京ならではの空間を見事に活用 “うなぎの寝床”に魅せられた男たち

温故知新の精神が息づく町・京都。古きよき狭小家屋の立地を活かし、独自のアイデアを組み入れるふたりの粋人から、京の新しいライフスタイルを模索する。

4階建ての細く長い家を名品で彩る悦び

平田清商店代表取締役社長

平田晃一

京都のビジネスの中心地であり、随一の繁華街・四条烏丸界隈。9月に建て替えが完了した平田邸は、町の真ん中の好立地にある。間口が狭く奥に長い、京都特有の"うなぎの寝床"に新築した4階建。瓦や梲(うだつ)を取り入れた町家が残る界隈に溶け込む控え目な外観だが、中は一転してモダンな空間が広がる。

Koichi Hirata
1961年京都府生まれ。京都で傘を商っていた平田清商店の歴史を受け継ぎ、不動産賃貸に転業。現在、2社の代表取締役社長を務める。

「人が集う"サロン"としてご縁をつないでいきたい」

「暮らしていた住居をフルリノベーションするつもりが、解体中に基礎に問題があると判明。補強の柱を入れると、思い描いたスペースが確保できず、新築へ方向転換しました。予想外の展開でしたが、せっかく新しくするならとこれからの人生をイメージし、ひとつひとつ最良のものを選択していきました」

和室にある特別注文の宝石桐箪笥は奥様の嫁入り道具。

京都で不動産業を営む平田さんは、他のエリアへ移ることも考えたが、町の動きが感じられるこの場所を離れ難かったそう。

「京都以外に住んだことはありませんが、やはり落ち着きます。四季折々に美しく、神社仏閣から花街まで多彩な表情がある。京都に拠点を持ちたいという方も年々増えて、ビジネスにおいてもさらなる可能性を感じます。とはいえ京都は"何事にも奥が深い"町で、一朝一夕では物事が進まない。縁を育み、根ざしていくことが大事です」

友人であるヴェネチアンガラスアーティスト土田康彦氏が、パティシエ小山進氏のチョコレートにインスパイアされて誕生したオブジェ"カカオ・シリーズ"。

お菓子作りが好きな奥様の希望でキッチンは広く機能的に。業務用食洗機やスチームコンベクションオーブンなどを導入したプロ仕様だ。リビングにはカッシーナの家具を配し、ヴェネチアンガラス作家、土田康彦のオブジェなど選りすぐりの名品を飾る。また、将来を見据えてホームエレベーターや、体調を整えるためのリンパマッサージ室を設ける。忙しいからこそ、スマートに暮らせるよう考え抜かれた住まいだ。

ダイニングはバカラの照明。

「私は表舞台に出るよりも、黒子のような存在でいたい。得意なのは、宴会のお手伝い。宴会とは、『縁』の会。仕事柄もありますが、ご縁を結び、深めていくことが、自分の役割だと思っています。立地と空間を生かし、LDKはサロンとしても活用していきたい。ここから紡がれていくご縁が楽しみです」

天然石のワークトップを備えたアイランドキッチン。奥様は小山氏にお菓子作りを習い、多大な影響を受けたそう。

築80年の町家をリノベーション。京都中心地での理想の生活

画家

G.M

「京都には創作意欲を掻き立てるものが多くあります」

玄関、ダイニングの天井は"大和天井"といい、町家特有のもの。木の質感を生かしたリビングは北欧風。間接照明の光が心地いい空気感を醸している。

京都に魅せられたひとりである画家のGさんはそう言う。住まいのある金沢と京都を行ったり来たりする生活は、10年以上も前から続いていたそうだ。

「いつか京都でゆっくり暮らしたいという思いで、2年前に思い切ってこの家を購入しました」

G.M
1954年石川県生まれ。金沢在住の洋画家。全国規模の美術団体に所属。デッサン旅行で京都に訪れたことが購入につながる。

「ひっそりとした石畳の路地、
花街で揺れる提灯などの景色が創作意欲を掻き立てます」

1階のダイニング。古い建具のデザインが洋空間のアクセントになっている。

築80年という古い町家の情緒と最先端の機能が備わっているため、建具や柱など残せる部分はそのままに、内部は北欧風にリノベーション。町家ならではの細長い構造を活かし、一番奥にはサンデッキと坪庭を設け、パーティー時は扉をすべて開け放てる工夫も施した。

見たものをすぐ描けるよう、パステルとスケッチブックはいつもそばに置いている。

「家の近くに地元の人が使うアーケードの商店街があることや、地下鉄、私鉄、JRの駅からも近いという便利さも気に入りました。いくら環境がよくても、町中から離れた場所は、年を重ねていくとやはり辛い」

デッサンのための散策や買い物には、自転車を使うのだとか。

「自転車で走っていると、バスやタクシーでは気づかない自然風景や建物に出合うんです。ひっそりとした石畳の路地、花街で揺れる提灯、川沿いの野草。京都でしか見られないその景色は、何度見ても新鮮」

祇園祭など町衆(まちしゅう)の行事を間近に見られることや、留守の間は様子を見てくれるご近所さんの温かみもGさんの理想だった。そういう意味では、便利でいて地元臭もあるこの場所は、思い描いたそのまま。今はまだ金沢3、京都1という割合での暮らしだが、いつかは夫婦で移り住むのだと話す。

「仕事が落ち着いた後の隠居所のように考えていたが、ここで暮らすとかえって創作に勤しんでしまうかもしれません」

リビングから坪庭へつながる奥の扉は、収納できる造り。扉を開け放てば、開放的な空間に様変わり。

Text=宮下亜紀、中井シノブ Photograph=内藤貞保、福森クニヒロ

*本記事の内容は16年10月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)