今なぜシティポップが世界で人気なのか? 竹内まりや ~野村雅夫のラジオな日々vol.37

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回はデビュー40年を記念して、豪華3枚組のアルバム『Turntable』をリリースした竹内まりやさん。


デビュー40周年

キャリアの長いミュージシャンに初めてインタビューするのは難しい。しかも、ベストアルバムのリリースに合わせたタイミングとなると、キャリアのどこに焦点を合わせるべきなのか、選択肢がありすぎてなおさらだ。今回のゲストは、竹内まりやさん。デビューから40年。話題はいくらでも見いだせるが、奇しくもデビューの年は、僕の生まれ年。そして、まりやさんは僕の生まれた国イタリアのポップスもレパートリーにお持ちだということで、僕だからこそ聞ける内容になればとスタジオにお迎えした。結果、そのやわらかく明晰な語り口に、音楽だけではなく、そのお人柄にも魅了された。2019年9月12日にFM802 Ciao Amici!(チャオ・アミーチ)で放送した模様をお楽しみいただきたい。

チャオ。はじめまして。竹内まりやです。

――チャオ。よろしくお願いします。初めてお会いできて、とても光栄です。

私も嬉しいです。野村雅夫さんという名前のイメージとはとても違うイタリアンな風貌に惹かれました。

――今日はぜひ、僕の顔と、僕のこの顔から繰り出される関西弁混じりの日本語に慣れていただきたいと思います。

なんか、ワクワクする。

――今日はまりやさんとイタリアにまつわるお話もしようと思っているのですが、偶然、僕が12年ぶりのイタリア里帰りから帰ってきたばかりなんです。

あら、そうなの? 奇遇ですね。

――まずは、今月9月4日、40thアニバーサリーアルバム『Turntable』をリリースされました。おめでとうございます。

3枚組なんです。

――今日はご登場いただく前に『すてきなヒットソング』をオンエアしました。これはアルバム『BEGINNING』に収録されています。これがデビューアルバムですよね?

そうです。

――今とは習慣が違うよなと思ったのが、1stシングルと1stアルバムを同じ日に出されているんですね。

そう、昔はよくありましたよ。

――今は先にシングルを出して、しばらくしてからアルバムというのが多いんですけど。そして、振り返れば、それが1978年11月25日。僕はその2日後に生まれているんです。

え!? そうなんですか? その私のデビューのまさに当日、椎名林檎ちゃんが生まれてるんです。

――あ! ほんとだ。

林檎ちゃんと2日違いで生まれたのね。へぇ〜

――で、先ほどかけた『すてきなヒットソング』ですが、頭にはラジオジングル風の「ヒットパレード」というフレーズがあります。歌についての歌でもあって、レコーディング当時は、デビューという区切り、始まりにおける意思表明としても機能したのかなと思うんですが、40年経ってベストの1曲目に入ると、また違う意味合いを帯びてきますよね。

なんか感慨深いものがあるんですよ。私が幼い頃聴いて愛していた歌をあがめる曲だったんですけれども、今回の『Turntable』の中で、ビートルズだとかカンツォーネだとか、まさに幼い日々に聴いていたものをカバーしている自分がまたここにいるってことが、一周巡っている感じがするんですよね。

――まさか当時そんなことは考えてないですもんね。

考えてないよね。不思議な繋がりを感じます。

――その『すてきなヒットソング』で幕を開ける3枚組の『Turntable』は、まさにヒットパレードというような感じで曲が並ぶわけですから、1曲目の選曲として最高だと思いますね。

そうですか? そう思っていただけたら、嬉しいです。全62曲。

――大変ですよ、これは(笑)

盛りだくさん。

――先に構成を申し上げておきますと、Disc1はMore Expressionsと題されておりまして、これまで出してきたベストに入り切らなかった……

そう。入り切らなかった、こぼれちゃった曲を拾って、17曲入れました。

――その分、年代も幅広いですね。デビューアルバムから……

最新のものまで。

――そして、Disc2はMariya’s Rarities。どなたかに提供されたものなんかが入っていますね。

岡田有希子ちゃんや、広末涼子ちゃん。牧瀬里穂さんといった方たちに書いた曲のセルフカバーや、あとはたとえばオールド・ポップスのカバーがあったり、加山雄三さんのカバーがあったり。色とりどりのRaritiesです。

――初CD化のものもありますよ。

そう。有希子ちゃんの曲は初めてレコーディングしたものが3曲ありますね。

――ですよね。つまりは、竹内まりやというシンガーソングライターが、自分で作って歌うのみならず、日本の音楽界に提供という形でも貢献してきたんだというところが、この2枚目からうかがえるということになります。

ありがとうございます。

――そして、Disc 3がPremium Covers。もう説明不要。カバー集ですが、これはラジオ「山下達郎のサンデー・ソングブック」で披露されてきたものも多いですね。

そうなんです。サンデー・ソングブックの「まりやの課外(クラブ)活動」として紹介してきた音源を一挙に集めました。ビートルズやイーグルス、ザ・バンドがあったり、カンツォーネ、フレンチ・ポップスといった、自分が好きなタイプの曲を、ズラーッと25曲入れました。

――これは楽しかったんじゃないですか?

楽しかったんですよ。もうね、チョー楽しかった。

――だって、自分の本当にお好きなもの、まりやさんの音楽人生を培ってきたものですもんね。

そう。それを、色んな音楽仲間と一緒にプレイしました。この曲はBOXというメンバーとやろうとか、このジャズに関しては松木(恒秀)さんたちとやろうとか、そういった形でいろんなバリエーションを楽しむことができて、歌手冥利につきるDisc 3でした。

――ここではシンガーソングライターというよりはシンガーとして……

歌い手です。

――歌い手としての魅力を楽しめる3枚目ということになります。それでは、イタリアの話に進む前に、1曲お送りしようかと思います。まりやさんから曲紹介いただけますか?

はい。やっぱり、雅夫さんだったら、これでしょ。『Che vuole questa musica stasera 〜ガラスの部屋』

――竹内まりや、『Che vuole questa musica stasera 〜ガラスの部屋』をお送りいたしました。

さすがの発音だね〜 皆さんは、この曲は「ヒロシです」でご存知なんでしょうね、たぶん。

――僕ももし今ひとりで生放送を進行していたら、曲を受けて「マサオです。お送りしたのは、竹内まりやさんによるカバーとです」ぐらいは言ってる可能性ありますね。

あぁ、そうかそうか。そうですよね。

――今回のカバー選曲を見渡すと、ビートルズが多めに入りつつ、ウェスト・コーストもセレクトされています。考えてみたら、デビューの頃、アメリカでレコーディングをしてらっしゃいましたもんね。イーグルスだとか、当時流行してましたし。

ウェスト・コーストはすごく聴きましたね。

――僕ももともとウェスト・コーストが大好きで、高校時代、周りの友達にはあまり理解されずとも、ひとり勝手に聴いて歌ってってやっていたもので、そんな多感な頃、まりやさんの音楽に自然と触れるように鳴っていった経緯がありました。

ありがたいですね。

――そんな中で、振り返ると、2003年に『Longtime Favorites』というアルバムを出されて、やはりカバーをたくさん収録されました。

はい。あれは60年代のポップスでしたね。

――その中にも実はイタリアのカンツォーネと言われるものが何曲か歌われていました。リリース当時、僕は大学院でイタリア文化を研究していたということもあって、イタリアの曲が入っているのがとても嬉しかったんです。2000年代に入ってからは、60年代なんかとはまったく違って、イタリアの曲がリアルタイムで入ってくるってことがまずないし、ましてや日本人の歌手がカバーするなんてことはまずないという頃でしたから(*その意味で、DA PUMPの『USA』というイタリアの歌のカバーが大ヒットしたのはかなりのレアケースだった。オリジナルがイタロ・ディスコだと知る人が少ないとはいえ)。

聴いてくださったんですね。『No ho l’età 〜夢みる想い』とか。

――なおかつ、日本のポップスにも、ニューミュージックの頃だろうと、今のJ-popだろうと、実はイタリアのエッセンスがあるんじゃないかと。

要素はすごくあると思います。

――そんなことを、『Longtime Favorites』を聴きながら、改めて実感するにいたりました。また、あのアルバムでは大滝詠一さんとのデュエットもありました。ちょうど先日、山下達郎さんのライブにうかがったんです。

あ、ご覧になったんですか? それは良かった。

――MCで大滝さんとの思い出話も少しされたもんですから、それもあって『Longtime Favorites』をまた聴き直したりしていました。

嬉しいな。

――ただ、今回またイタリアの曲が入るとは! これはどういう意図での選曲だったんですか?

これは70年、私が高校時代に、『ガラスの部屋』という映画を観に行った時に、映画のストーリーはあまりピンと来なかったんですけど、このメロディーがとても印象に残っていて、いつかこれを歌いたいなと思って、その頃からレコードをよく聴いていたんです。前回の『Longtime Favorites』には入らなかったカンツォーネとして選んだんですね。

――イタリア語はどうです?

全然勝手はわからないので、ローマ字読みでやってるだけなんですけど、今回漫画家のヤマザキマリさんにイタリア語の指導に来てもらいました。レコーディングの時に、「このLとかRとかの発音は大丈夫?」なんて聴きながら歌ったんですけど、どうですか? 私のイタリア語は? なんちゃってイタリア語なんだけど(笑)

――いやいや、まさかまさか。

大丈夫? ほんと? あ〜、嬉しい。

――指導してもらったヤマザキマリさんとは、どうやって知り合われたんですか?

マリさんはね、達郎のライブに来てくださったのが初めてで、一緒にご飯を食べるようになったら、彼女の話が面白すぎて、5時間でも6時間でも聞いてしまうの。もちろん、イタリアの話も。そんなこんなで大親友になって、今回このクエスタ・ムジカ(『Che vuole questa musica stasera』)をやるんで、ぜひってことで頼んだんです。もう最高に面白い方です。

――面白い方ですよね。『テルマエ・ロマエ』のヒットで、映画化もされましたから、ご存知の方も多いでしょうね。実は、ちょっと前に、番組でヤマザキマリさんの本を紹介したこともあるんですよ。イタリア繋がりってこともあるし、何よりも彼女の生き方、その波乱万丈すぎる人生が綴られたものをリスナーにも知ってほしくて。

そうなんだ。すごいドラマチックですもんね。

――今回、初回限定盤の方ですかね。ブックレットが付くんですけど、なんと「まりやちゃん」のイラストをマリさんが手掛けているんですよね。

別冊「まりやちゃん Special Book」のイラストをマリさんに描いていただいたんです。嬉しかったです。

――そんな深い交流がおありだったとは。驚きました。さて、40年という節目がこれでできたわけですが、今後も活動は続けていかれます。達郎さんがこの前のライブでチラッとおっしゃっていたのは、何の因果か、今またシティポップなんていう言葉がもてはやされるようになったことです。確かに、僕らDJも普通に言ってますからね。たとえば、「2019年シティポップの最新形として、こんなバンドが出てきました」みたいなフレーズ。なおかつ、海外からも熱い視線が注がれている。

これもまた不思議な現象で、特に私の『Plastic Love』という曲のYouTubeがたくさんの方々に世界中から見ていただいているようなんです(ファンが非公式にアップしたものを含めると、2019年9月現在、再生回数は3800万回を超えている)。どうしてそうなったのか、ちょっと私たちはわからないんですけどね。でも、ありがたい現象だと思ってます。私たちが35年前にやっていたことを、海外の若者たちがわざわざアナログ盤を日本に探しに来ているっていう……

――今振り返ってみると、時代は巡りました。それぞれの時代の流行り廃りもあったじゃないですか。でも、まりやさんはそこに真正面から取り組むというよりは、ちょっと離れたところから、俯瞰してご覧になっていたのかなと思っていたんです。

そうかもしれないですね。あと、やっぱり、何十年か経った時に古臭く聞こえないようにするためには、ある種の普遍性みたいなものを大事にしたいってことを達郎と話し合いながら作ってきたので、今の時代、一番ホットなものは何かって探したら、逆に次には古くなるかもしれないですよね。

――そのスタンスはこれからも変えずに?

そうですね。スタンダードでありたいというか。

――来月10月9日には、ニューシングル『旅のつづき』のリリースも、もう早くも決まっておりまして、これがまた映画が興味深いんですよ。11日、シングルリリースの3日後に公開となります『最高の人生の見つけ方』の主題歌になっています。吉永小百合さんと天海祐希さんの主演ですね。

これはハリウッド・ムービーのリメイクで、日本人の2人の人生を表すというか、ちょっと泣けるけど、希望もあるっていう、素敵な映画になってます。

――舞台も変わって日本になって、男性から女性へと視点も変わりましたから、ストーリーの骨格はリメイクだから大きく変わらないものの、どんな違いが出てくるのか、僕も一映画ファンとして楽しみだなと思いつつ、曲も届きましたら、ラジオでオンエアしていこうと思います。その他、たくさんの情報ございますが、竹内まりや40th特設サイトをご確認ください。

アルバムとシングルをいずれもお買い求めいただいた方には、ライブハウスでまりやに会おうという「LIVE Turntable」への応募券が封入されますので、そこもサイトを覗いてみてください。

――ライブハウスで!?

はい。38年ぶりぐらいなんです。

――うわぁ(笑)

ちょっと皆さんと、そういった形のライブをできればと思ってます。

――どえらい企画が進行中ですね。ぜひその情報についても手に入れていただければ。ちなみにですけど、まりやさん、イタリアへ行かれたことは?

何度もあります。でも、また行きたい。

――ですよね。きっと、ヤマザキマリさんからまた面白い話を聞いてらっしゃるだろうから。

マリさんと一緒に行きたいねっていつも言ってるんですけど。トリノはまだ行ったことがないから。

――あら、そうですか。僕の生まれた街。ぜひ。

そこも行ってみたい。

――ぜひ、お出かけいただいて、いつの日か、その土産話もご披露いただけると嬉しいななんて思っております。

ぜひぜひ。

――今日はどうも、ありがとうございました。

ありがとうございました。

9月10日に放送内で発表したのだが、僕は丸10年ラジオの本拠地としてきたFM802を、9月30日(月)のCiao Amici!の放送をもって離れることになった。翌日の10月1日からは、同じFM802が運営するもうひとつのラジオ局、全国初の大人のためのミュージック・ステーションFM COCOLOに拠点を移す。新番組は、CIAO 765。月曜から木曜、朝6時から11時までの生放送を担当する。たっぷりの音楽と、ニュースなどのその日に必要な情報、そしてココロを耕すような文化コラム的な内容を盛り込んでいけるよう、現在絶賛準備中。この改編に伴い、来月からしばらくは、この連載を月に一度の更新に変更します。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いします。

vol.38に続く


vol.36 城田優


vol.35 クレイジーケンバンド 横山剣 


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野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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