世界最大規模の音楽フェスSXSW見聞録~野村雅夫のラジオな日々 vol.3~

大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな顔を持つ野村雅夫さん。この連載では、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードなどを披露してもらいます。

最先端の音楽の街、オースティンへ

「雅夫さん、アメリカ行ったことありましたっけ?」

例によって、FM802のプロデューサーが聞いてきた。「ないよ。なんで?」とすかさず質問で返した僕に、「また春から忙しくなるでしょうから、行ってもらうなら今年かな」と彼は説明を始めた。

今でこそ全国あちこちにライブサーキットと言われる形式の音楽イベントがあるが、その先駆けにして日本最大級の規模を誇るのが、FM802が毎年秋に大阪アメリカ村を中心に開催しているミナミホイールだ。首からぶら下げたパスを見せれば、20ヶ所以上のライブハウスに出入り自由。たとえば去年なら、3日間の会期中に400組以上のミュージシャンが出演。僕たち関係者ですら全体を把握しきれないような規模と情報量なので、参加者は自分の興味の赴くままにミナミを回遊し、イキのいい新しい才能を自ら"発見"するショーケースイベントだ。

FM802のアート・プロジェクトdigmeoutがイラストを担当。一昨年はYUGO.だった。

19年間続けてきたミナミホイール。秦基博、いきものがかり、RADWIMPS、back numberなどなど、今や日本トップレベルで活躍するミュージシャンたちも、キャパ数百人程度のステージにかつて立ってきた。今や毎年チケットがソールド・アウトするこのお祭りには、実はお手本がある。それが、アメリカのサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)だ。

テキサス州オースティン。保守的な州の中のリベラルな街。1987年。SXSWはサーキット型の音楽フェスとしてスタートしたのだが、その後、続々と多ジャンル化していった。今や映画とインタラクティブ(テクノロジー)、そしてコメディーなど、様々なジャンルの新しい動きをキャッチできる祭典へと変貌している。

SXSWが開催されるテキサス州オースティンの街並み。

話を元に戻そう。僕がプロデューサーから持ちかけられたのは、そのSXSWの視察というわけだ。年度末で何かと忙しない時期ではあるが、これは貴重な機会。断る理由がない。しかし、SXSWは10日間もある。毎週金曜日の生放送はどうなるのだろう? もしや、これは視察に休暇を抱き合わせた僕へのギフトなのでは...。はやる気持ちを抑えきれずに旅程を確認すると、オー・マイ・グッドネス! 超の付く弾丸だった。

3月12日、月曜日。僕は午前中にテレビのレギュラーの仕事を終えてから伊丹空港へ。成田を経由して、テキサス州ヒューストン。またトランジットをして、12日の現地時間19時頃にようやくオースティンに到着。車を借りてホテルにチェックイン。市内中心部の会場エリアに入った頃には21時を回っていた。長過ぎる月曜日である。

帰路がまた強烈だ。14日、水曜日の朝6時にホテルを出て、京都の自宅に戻ったのは木曜日の22時。丸2日も費やしとるやないか! オースティンでの実質の滞在時間は30時間ほど。しかも、その間に2度の夜がある。これを弾丸と呼ばずしてどうする。というわけなので、もちろん全体像を把握することなど到底不可能だったわけだが、断片を垣間見るだけでも、その規模と情報量に驚かされたのでここに少し報告してみよう。

日付が変わろうとしても、街の熱気は醒めない。

音楽、映画、アート、コンテンツ盛りだくさんのSXSW

初日、オースティンは夜だった。パスの交換時刻を過ぎていたので、仕方なく下見がてら街を散策することに。初めての土地で右も左もわからないので困るだろうなという予想に反して、事はスムーズに運んだ。なにしろ、音の聞こえる方へ行けばいいのだ。車両規制をかけて歩行者天国となった旧市街の目抜き通りには、パブやレストランが立ち並び、各店内からはバンドの生演奏やDJプレイが爆音で外に漏れ聞こえている。さらには路上でのパフォーマンスもあるし、飲食店のルーフトップテラスからロックバンドのライブが鳴っていたのだ。野外での音規制に厳しい日本では到底ありえないこと。中心部に住んでいる人が少ないという要因もあるのだろうが、こんな状況が夜中まで続くのだから、いかにオースティンが街ぐるみでこのイベントを開催しているかがよくわかる。テキサス風のメキシコ料理「テキシカン」と地元のクラフトビールで長旅の疲れを癒やし、ホテルで泥のように眠った。

スパイシーな料理と、地元のペール・エールは最高の組み合わせ。

2日目にして最終日。コンベンション・センターにあるパス交換所へ朝から向かった。なにしろ多ジャンルがクロスオーバーしていて、10万人近い参加者がいるので、パスには「音楽」「映画」というように種類があって、その分野の催しには優先的に入ることができる仕組みだ。受け取ったパンフレットやスマホの専用アプリを見ると、映画だけでも10を超えるスクリーンで朝から夜中まで上映が同時多発的にあるではないか。僕が到着する前日にはスピルバーグがやって来て、新作『レディ・プレイヤー1』がサプライズ上映されていたように、ビッグ・ゲストが登壇するシンポジウムやトークショーもそこに加わってくる。若手のフィルムメーカーたちは、そんな中でハリウッドへの切符をつかめやしないかとしのぎを削っているのだ。観たい。フレッシュな映画をどんどん観たい...。

ふたつのライブハウスが裏で繋がっていて、幕間にはみんな感想で盛り上がっていた。

が、しかし! イベント滞在時間がどんどん短くなる中で映画を観るのはまずい。時間を食い過ぎる。それはまた次回だ。次回なんてあるのか? あると信じるしかない。ライブが始まる夕方までの時間を使って訪れたのは、インタラクティブの会場の一部となっている高級ホテル。今やライフインフラ化しているTwitterも、2007年にここで披露されて火がついた。どんな技術に出会えるのか。人だかりができていたのは、やはりVRやAR(拡張現実)の体験型展示を集めたホール。僕はそこまで興味があるわけではないが、インドの女性刑務所のキツい現実を捉えた短編ドキュメンタリーを鑑賞して、このジャンルにはVRは確かに有効だろうと実感することができた。

VRで監獄内を疑似体験してキョロキョロする僕とスタッフ。

さて、音楽だ。まず向かったのは、yahyel(ヤイエル)という日本のバンド。ライブハウスの外には長蛇の列! Musicパスの特権で列をかいくぐって優先的に入れてもらったら、ジェイムズ・ブレイクを彷彿とさせるオルタナティブR&Bのサウンドが鳴り響いていた。リズムが複雑になるところでは神々しくすら思えるパフォーマンス。オーディエンスはビール片手に、みんなゆったりと身体を揺らしていて、ボーカルの池貝が淀みない英語で少し煽ると、声を出して熱く応答する。折しもyahyelはセカンド・アルバム『Human』を出したところ。SXSWで手応えを掴んだのではなかろうか。

yahyelのサウンドでたゆたうオーディエンス。

屋外の比較的大規模なステージから小さなパブまで、非公式のものまで合わせると数限りない音楽に接することができるSXSWで印象的だったのは、大きな教会でもライブがあったこと。「お静かに」という札の掲げられた厳かな礼拝堂で、まさかサイケなロックを聴くことになるとは...。これも街をあげての催しであることの好例だろう。

「イギリス音楽大使館」という名のライブハウスでは、今年話題のPale Wavesも観ることができた。

最後の晩餐は、SXSWに10回以上通っているという東京のラジオ・ディレクターに教えてもらった最高のハンバーガー・ショップ。少しレアに焼かれたバッファローのハンバーガーに、またもや地元のクラフトビール(人口85万の都市にいったい何種類あるんだ!)を合わせ、たっぷり身体に染み込ませた音楽の余韻とともに味わい、視察を締めくくった。

絶品ハンバーガーができあがるのを待つ間に、まずはクラフトビールで乾杯!

今年のミナミホイールは20周年。日本のミュージシャンにとっての登竜門となっている現状は維持しつつも、さらに何かクロスして文化的奥行きを出せないか。昨年はビブリオバトルも開催したが、それでは映画はどうか。街をもっと沸かせることはできないか。FM802はそんな目論見で知恵を絞っている。

「雅夫さん、オースティンはどうでしたか?」

プロデューサーが聞いてきた。「刺激的だったけど、いかんせん滞在時間が短くてね...」と漏らすと、そりゃそうだろうという顔をするので、数年前の視察で彼がどれくらい滞在したのか尋ねると「1週間くらいだったかな」とこともなげに言われた。

そこへ近寄ってきたのは、SXSW経験者である局のスタッフ。

「雅夫さん、NASAは行きましたか?」

「は?」

「僕が行った時は、長かったんで、1日休みを作ってNASAの見学に行ったんですよ〜」

なんだよ、も〜!

FM802 Ciao! MUSICA(fri. 12:00-18:00)番組ウェブサイト  

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野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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