星野リゾートのスーパー秘書は既成概念を吹き飛ばす「私にしかできないことを!」vol.02

ボスのスケジュール管理、社内調整などをベースにしながらも、「その先」をボスは秘書に求めている。そしてそれに応えるべく、秘書たちは懸命に独自の仕事術を模索していた。今まさに、秘書の新時代が到来!? 一歩も二歩も先を目指す、新たなる秘書の世界の第2弾!

月半分の出張にもスキーにも(!?)すべて同行する、1年交代の“アシスタント

星野リゾート

代表 星野佳路(写真中) 元社長室 現『界 箱根』総支配人 池上真敬(写真左) 2002年入社。'03年アシスタントに。途中リゾナーレ八ヶ岳での業務も経験するが、初代アシスタントとして1年間星野社長と行動をともに。2013年より現職。 社長室 佐野 歩(写真右) 国際協力銀行を経てJICAに転籍し、アフリカ・セネガルに3年赴任。2013年4月同社に入社しリゾナーレ熱海で勤務ののち、'13年12月より現職。

秘書でなく“アシスタント”その言葉に意味がある

 任期1年というユニークな秘書システムは、約10年前、会社規模の拡大で経営陣とスタッフに距離ができ始めたことを危惧した星野佳路社長が発案した。
「入社3~4年目の若手から“アシスタント”を任命。一緒に行動し社長の仕事はもちろん会社全体を知ってもらおうと考えたんです。そしてそこで得た情報は、同期の若手たちに発信してもらう。社長と専務がケンカ中という情報でもOK。包み隠さず本当の会社の姿を見せることで、インフォーマルなパイプ役になってもらえればという狙いがありました」(星野社長)

in Bali 東京でも沖縄でもバリでも、この横並びスタイルで仕事する。

 今年のアシスタントの佐野歩さんは言う。
「社長が出した条件は、車の運転、フランス語、そしてスキーができることだったそうです」
 この必要条件も各年度の重点事業によって毎年変わる。ニュートラルな選定のため、決定は人事に任され、事前の社長面接もない。佐野さんも社長も、顔を合わせたのはアシスタント配属当日だったそうだ。そんな彼女の業務の大半を占めるのが出張。全国そして海外へと月の半分以上出張する星野社長に、佐野さんはすべて同行する。
「一緒にいる時間は家族より長いです」(佐野さん)
 その理由について「若いスタッフだからこそ、会社、さらには観光産業をもっと大局的に見る経験を積ませたいんです。だから実際に現地に行き、普段会えないようなさまざまな人に会うことが重要なんです」と星野社長は語る。

in Vail 佐野さんが調整して作った、仕事の合間のスキー時間。


佐野さんも「海外の大都市で日本のホテルを成功させるという夢に、星野がいかに本気で着実に取り組んでいるかがよくわかります」とその意義を実感。
「社長が海外案件に比重を増やせるよう、少しずつ国内案件の会議を減らすなど、限られた時間のなかで今、社長が取り組みたいことは何かを考えて、仕事のバランスを調整しています」

COMPANY DATA                           1914年軽井沢に星野温泉旅館開業。'91年、4代目・星野佳路が代表取締役社長就任。'95年、星野リゾートに社名を変更し、2005年『星のや 軽井沢』を開業。『リゾナーレ八ヶ岳』などホテル・旅館の再生案件も数多く手がける。'15年に初の海外事業『星のや バリ』を開業予定。

本社入り口の前で。星野社長も佐野さんも常にこのリュックスタイルで国内外を飛び回る。「旅芸人一座と呼んでます(笑)」(佐野さん)

プライベート重視のため夜の会食をせず、出張時のレンタカーの運転も疲れた時は交代してくれるなど、フラットな意識で自ら行動する社長。ゆえに、頭を悩ますことはあまりないという佐野さん。ただ唯一気を遣うのが、スキーのスケジュール調整だそう。「年間60日滑る」と宣言している社長のため「出張先の少しの時間でも滑れるように日程を組みます。おかげで6時起きでゲレンデに付き合わされますが(笑)」。そう、だからスキーは星野社長曰く「アシスタントの絶対条件」なのだ。
 アシスタント経験は昇進ステップには関係ないと星野社長は明言するが、アシスタントを経験したスタッフが総支配人を目指し海外留学をするなど、この業務で得た経験は確実に社内に、そしてそれぞれの人生に変化をもたらしている。初代アシスタントで現『界 箱根』の総支配人・池上真敬さんもそのひとり。

社員は決まった机を持たず、毎日思い思いの席へ。社長も同様。佐野さんと社長が座った場所がその日の社長室。


「社長が目指す星野リゾートの『フラットな文化』を肌で感じられた貴重な経験でした。総支配人として、向かうべきは会社側ではなく、現場やスタッフ側だとの認識が今の仕事の姿勢になっています」(池上さん)
 佐野さんも「マーケティングなどで海外事業に貢献したい」と次の目標も明確。他社にないこの関係を星野社長はこう説く。
「相手の強みや長所は生かし、弱点はこちらがサポートする。いわば『社長室』というチームを作る感覚です」
 司令官とプレイヤーではなく、チームメイト。だからアシスタントと敢(あ)えて言うのだ。
「1年という期限があるから、集中し必死に吸収したいと思うんです」(佐野さん)
 毎年編成される最大限の力を発揮する最強チーム。それが星野リゾートの社長室なのだ。


Text=神舘和典、上阪 徹 Photograph=星 武志、岡村昌宏

*本記事の内容は14年8月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
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