京都人しか知りえない!? 秘められし京都、潜入。 邸宅編 Part.2

Part.1に続き、京都で生まれ京都に暮らすエグゼクティブの邸宅を紹介する。

能舞台からカウンターバーまで
エンタテインメントを融合させた京町家

くろちく代表取締役社長

黒竹節人

自宅2階部分にある能舞台。高校の文化祭で舞台に立って以来、能の世界観に魅せられ金剛流を学び続けて50年。毎年、その成果をこの舞台で披露するほか、能楽の会なども催している。

伝統文化に触れてもらうことで、人を喜ばせ楽しませたい。そんな想いを形にしてきたのは、くろちく代表取締役社長の黒竹節人さん。26歳の時に始めた和雑貨の販売を皮切りに、飲食業、伝統工芸品の販売、ホテル業、ブライダル事業のほか、観光開発や町家の再生事業にも取り組み、京都においてその名を知らぬ者はいない。事業の形態や内容は違っても、貫かれているのは、「日本の伝統や文化をわかりやすく取り入れ、継承する」ことだ。

Sadato Kurotake
1947年京都府生まれ。74年京土産販売「クラフトくろちく」創業。和雑貨の製造・販売、飲食店経営など、京都発展に尽力。

「世界に誇る歴史や文化をわかりやすく取り入れ、継承していく」

坪庭を見下ろす2階の窓には、大正ガラスのような波打つガラスを造ってはめ込み、当時の雰囲気を再現した。

27年前に開いた、町家おばんざい店「百足屋(むかでや)」は、当時の飲食業界や建築業界に大きな衝撃を与えた。それまでは、ただ取り壊していくだけだった町家を改装することで、より魅力的な空間に再生させたのだ。

「昭和50年頃の京都はハイテク企業がどんどん伸びている時代でした。京都が掲げたキャッチコピーは"文化でめしが食えるか"。でも、本当にそれでいいのだろうかと思った。世界に誇る歴史を持つ京都が何を言ってるんだと。だから、私は『ハイテク』でなく『文化』で飯を食ってやろうと発奮しました」

「今こそ、京都人が守る伝統をより多くの人に接してもらうことが大切なのです」

自宅玄関は、まるで路地から続くかのような石の床。ここにも格子の引き戸がつけられ、どこから見ても、すっきり美しい。

本社のある新町界隈の町家を中心に、祇園や上七軒など歴史ある街の建物を徹底して再生し活用した。そして、その活動は町家ブームを引き起こし、結果として京都の町の景観を守ることにつながった。

20年ほど前、本社向かいの新町通東側にある自宅はそんな最中に手に入れた物件だった。通りに面した町家の奥に6軒ほどの民家があり、それを壊してマンションを建てる計画が進行していた。だが近隣住民は10階以上の高い建物が建つことに反対。最終的にくろちくで土地を購入し、通りに面した町家を残すかたちで日本的な建物に再生した。敷地はおよそ200坪。自身の居住スペースのほか、飲食店やブライダルにも利用することに。なにより、多くの人を招いて伝統を感じてもらえる場所にしたいと強く思ったそう。

表の町家から奥へと続く石畳の路地。このアプローチにまずは心を摑まれる。かつては、この路地奥に何軒もの住宅が並んでいた。

「高校生の頃から能を習っていて、自分だけの能舞台を持つのが夢でした。母が日本舞踊をやっていて、幼い頃から間近でその姿を見ていたことも、能にひかれた要因かもしれません。育った環境による影響は大きいですね。ライフワークとして能を続けるためにも、自宅を建てる機会に稽古もでき、披露もできる能舞台を造ったのです」

毎年何人かで能楽の会を催すほか、還暦といったお祝いの際にも、多くの人を招いて能を披露する。そんな時には、風雅な広間で食事を、漆のカウンターバーでお酒をと、客をもてなす労を惜しまない。祇園祭の時期には毎年多くの客を招く。くろちくの社屋や自宅のある新町通は、南観音山を保存する祇園祭の山鉾町(やまほこちょう)。7月24日の巡行の際には、自宅前を山鉾が通り、2階からその様子を間近に見ることができるからだ。

朱色の漆が際立つカウンターバー。祇園祭などの祭事の際は、多くの人をここでもてなしている。

「生きた伝承が必要です。祇園祭もそうだし、能もそう。実際に今、京都人が守る文化を、より多くの人に接してもらうことが、大切なのだと思います」

言うのは簡単だが、実行するのは難しい。だが彼は、20年という長い時間をかけ、信念を貫いてきた。だからここに招かれる人は、その古風でいて斬新な「エンタテインメント」に感動し、伝統文化の素晴らしさに開眼させられる。

「これからますます京都は観光都市として発展していくはず。そのためにも、神社仏閣はもちろん、何を残すかをひとりひとりが考えるべきです」

京都ならではの町づくりをこれからも続けていくという。

新町通に面した部屋からは、祇園祭の様子を楽しめる。

Text=中井シノブ Photograph=内藤貞保

*本記事の内容は16年10月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)