アパレル界の重鎮・赤峰幸生「トラッドスタイルにトレンドはいらない」【特集やさしい服】

半世紀以上ものキャリアを通し、クラシックやトラッドとカテゴライズされるメンズファッションの王道を日本に根づかせた第一人者、赤峰幸生氏。そのクローゼットには、端々が擦り切れ、穴が空いても捨てられず、なお愛され続ける服が詰まっている。そこには今こそ必要な、人と服のやさしい絆があった。

「着ること、働くことの基本を今こそ考える時」

「服はよほど傷まない限り、基本的には捨てません。そもそも捨てることになる服なんて、最初から買いませんから」

郊外の自然豊かな住宅街。拠点とする邸宅に整然と収蔵された膨大な服を前に、赤峰氏は語る。100年前のヴィンテージから若い頃に購入したものまで、まるで紳士服の博物館のようなコレクションは、長年の着用で傷んだものもある。そう、特筆すべきはすべてが"現役"であること。そして、今もエレガントで古さを感じさせないことだ。それはなぜなのだろうか。

「私は若い頃、ニューヨークで服作りを学んだのですが、当時からいいなと感じるものはすべて英国製でした。その後日本で流行したアメリカントラッドも、英国の服を米国が咀嚼したもの。イタリアンクラシコも、根底にはやはりブリティッシュマインドを受け継いでいる。グリニッジ天文台が世界時の基準であるように、そんなメンズファッションの源流たるブリティッシュトラッドは、紳士服の基本であり、私の服作りや服選びの礎なのです。さらに不可欠なのが、素材を吟味すること。私は服を作る際、可能な限り原材料が生まれる牧場や畑まで行き、土に触れます。服に限らず、それがモノ作りの基本と考えるからです」

どんなに時代が変わっても、物事の基本は簡単には揺るがない。赤峰氏のワードローブが古びず、傷んでも美しいのは、服の基本を守りながら、誠心誠意作られた服だからに違いない。

「基本とは、書体で言えば楷書体であり、まずこれを習ってから行書体などに進むものです。私はモノや情報が溢れる現代の男性に、胸に手を当て、一度楷書体に戻りなさいと言いたい。トレンドとは流行りものであり、いつかは終息します。しかしながら基本である楷書体は、決して廃れることがないのです。それは服に限らず、食べること、働くこと、つまり生きるということそのものに言えると思っています。楷書体の生き方とは、背筋を真っ直ぐに伸ばし、やさしく誠実に生きること。そうすれば、穴が空いた服を着ていてもエレガントに見える。私はそう信じています。服には、生き方が出ますから。男性には服を含め、そんな生きることの基本を考えてほしい。同時にそんな楷書体の服を作り続けることが、私の使命だと思っています」

近年、赤峰氏はYouTubeやInstagramのアカウントを開設。自身が手がけた服や着こなしを発信しているが、その視聴者には20代の男性が非常に多く、イベントなどを開催すると遠方からも若者たちが集うという。それこそが、赤峰氏が人生をかけて提案してきたクラシック&トラッド=楷書体の服が、時代や世代を超えて輝き、愛される何よりの証しなのである。


 YUKIO AKAMINE
インコントロ代表。1944年東京都生まれ。’70年代よりブランドを立ち上げ、’90年にインコントロ社を創設。自身のブランドだけでなく、ファッションディレクターとして多くのブランドや百貨店に携わる。

Direction=島田 明 Text=竹石安宏(シティライツ) Photograph=滝川一真〈人物〉、隈田一郎〈静物〉