今ミュージシャンは基本に立ち返るべき! くるり岸田繁~野村雅夫のラジオな日々vol.46

現在、関西のFM COCOLOを中心に、DJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、 ニューアルバム『thaw』をリリースした 、くるりの岸田繁さん。

まだ誰も聞いたことがない音を作ることがミュージシャンの使命

僕が月曜日から木曜日まで、毎朝5時間生放送している、FM COCOLO CIAO 765。withコロナ時代のエンターテインメントの未来をゲストと一緒に考える機会を持ちたいと、THE SHOW MUST GO ONというコーナーを6月から週に一度の頻度でスタートさせた。7月14日(火)には、くるりの岸田繁さんがリモート生出演。今回はその模様をお送りする。コロナ禍で急遽発売されたニューアルバム『thaw』のこと。配信ライブについて。彼らが2007年から主催している京都音楽博覧会のこと、そして現状の音楽ビジネスに対して抱いていた違和感など、示唆に富んだ話をしてくれた。僕と岸田さんのやり取りは、関西での放送だけに、関西弁が頻出するもので、少しは言葉を読みやすいように直してあるが、基本的にはあえてそのまま採録してあるので、あらかじめご承知おきいただきたい。

――今週はくるりの岸田繁さんとリモートでお話いたします。繁さん、チャオ!

チャオ! リモート・チャオですね。

――初のリモート・チャオ。というか、この番組自体に初登場なんですよ、実は。

そうなんですよ。ありがとうございます。

――とんでもない。もっと早くご出演いただこうとか思いながら… 繁さん、10時とかやったら起きられるんちゃいますか、とか言って…

ハハハハハ。

――京都から来れるんちゃいますか、と…

そうそう、わりと朝は早いんですけど… せやな、ルートは京阪かな…

――京阪かな? 阪急かな? ってね、言っておりましたが、いつの間にやらコロナの時代に入り、ゲストを迎えるのがままならい中、こうしてTHE SHOW MUST GO ONというコーナーを始めましたんで、繁さんにもぜひ、今の心境というのを、語っていただきたいというしだいです。

はい。

――まずコロナでライブやら何やらができないぞとなってきた時点で、くるりはツアーを控えている状況でしたよね。当時を振り返ると、中止の決断というのは苦渋だったと思います。協議はすんなりいきましたか?

やっぱし、僕は京都に住んでて、他のメンバーとかスタッフは東京にいらっしゃる方が多いんで… 東京はやばいんちゃう? やばいんことになるんちゃう? みたいなニュースがなんとなくチラホラ出だした時くらいに、ちょうどツアーのリハーサルが東京であったんです。僕、ビビりなんで、その時に、「マスクちゃんと用意しといてや」とか、「スタジオ換気してや」みたいなことを、スタッフに徹底して、お願いしながら、東京へ向かいました。ただね、なんとなく現場の空気感というのは、たぶん大丈夫やろうみたいな感じで…

――当時はね…

ほんで、なんちゅうかなぁ… 一応、僕も含めて、メンバーはビビりなんですよ。

――はい。

みんなね、マスクしたままコーラスしたりとか…

二人 ハハハハハ。

でもね、やっぱりコンサート業界っていうんですかね、音楽業界っていうんですかね… やっぱり大きいものを進めると、その… なんて言うの… 大きい車動かしたら、止まんのも大変やないですか。

――確かに。

ブレーキかけんのも大変。で、ちょっとこれはちゃんと話さなあかんな、と思って、僕もその時に感じてたことを全部言いました。「ちょっとこれ、最悪のケース考えときましょう」みたいな話をしたんです。3月の頭にしたのを覚えていて… でも、それと同時に、たぶん色んな計算が始まるわけやないですか。

――そりゃ、そうですよ。算盤もはじくし。

算盤はじきながら、胃が痛い毎日でしたけど、「まぁ、なんとかなるやろう」っちゅう感じで、わりと早い段階で、コンサートは中止を決めましたね。

――くるりの活動はもちろん、繁さんの場合には、大学で教えてもいらっしゃいますから、新年度はどうしようっていうことも当然考えないといけない。大変です。

はい。

――そんななかで、アルバム『thaw』をリリースされました。 “thaw”というのは、「解凍する」とか「溶かす」なんて意味がありますけれど、表には出さずにいた過去の曲をこの機会にまとめて聴いてもらおうと色んな作業されて、かなりのスピード、急遽ってレベルでのリリースでしたよね。まずは、配信で4月15日、そしてCDではさらに4曲を加えて、5月27日の発売。こんなにも機敏に切り替えをして動いていったのはどういう思惑だったんでしょう?

一言でいうと、思いつきですけど(笑)。やっぱりツアーがなくなるっちゅうことで、くるり自体の活動が止まってまうことになるやろうなと思ったんで、そのような状況であってもできることを、かなり先回りしてやっとこう、みたいな話から出てきたことやと思います。

――「ライブをしたい。ライブをやらないと」みたいな声は春からよく耳にして、僕だって当然そういう想いはあるんですけど、作品を出す、つまりまだ誰も聴いていないものをこの機会に聴いてもらおうって、音楽家のある種の使命みたいなものも感じたんです。

はい、はい、はい。やっぱし、ここ10年くらいかな、特に2010年代というのは、ネガティブな言い方をすると、みんなCDを買わなくなって、例えばYouTubeやApple MusicやSpotifyやそういうので音楽を聴くようになって、結局、物を作って売る、みたいなところっていうのがね、私たちミュージシャンの肌感覚で言うと、物を作って売れるなんて、Tシャツとかタオルなんですよね。

――グッズ類ですね。わかります。

ちゃんと僕らのご飯代になるのは、Tシャツとタオルなんですよね。つまり、僕ら、Tシャツ屋さんなんですよね、普段は。本来僕たちは新しい音楽を作って、それを皆さんに届けるのが役割・仕事なんですけど、そのシステム自体がおかしくなっていると僕は考えていて…

――それは、コロナのこの騒ぎが起きる前から、何となく違和感は覚えていたということですね?

うん。めっちゃくちゃ違和感があって… 本来、自分たちは音楽を作って、それを売って、生活をするということが理想と言ったら理想なんですけど、あまりにもその形が変わっていたわけです。そこで、僕たちミュージシャンは基本に立ち返って、一所懸命に物を作って、それを売りましょう。僕らはもともと比較的そうしてきた方やけど、改めてそこをやっていきましょう、という話は、メンバーやスタッフとよくしています。

――大きなライブ・ビジネスというものが、繁さんの言葉を借りれば、急ブレーキがかかったような状況で、シートベルトなんてみんな締めていたわけじゃない。本当に大変な思いをされている関係者が多いなか、くるりは早々に作品をリリース。この動きは誰もがやっていることじゃなかったんで、質問しました。さらに言えば、もう1つ、岸田繁のソロ名義で『ドンじゅらりん』を6月3日に配信されました。

ーー繁さん、これ大好評!

ねぇ。結構、子供の幼稚園の親御さんとかに顔向けできるわ~みたいな。

――うちのリスナーにも子育て中の方も結構いらっしゃるし、テレビで流れていたものが、今度は岸田繁さんの歌声で聴けて嬉しい、なんてリクエストも届いてましたよ。

ありがとうございます。

――この曲を作ってはる頃は、まだコロナとか言ってなかったですもんね。

そうですよね。

――河原町あたりで待ち合わせして、飲みに行った時あったでしょ?

あー、そや。そや。

ーー「今な、子供向けの曲作ってんねん」って、言うてはったのを思い出しますよ。あれからすっかり外食する機会も減ったコロナの時代でございます。こちらは、大阪市北区のマサオミさん、男性の方なんですが、「コロナ禍で触れた映画、音楽、本で特に印象に残ったものはありますか?」という質問です。

あー、どうでしょうね…

――エンタメは積極的に摂取していました?

いや、元々、あんまり僕、そんなに摂取しない方なんですけどね… ただ、音楽を聴く量は、コロナで自粛って前よりは増えましたね。音楽聴きたいなと思うことがやっぱし増えてきて、ちょこちょこ聴いていますね。

――だからこそ、新しい曲を、少なくともリスナーが全く知らなかった曲を届けてくれるっていう『thaw』というアルバムは、自粛期間にやっぱり響くものがあったんじゃないかなぁ、と。さらにリリースもので追加しておきますと、くるりのミュージックビデオ集が9月23日に発売が決定です。

はい、そうです。もう、あるもん全部出そう、みたいなことになってて…

――ハハハハハ。まあね。

溜めててもしゃあないし。ミュージックビデオも、すごいぎょうさんまとまってるんで、それも出して… あと、くるりで言うと、前作、『songline』より前からずっと作ってる、ダラダラ作っているやつあるんですけど、それとかも、もうはよ出そう、と、今、マイペースにペース上げながら作っています。

――そうなんですよね。どうやらまた製作されているようだって、僕もSNSを通して気づいておりました。作品はむしろどんどん作る方向に向かってらっしゃるんだなぁと… それにしても、忙しいですよね! 大学の授業も大変でしょ?

学校の授業はね、完全にオンラインでやっているので… 結構、学生さんも大変… 僕が持ってるのは2回生と3回生それぞれのクラスなんですけど、Zoomでやるかポータルのサイトを使ってやるか、あるいは何でやるみたいなこととか、色んな会議や打ち合わせを経て、学生たちともコミュニケーションとって、結局、今LINEで全部やっています。

――すごい。なんかSNSにチラッとやり取りの一端をアップされていましたけど、こりゃ大変だわぁ、と思って。だからますます過密スケジュールですよね?

とは言うても、やっぱし、ツアーに出えへんというのは、すごく寂しくもあり、でも楽でもあり… 色々、変わりますよね。

――そんな中、7/11に無観客配信オンラインライブハウス「LIVEWIRE」でね。くるりが「LIVEWIRE」の先駆けという感じで、京都・磔磔(たくたく)でライブをしました。堺市の50代女性、hanaちゃんからメッセージが届いています。「くるり in 京都・磔磔」の話を伺いたいです、と。埼玉の天城のはるちゃんからは、「有料配信ライブが今の私の生き甲斐ですが、岸田さんは配信ライブというものをどう考えてますか? この先のこととか、わかる範囲で答えてほしいです」と。

私もいくつかチラチラと見たんです。見たのは無料のものが多かったんですが… まだみんな色んなことを試してはる段階ていうんですかね。僕らも「LIVEWIRE」やって、とりあえずまずやってみようというとこでしたかね。これからどうすべきかって、まだ真面目に考えても仕方ない段階っていうか。実際、私らもやってみて思ったんが、この人たちと一緒に演奏するのがもう楽しい、やっぱり楽しいな、ということの確認。

――それは見えてた!

それがすべてやったんで…

――伝わってきましたよ。

変な話ですけど、配信ライブが今後、実際に我々にとっての経済活動になるのかどうか。ちゃんとそれを軸に活動していけるのか。それは、まだわからないですよね。これから考えていくことですし。

――そうですよね。でも、くるりとしてのひとつの形、サポートも含めたくるりの色んな編成も見せて変化をつけながら、最高のセットリストで魅せてくれたことは事実です。何より、磔磔っていうあの場所でくるりが初めての配信ライブをやるっていうことにグッときたって方は非常に多かったと思います。僕も含めて。繁さんの眼鏡がどんどん曇っていく、その向こうに見える笑顔。僕は目に焼き付きましたよ。その場に居ないのにね。

お客さんがその場にいはるから、汗をかくものだと思ってたんですけど…

――そうでもなかった、っていう。どんな状況でも、ライブでは汗はかく。

汗かきましたね。ほんまに暑かった。

――それくらい良いライブになっていました。

ありがとうございます。

――京都音楽博覧会、音博(おんぱく)の発表もありました。9月20日です。

はい。一応、そういうことになってて… 実地での開催はありません。

――オンラインで!

オンラインです。で、何やるかっていうのも、決まってて言えへんようなことがあるかって言ったら、まだ特にないんですよ。

――ハハハハハ。

構想してることはあって、それは実現していきたい。まだこれからですね。用意して、一応やろうとしてることがあるので、それが決まったら、皆さんにお伝えしていきたいと思ってるんですけど…

――わかりました。僕も音博にはちょっと関わらせてもらっていますし、ひとりの京都市民として、すごく大事にしたいフェスですから、何かできることがあったら、言ってください。

それ、連絡しようと思てたんで、連絡しますわ。

――はい。僕はそんな力になんないけど、一緒に作れたらなぁ、とすごく思います。

やっぱしオンラインやったらね、ちょっと仕事増えるんですよね。実際、授業もそうやし、ライブやるにしても。せやから雅夫ちゃんこれ頼むわって言って、「えっマジでー!?」みたいな…

――全然、大丈夫。「えっマジでー!?」って、いつでも言えるように待ってますから。喜んで言いますから! よろしくお願いします。では、最後に『thaw』からこの曲いきましょう。コロナの前に作っていたなんて、びっくりでした。今、この世の中に響く曲です。繁さん、紹介いただけますか。

はい。くるりで『心のなかの悪魔』です。

――岸田さん ありがとうございました。

ありがとうございました。

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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