叱りを受けつつ、覚えたフレーズの数々。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第10回!

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イギリス英語とアメリカ英語

先日、苦手な英語での電話に再度挑戦しました。担当部署に繋げるための、最初の自動音声が聞き取れず、ガチャ切り、聞き取れるまで5回かけました。もちろん担当者に繋がってからもほとんどわからず「とりあえず住所教えて、書類送るから」のやりとりに落ち着くまでに相当の時間がかかりました。

なんとか聞き取りに慣れるためにも、毎日オンライン英会話でフィリピン人の先生と話しています。「イギリス英語は大変だよ」と先生も言ってくれますが、しかしそもそも英語力ゼロから始めているので、何がイギリス英語で何がアメリカ英語なのか、よくわかっていませんでした。

例えば、getの過去分詞、英語を勉強したことのある方ならgottenだとご存知だと思うのですが、実はイギリスではgottenではなくgotを使います。get-got-gotなのです。18年前の受験勉強以後、一切の勉強をしてこなかった私は、そもそもgottenの存在自体すっかり忘れ、35歳からの再学習。

何の疑いもなくgotを使っていました(発音は同じでもイギリス英語とアメリカ英語でスペルが違う、という単語も結構あります。そもそもアメリカ英語のスペルを全部忘れているので違和感はありませんが……)。本当にそれくらいのレベルで渡英してきてしまった私には、渡英から10ヵ月経っても毎日の会話が衝撃の連続です。

恋と勘違い……

そんな私が、最近英語力が低すぎて危なかったこと。

コーヒーを買おうと、よく行くカフェでベネディクト・カンバーバッチ似のイケメン店員にこう言われた時です。

Hi Darling, What do you want?(やぁ、ダーリン、ご注文は?)

長かった冬がやっと終わり、本格的な夏が始まった7月。開放的になった街の人たちと同様、少し浮かれていたのかもしれません。このカフェを行きつけにしているのは、コーヒーが美味しいだけではなく、このカンバーバッチをチラ見したいがためです。そんな彼に「ダーリン」と呼ばれてかなり動揺しました。あれ? もしかして覚えられていて、実はもう恋は始まっている?

全然違いました。「ダーリン」は、私が最初に思った「最愛の人」という意味ではなくて、この場合単に知らない人を呼ぶ時に使われる言葉でした。

英語は常に主語が必要な言語ですから、会話の中で相手の名前を何度も出します。日本語だと「どう思う?」という質問でも“What do you think, Momoko?”とわざわざ名前を出して聞いてくれることが多いです。日本語でもそうですが、名前を呼ぶことは、フレンドリーさ、丁寧さを表現する話術のひとつ。"Darling"は、これを「名前を知らない相手」に行うための、方法なのだそうです。

このような呼び方は"Sweetheart" "Honey"など他にもいくつかあるようですが、他に実際聞いたことがあるのが“Love”。

Thank you love.

交通整備のおじさんが、整備に従ってくれた人たちに対してこう言っていました。「そこの人、ありがとう」ということでしょうか。ただ、人によっては年下の相手にこのように呼ばれるとムッとする人もいるようで、確かに実際使っているのは、年配の方が多い印象です。カンバーバッチ似店員は20~30代くらいだと思うのですが、日本人は幼く見られがちなので、私も年下に見えたのかもしれません。しかし、もし彼が「ダーリン」ではなく「ラブ」の方を使っていたら、きっともっと勘違いして、無駄な行動力を発揮、さらに店に通い詰めたかもしれません。危ないところでした。

ちなみにイギリスでは「OK」とか「よかった」くらいのことを“Lovely(ラブリー)”とすぐ言います。郵便局でお釣りなしでぴったりコインを払った時に、ウィル・スミス似の郵便局員さんに目を見て“Oh lovely”と言われた時も実は相当に勘違いしました。

駅に貼ってあった、カンバーバッチ出演最新作「The Current War」のポスター。エジソン役だそうです。 イギリス公開7月26日、日本公開日未定。英語字幕があっても難しそうだけど、絶対観に行く。

夏がきて、少し浮かれてしまうのは、私だけではありません。そもそもロンドンの冬は朝8時までは真っ暗、夕方4時になればとっぷり暮れ、雨も多く、本当にずっと暗いので、誰もが鬱々としがちです(何を食べてもすぐお腹を壊すし、英語も上達しない、私ももれなく冬の間ずっとウジウジしていました)。

だからこそ、朝6時から夜10時まで明るい「サマータイム」の間は皆なるべく外に出て遊ぼうと必死です。ロンドン中心地にある公園、リージェンツパークには野外劇場があり夏の間だけここでオペラやミュージカルを上演。他にも屋外シネマや、コンサートなどさまざまなイベントが街中で繰り広げられています。ロンドンに来たら劇場に足を運ぶ人も多いと思いますが、夏であれば野外劇場へ訪れてみてもいいかもしれません。

The Turn of the Screw (2018). Regent's Park Open Air Theatre. Photo David Jensen リージェンツパーク、昨年の野外劇場の様子。

⑪に続く
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MOMOKO YASUI
ロンドン在住編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英。英語のプレスリリースを読むのに膨大な時間がかかって現在、仕事が非効率。

Illustration=Norio