【特集グッチ】ミレニアル世代を取り込んだGUCCIのデジタル戦略

ブランドの価値そのものを揺るがしかねない 大胆なデジタル戦略で、ミレニアル世代へのリーチに成功したグッチ。顧客体験創造のプロが その"攻め"の手法について説く。


次世代の顧客を増やすことに成功

アイコンモチーフをアーティストが解釈する「グッチグラム」プロジェクトより。Kelbin Lei

「今ラグジュアリーブランドがこぞってデジタル戦略に進出しているのは、多種多様な生活者の"幸せ"にどうリーチするか。そのためのタッチポイントを増やすことが目的です」

こう話してくれたのは、アクセンチュア インタラクティブ日本統括の内永太洋氏。クリエイティヴ・ディレクターにアレッサンドロ・ミケーレが、CEOにマルコ・ビッザーリが就任して以来、グッチのカスタマーへのデジタルによるアプローチは劇的なまでに増加した。

「SNSというのは、あくまでも接点を増やすためのツールです。でもそうしたメディア上で広まる情報はブランド側ではコントロールできません。でも、使っている側からしてみれば、コントロールされた情報というのはつまらない。だからこそ、敢えて"コントロールしない勇気"が、デジタル戦略を成功させるためには必要なのです」

しかし、それが可能なのはラグジュアリーブランドだからこそだと、内永氏は続ける。

「これまではブランドが情報を発信していたのに、今ではカスタマーが伝えたほうが影響は広まりやすい。これは喜びの価値観の変化でもあるのですが、買いたいものを買うだけではなく、手に入れた喜びを発信することで満足感を得られる時代。でも、そのためにはブランドにとってのコンテンツ=プロダクトには、しっかりとトレンドをふまえ、発信したくなるようなクオリティや価値、魅力が必要です。そうした意味でも揺るぎない伝統を持っているラグジュアリーブランドだからこそ、グッチの攻めのデジタル戦略が可能なのではないかと思います」

ともするとタッチポイントを増やすことはブランドが培ってきたものを壊す可能性もある。だがグッチは伝統を守りながら革新する勇気を持ち、ミレニアル世代を巧みに取りこんだ。次世代の顧客を増やすことに成功したグッチの快進撃は、まだまだ止まることを知らない。


【戦略①】
インスタグラムのフォロワー2,560万人! SNSは多種多様なファンとの共同作業を可能にする窓口
グッチにとってSNSは単に情報を発信するツールではない。ミケーレがファッションに対して抱くビジョンをユーザーと共有するための大切な場なのである。実際にラグジュアリーブランドを対象に行ったソーシャルマーケティングとソーシャルメディア上の価値に関する調査で、グッチは2017年12月時点で前年比30%(6,600万ドル)相当の成長率を実現。もはやカスタマーとのコミュニケーションの場として、欠かせない存在となっている。これも、本物であることと、折衷主義的でクリエイティヴなブランドの核を成す概念があるから成功したといえる。

2018~’19年の秋冬コレクションでは女優のジェシカ・バーデンが二階堂ふみとの交流をアップ、’19年のクルーズコレクションではショーの会場の様子をハリス・リードが中継した。アカウントを他者に託すという大胆な手法は業界でも話題に。


【戦略②】
アーティストが再解釈したアイコンモチーフを公開する「グッチグラム」
グッチのアイコンモチーフをアーティストが再解釈し、文化の折衷と進化を提案するのがデジタル コラボレーション プロジェクト「グッチグラム」。有名、無名を問わず世界中のオンライン アーティスト、イラストレーター、イメージメーカーたちに参加を呼びかけ、自由なクリエイションによるアート作品を完成させた。名画に描き加えるごときコンテンツは、ヘリテージとコンテンポラリーの融合というグッチスピリットの表れでもある。

第2弾の「グッチグラム ティアン」では、2016年のコレクションで登場したティアン パターンをモチーフにした、アジア人アーティストによる作品を公開。写真はYoshito Hasaka。


【戦略③】
見るだけで終わらせない体験型のアプリで世界観を共有
コレクションをチェックできるアプリは数あれど、グッチはフォトフィルターや壁紙のダウンロードなどにも対応。特筆すべきはグッチにインスピレーションを与えた世界中の場所への旅や探索へと案内する「グッチ プレイス」。登録された場所を訪れ、アプリでチェックインすると受け取れる特製バッジをコレクションしたり、SNS で共有してコミュニティーの一員になれる。

昨年12月には、東京・中目黒のアナログの聖地「ワルツ」もグッチ プレイスに追加。


【戦略④】
オンラインでカスタムできるオンリーワンの顧客体験

ショップのウィンドウに貼られたステッカーをスキャンすると限定コンテンツがダウンロードできるなど、顧客体験の仕かけも巧み。公式オンラインショップでは、グッチ製品をカスタムできる「Gucci DIY」の新プログラムもスタート。3D画像と実際の商品写真を合成するプロセスにより、まるで本物のような仕上がりを確認できるスペシャルツールが採用されている。

オーダーできるのは、「オフィディア」トートバッグと「エース」スニーカー。スニーカーは左右1文字ずつイニシャルを入れることが可能で、素材とカラーもいろいろ選べる


【戦略⑤】
ムービーと連動する壁画で仕かけるユニークな広告キャンペーン
ミラノ、ニューヨーク、ロンドン、香港で展開されるグッチのアートウォール(トップ画面参照)。2018年のプレフォールコレクションの広告ビジュアルをフィーチャーした作品では、デジタルと連動し、パリで学生運動が繰り広げられた1968年の春へといざなう。公式アプリでアートウォールや広告ビジュアルをスキャンすれば、スペシャルムービーが見られるという仕組みだ。

アプリでアートウォールや広告ビジュアルをスキャンすれば、スペシャルムービーが見られる。


Takahiro Uchinaga
1980年生まれ。アクセンチュアインタラクティブ 日本統括。Isobar Japan(現・電通Isobar)創業を経て2016年にアクセンチュアに参画。’18年3 月より現職。世界的企業の顧客体験創造やデジタル戦略を多く手がける。

Text=いとうゆうじ Photograph=Courtesy of Gucci