【COOインタビュー】EVならではの安全で楽しいスポーツカー「トミーカイラZZ」とは?

運転席というよりも、コクピットというほうがふさわしい。シートは低く、体をガッチリとホールドしてくる。緊急停止を含めてもボタンは2つしかない。操作はいたって簡単だ。ブレーキペダルを踏みながら、スイッチをオンにして、小さなツマミをひねって、Dレンジに入れるだけ。ブレーキペダルから足を外すと、ゆっくりクリープが始まる。アクセルを踏んだ瞬間、キューンという小さな音とともに、京都生まれのEV「トミーカイラZZ」がパワフルに走り出した――。


「僕らは日本のテスラになるつもりはありません」

クルマ好きなら、「トミーカイラZZ」の名に記憶があるかもしれない。1997年に京都の小さな自動車メーカー「トミーカイラ」から発売された国産のライトウエイトスポーツカー。約700kgの軽量ボディに直4 2.0Lのパワフルなエンジンを搭載したこのクルマは、生産台数は206台しかなかったものの、その美しいデザインとドライビングの楽しさを追求したスペックで、マニアの間では高い評価を受けていた。

その「トミーカイラZZ」がEVとして復活したのが2014年。京都大学発のベンチャー企業GLMが初代のコンセプトを受け継いだEVを開発し、発売。大手メーカーとはまったく異なる姿勢で作られたこのEVは、現在でも進化を続けている。2020年には、大手のラインナップが出揃い、インフラも整備されるといわれるEV市場。社員約30人のGLMは、そのなかでどのように戦っているのだろうか? 31歳の若きCOO、田中智久氏に訊いた。

EVとして復活した「トミーカイラZZ」2015年6月、英国で最も格式の高いモータースポーツイベント「Goodwood Festival of Speed 2015」に招待されたGLM第一号車種。全長3865mm、全幅1735mm、全高1140mm、最大出力225kW(305馬力)、乗員定数2人。¥8,000,000[税別]

「10年くらい前、EVが話題になりはじめたころ『従来の自動車と違って、プラモデルみたいに簡単に作れる』といわれていたんです。それで学生だった僕らも軽い気持ちでやってみようということになって。でも実際に作り始めてみると、そんなの嘘(笑)。バッテリーとモーターを組み合わせるだけだと思っていましたが、やっぱり100年かけて熟成したエンジンには到底かなわない。僕も卒業後は、外資系の食品メーカーに就職し、しばらくはEVのことを忘れていました」

しかし、田中氏が離れたあともGLMのEV開発は進んでいた。同じ京都の「トミーカイラ」とタッグを組んだことで、EVのライトウエイトスポーツを作るというコンセプトが明確になり、ビジネス化できる目処も立った。

「小間裕康社長から『戻ってこないか』と声をかけられたのが2012年。もともとはそんな気はぜんぜんなかったんですけど、話を聞いて『やってみよう』と思いました。自分たちの力だけでどこまでできるか試してみたいと思ったんです」

正攻法では、大手メーカーに敵うわけがない。GLMが作る「トミーカイラZZ」は、はじめからニッチなマーケットをターゲットにしていた。

「誰でも簡単・快適に運転できて、航続距離も長い。そんな家電のようなEVは大手に任せておけばいい。僕らが作っているのは、EVならではの加速感を最大限に発揮できる“安全で楽しいスポーツカー”。あくまでもホビーやレジャー、非日常を楽しむためのものです。クラシックカーが好きな人は、エアコンがなくて暑いとか、すぐに故障するとか、そういうことを笑い話にしながらクルマを愛している。僕らが目指しているのも、そんなカーライフ。決して便利ではないかもしれないけど、運転するのが楽しい。そんなクルマをEVで作ったんです」

その楽しさ、新しさは運転すればすぐに分かる。「トミーカイラZZ」は、いまどきの電子制御されたガソリン車の”走り”とは、ひとあじ違う感覚を楽しむことができるクルマだ。アクセルを踏むと、軽くGがかかるほどの加速を楽しむことができる。パワステなんて洒落た機能はない。ステアリングを小さく切っただけで、クルマが方向を変え、そこでアクセルを踏み込むと、リアが滑りながらついてくる。アクセルを踏んだぶんだけ加速し、ステアリングを切ったぶんだけ曲がる。まさに人馬一体。運転が難しいわけではないが、緊張感はある。そしてその緊張感が楽しい。

「航続距離は約120キロ。実用性はないかもしれないけど、ドライビングを楽しむには十分だと思っています。距離を伸ばそうと思えば、バッテリーを大きくするしかない。そうすると車重が重くなって、このクルマの楽しさが失われる。僕らはそれがいいことだとは思っていません」

そのスペックや希少性を考えると、800万円という価格は決して高くない。逆にこの価格では採算が取れないのではないかと心配になる。

「正直、『トミーカイラZZ』だけでは利益は出ません。でもGLMではEV開発のノウハウや技術を外部に提供するプラットフォーム事業をやっています。いま大手自動車会社だけでなく、さまざまなメーカーがEV時代に向けたパーツや技術の開発をやっています。そういった企業にとっては、私たちの知見が役に経ちますし、私たちも彼らの開発に携わることで、最新の技術を学ぶことができるという利点があります」

プラットフォーム事業により、EV開発のノウハウや技術を外部に提供している。

若者たちは、決して“自動車離れ”していないと田中氏は言う。

「カッコいいクルマは、時代を超えて人の目をひきつける魅力がある。このクルマで走っていると小さい子どもも目をキラキラさせて見てくれるし、うちの会社にも若い人がたくさんいる。自動運転、無人運転は便利だし、すばらしい技術だと思います。でもクルマにはやっぱり遊びが必要。僕らは日本のテスラになるつもりはありません。会社を大きくすることより、小さくても丁寧なMADE IN JAPANのモノづくりを続けて、クルマ好きが喜んでくれる製品を作っていきたいと思っています」

カッコよくて、運転していて楽しい。そんなクルマが嫌いな男はいないだろう。「トミーカイラZZ」に点火プラグというパーツはない。でも男心に火をつけてくれるクルマであることは、間違いない。

Tomohisa Tanaka
1986年、京都生まれ。京都大学大学院在籍時にGLMの創業に携わり、外資系食品メーカーを経て2013年GLM入社。経営企画室マネージャーとして国内外マーケティング、事業開発、外部アライアンスに従事。 現在COO。

問い合わせ
GLM TEL:075-681-5252


Text=川上康介