DYGLがロンドンに拠点を移した理由  ~野村雅夫のラジオな日々vol.27

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は3月に『A Paper Dream』をリリース。昨年から活動の拠点をイギリスに移した4人組ロックバンドDYGL(ディグロー)だ。


今はロンドンがおもしろい!

今でこそ当たり前のように使われている言葉、ヘビーローテーション。日本でこの呼称とシステムを導入したのは、今年6月に開局30周年を迎えるFM802だ。毎月洋楽と邦楽が1曲ずつ選定され、一部の専門番組を除く、ほぼすべての番組で繰り返しオンエアされる。これから面白くなってくるだろう新人がピックアップされることが多いのだが、どうやって決まるのかと言えば、実は僕たちDJや制作スタッフの投票が基本。

今回は、僕も推薦して1票を投じ、2019年3月の邦楽ヘビーローテーションを獲得した、2012年結成の4人組バンドDYGL(デイグロー)をピックアップ。え? これ? 日本のバンド? 初めて聴いた時にそう思った。ガレージ・ロックなサウンドは、懐かしいのにどこか新鮮。すべて英語詞で、しかも、聞けば今はロンドンに住んでいるという。どういうこと? 4月24日に"来日"した彼らが、翌日の僕の番組FM802 Ciao Amici!(チャオ・アミーチ)に生出演してくれた。

Kohei Kamoto (dr.)、Yosuke Shimonaka (gt.)、Nobuki Akiyama (vo. gt.)、Yotaro Kachi (ba.)

雅夫 DYGLのみんな、チャオ!

 チャオ

雅夫 はじめまして。よろしくお願いします。FM802 3月のヘビーローテーションを獲得していたバンドです。『A Paper Dream』という曲を僕らがかけだした頃、リスナーからも「この曲って、洋楽じゃなくて邦楽のヘビーローテーションなんですか?」という反応がありました。英語詞で歌っているし、サウンドもJ-POPとは一線を画している。日本のロックとも違うというのが大きな特徴かと思いますが、番組初登場なので、プロフィールを紹介いたします。2012年に結成です。2017年の4月には、なんとなんと、The Strokesのギターのアルバート・ハモンドJr.のプロデュースで1stアルバム『Say Goodbye to Memory Den』をリリース。日本の他、台湾、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国を回るツアーを敢行。これは、リリースツアーだという理解でいいんですかね?

4人 そうです。

雅夫 ライブがいきなり国境を越えちゃったということですね。実はレコーディング自体も当時はNYでやったんだよね?

Akiyama そうです。

雅夫 そして、2018年、これまで一度も名前の出てきていなかった国イギリスに、突如、活動拠点を移します。

Akiyama 確かにこれ(資料)だけ見てると、本当にすごいなぁ。

Kamoto 急だよな。

雅夫 風来坊感がすごい。

全員 ハハハ!

Shimonaka 次どこにしようか。ケープタウンとかがいいな。

雅夫 本当に先が読めないという感じなんですけど、今はイギリスに活動拠点を移して、ちょうど1年ぐらいになんのかな?

Shimonaka もうすぐ、そう、住み始めて1年くらいですね。

雅夫 せっかくUKに移ったので、今度はヨーロッパでもライブを行っています。あちこちいろんな国に行ってるんだよね?

Akiyama 最近ようやく行き始めたって感じですかね。

雅夫 たとえば?

Akiyama この間は5ヵ所回りました。ドイツでベルリンとケルン。あとはパリと、アムステルダムと、ベルギーのアントワープです。

雅夫 これはもう、そのうちイタリアに行ってリアル・アミーチになる可能性も、目と鼻の先っていう状況ですね。

Shionaka チャオだ。

雅夫 こんなキャリアのバンドもなかなかいないので、今日はしっかりお話を聞かせてください。ところで、今スタジオのサブの方にはDJのばんちゃん(坂東さえか)がおります。これは、あれでしょ? 先月のテキサス・オースティンで行われたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)仲間だよ。ばんちゃんは視察に行ってたもんね。

Akiyama そういうことですね。

雅夫 DYGLは、SXSWは今年が始めてではなくて、もう既に……?

Akiyama 3年連続3回目です。

雅夫 ちょうど3月はヘビーローテーションでしたから、ばんちゃんなんかはそのタイミングでオースティンで取材ができたというわけです。ていうか、今日はどんだけ地名出てくんだよ? 面食らうわ。

全員 ハハハ!

雅夫 まずは、この質問からいこう。なぜイギリスで活動しようと思い立ったんですか?

Akiyama きっかけは「好きだから」としか言いようがないんですよ。

雅夫 えっと、それまでに、バンドとしてではなく、それぞれ個人としてイギリスで音楽活動をしたいなと思えるほどに好きだった根拠ってのは、何かあるんですか?

Akiyama 詳しく考えると、いろいろな経緯がありました。そもそも、2017年の4月にレコーディングをするよりも前に、EPのレコーディングでLAに行ったのが、バンドとしてアメリカに出向いた初めての機会でした。その時点で、本当はもともとイギリスに行きたいと思ってたんですよ。バンドとしても、どうするかっていう話し合いを持った時に、当時、つまり2015年から17年くらいって、イギリスのバンドが本当に元気ないように見えていたんです。それよりもっとさかのぼった2000年代はすごい波みたいなものがあったんですけどね。

雅夫 ありましたね。

Akiyama それが今はどうなってるんだろうって思って。出てきたバンドを聴いてみても、全然面白く感じないし。メディアや業界が無理やり盛り上げようとしている感じに見えたのもあんまり良くなくて、今イギリスに行ってもなあって思えたんです。

雅夫 シーンとして吸収できるものが当時は少ないんじゃないかと。

Akiyama そうです。何も起きてないぞと。で、その時に、LAでちょうどBURGER RECORDSの周辺とか、あの辺の音楽のシーンがすごい盛り上がっていたので、自分たちのやりたいこととしては、面白いことが起きている場所で、現場感を見たほうが絶対にいいだろうってことで、当時はLAに行ってライブをしたり、レコーディングをしたりしてました。でも、そもそも音楽的なバックグラウンドとか、意識とか、価値観でいえば、イギリスの音楽からの影響が僕らは結構大きかったので単純に好きなバンドがどうっていうよりも、ロンドンの規模感なんかも全部含めて、いろいろ考えてたことと合いそうだなというのもありました。で、徐々にロンドンなどイギリスのいろんな都市のまた新しい若手のエネルギーとか流れみたいなものも変わってきたように見えたんです。ちょうど自分たちもレコーディングをするかしないかってとこで一度延期してはいたんですが、その時にこれからどうやってやっていくかと考えた時に、正直なところ、日本の音楽シーンも、社会全体としても、かなり閉じているように見えるし、このまま日本でやっていると、視野も狭まってきてしまいそうだし、新しい刺激にしても、違うカルチャーからの混じえ方だったり、新しいものを見る視点とかも踏まえれば、外に出たいなという結論になりました。実際、話し合いはかなりしましたけどね。

雅夫 そりゃそうだよね。生活をまるごと移すわけだから。

Akiyama まあ、これから先どうやっていくか、それこそ分かんないですけどね。ケープタウンに行くのか(笑) 台北に行くのか。東京やロンドンに戻るのか。でも、その時の流れで言えば、ロンドンが一番おもしろいってことになりました。

雅夫 今ってネットもあるし、新しい音楽だって、昔みたいにタイムラグがない状態だから、すぐに聴けるじゃない? 環境だって、スタジオ周りの技術なんかが、日本は劣っているってことも決してないと思うんです。だけど、ミュージシャンだって人間なわけで、日々の生活どんな刺激があるかって大事ですよね。その場所だから生まれてくるものってあるはずなんですよ。だから、このグローバル社会になっても、その土地々々のシーンっていうのがあると僕は思うんです。じゃあ、DYGLが何を求めるのかという時に、今はロンドンが面白いんじゃなかろうかと思って行ってみて、実際のとこはどう?

Akiyama 実際に面白いです。自分たちが思ってたのと違う視点も結構あります。

雅夫 たとえば?

Akiyama たとえばですね、自分たちが、いや、特に自分が好きだと思っていた音楽は、ゼロ年代とかの流れで行くと、もう少し白人的なものが多くて、そこに黒人的なものもちょっと混ざってるってぐらいにしか見えてなかったんです。ただ、何人だろうが音楽が好きだったから、別にそれは気にしていたわけじゃなかったんです。ただ、実際に行ってみると、今があの頃とどれほど違うものなのかは僕には分からないですけど、もっともっと細かく人種や文化が混じっているんです。中東の人もいるし、日本から見れば遠く思えていたアフリカもイギリスから見るとすごく近く感じて、南米の人もいるし、ヒスパニックはアメリカよりは少ないけどいるし、アジア人もたくさんいて。しかも、ロンドンに来ている人たちは、それなりにアートや音楽が好きな人が多いんですよ。それぞれのバックグラウンドを持った人たちが、また新しい現代美術や音楽を生み出しています。そういう人が、また古典的なロックが好きな人とつながっていたり。本当にいろんなことが起きてるんです。ほんとうの意味でのグローバルな感じがします。白人的でも黒人的でもアジア人的でもない、もう少しグローバル的なフラットがあるなと。ロンドンで学べていることの中で、それが一番いいことですね。

雅夫 それはすごく羨ましいですね。今はAkiyamaさんが代表して話してくれましたが、他の3人は「本当はロンドンは嫌なんだよ」っていう意見はないですか? 

4人 フフフフ

夫 本当は飯とか吉野家行きたいんだよね、みたいな。

Akiyama 吉野家は俺も行きたい。

雅夫 でも、それを上回る魅力が共通してみんなにあるって感じなのかな?

Shimonaka 音楽的にはイギリスはすごく盛り上がってきていると思いますね。もともとベースミュージックとかがすごく強かったと思うんですけど、バンドもすごく元気になってきているなと感じます。

雅夫 ちょっとまだ日本にはUKのバンド、ロックシーンの勢いが届いてないなと僕は感じてるんだけど、実際はふつふつと来ているんだ。

Akiyama 日本で受ける洋楽ってやっぱりあるじゃないですか。日本のポップの耳を通しても耐えられる強度というか、その手のこっちでもウケそうなUKロックバンドという意味ではあまりいないかもしれないです。

Shimonaka 歌があんまりメロディアスじゃなくなってきたので。グルーヴ・ミュージックの影響でバンドもグルーヴ重視ですし。

Kachi カッコいいのがいるんだけどな。

雅夫 いろいろとメッセージも来ています。たとえば、この方は遠く石川県からスパーキーさんという女性の方。「『A Paper Dream』は個人的にもヘビーローテーションでたくさん聞きました。コーラスやハンドクラップの部分が新鮮で気に入っています」ですって。この『A Paper Dream』が向こうで録音した初めての曲になるのかな?

Akiyama 別の曲を先にやっていたんで、2曲目ですかね。

雅夫 違いってのはあります? たとえばニューヨークで録音したアルバム『Say Goodbye to Memory Den』と比べて、音に違いが出てきたとか、メソッドが変わったなんてことはありますか?

Akiyama 日本と海外って構図でいつも語りがちですけど、アメリカとイギリスも音はだいぶ違うんですよ。

雅夫 違うよね。

Akiyama その中で、さらに人によっても違うので、イギリスに行ったからどうかっていうよりも、イギリスに行って出会えたこの人だからっていう、もう少し細かい話になりますね。今回やったローリー・アトウェル(Rory Attwell)という人は、もともとテスト・アイシクルズ(Test Icicles)というバンドでやって、その後はソロでウォーム・ブレインズ(Warm Brains)というプロジェクトをやったりとか、ダイダイダイ(Die! Die! Die!)っていうバンドのサポートをやったりとか、結構いろんなところで自分の音楽活動もしてきたし、プロデュースだとPalma Violetsとか……

Shimonaka ヴェロニカ・フォールズ(Veronica Falls)とか。

Akiyama そうだね。結構音楽的には自分たちも好きで聴いていたようなのをやってた人なんです。彼の音も、アメリカよりはもう少しタイトで繊細というか。こういう音が欲しいなって曲を書きながら思っていたものをそのまま出している人だと、やっぱりやりやすいなと思いました。

雅夫 面白いよね。話を聴いてたら、これはもう本当に「来日」ですよ。持ってくるエピソードにに来日感があるわ。海外でレコーディングしましたとか、ちょっと暮らして曲作りしましたとか、そういうのはもちろん他にたくさん例があるけど、ここまでどっぷりってのは少ないもの。これって志だと思うんだよね。自分たちのやりたいことのイメージが最初からはっきりしているから、日本にとどまっていたいなんて気持ちは端からないでしょ?

Akiyama そうですね。高校生の時なんかは、もっと出たい気持ちが強かったんです。今の方がもっとフラットに見られてますけど。あの時は、自分の欲しいと思うものも、面白いと思えるものも、日本には全然ないと思ってたから、とにかく早く出ちゃおうって感じでした。でも、それでも大学に行って、この4人で出会えたので、縁だったんだなって思います。でも、当時から俺はやりたいことは全然変わってないし、今やってることも正しいと思ってやっているし、結果も出ているんで、満足です。結果って言っても、売れた売れてないっていうよりは、自分たちがやりたいことをやって、その好きな音ができてきたってことです。現時点で納得のいってない部分からも、また次にやりたいことが見えてきているし。すごくいい方向に行けているとは思います。

雅夫 カッコいいわ。ぜひ突き進んでほしいです。若いミュージシャンで日本を窮屈に思っている人もいると思うんだ。

Akiyama たくさんいそうですね。

雅夫 そう。日本のシーンや音楽ビジネスの世界で結局うまくいかなくて、もう趣味でしか続けられないって人もいると思う。だけど、世界はもっと広いんだぜと。

Akiyama そうなんですよね。

雅夫 そういう視点をDYGLがこうして彼らに提示できているのは、すごく大きな夢物語だと思う。武道館を目指すとか、京セラドーム大阪でライブをやるとか、いずれも大きな夢だけど、それだけじゃないよっていうかさ。もっと自由でいいんだってことをDYGLが示しているのが、僕には心強く思えます。さ、日本でライブがいつ観られるのかってことですが、フジ・ロックとライジング・サンでの予定が決まっています。でも、その前に一度ロンドンには戻るんでしょ?

Akiyama はい、再来週には一度帰ります。

雅夫 これから暑くなるし、ロンドンとこちらとでは気候も変わると思うんで、体調だけは気をつけてくださいね。今日は本当はもっとリスナーからのメッセージも紹介したかったんだけど、バンドとして何を考えているのかっていうことを聴いておきたかったんで、あまり取り上げられずにごめんなさい。でも、多くの反響が僕の手元に届いているわけです。今日もこれ、生放送でしっかり予定時間を超過してしまいましたが、それでもまだまだ聴き足りないですわ。また何か策を考えましょう。音楽でも、その周辺カルチャーでも、何でもいいので、面白い情報をまた教えてほしいなと思います。今日スタジオに迎えたのは、DYGLの4人でした。ありがとうございました。

4人 ありがとうございました。

この放送の翌日、バンドから嬉しい知らせが届いた。まず7月3日にアルバム『Songs of Innocence & Experience』を発売。そして、7月21日からは、待望のJapan Tourが始まるというのだ。かなりの本数で全国を巡って、ファイナルは10月19日の東京 EX THEATER ROPPONGI。日程について、詳しくはこちらでご確認を。


野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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