“King of Japanese R&B”久保田利伸~野村雅夫のラジオvol.39

現在、関西のFM COCOLOを中心に、DJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回はニューアルバム『BEAUTIFUL PEOPLE』をリリースした久保田利伸だ。


4年ぶりのアルバム 『BEAUTIFUL PEOPLE』をリリース

僕が所属するFM COCOLOには、マンスリーアーティストというシステムがある。日本のミュージック・シーンに多大なる貢献をしてきたミュージシャンを毎月ひとり(あるいは一組)セレクトして、旧譜と新譜を織り交ぜて、各番組でその功績を振り返りつつ、これからの活動を盛り上げるという趣向だ。2019年11月は、久保田利伸。1986年のデビュー以来、日本に本場のR&Bを根付かせ、その裾野を広げてきた第一人者であり、11月27日には4年ぶりとなるアルバム『BEAUTIFUL PEOPLE』をリリースしたのだが、これがまた端的に言って傑作。僕の番組CIAO 765(チャオ・ナナロクゴ)では、その発売日にご本人をお迎えして、たっぷりと話を聴くことができた。

その模様をお楽しみいただく前に、ひとつ頭に入れておいていただきたいのが、FM COCOLO Crossover Jam Coolvibes 2019という、11月14日に実施したイベントのこと。3年前に初開催して以来、2回目となった今回のコンセプトは、「神戸にリアルミュージックシーンのツワモノたちが集う。圧倒的な一夜限りのコラボレーションライブ!」。出演してくれたのは、久保田利伸、さかいゆう、JUJU、バブルガム・ブラザーズ、PUSHIM、森大輔。彼らが愛してやまないブラック・ミュージックへの愛情が、オリジナルとカバー、そしてコラボで交錯して乱反射する極上の音楽を堪能できるステージだった。

まずはそのイベントを振り返りつつ、ニュー・アルバムの話へと展開しようと目論んでいたのだが……

ハッピーバースデートゥーユーって♫
あ、ハッピーバースデートゥーユーっと♫
ハッピーバースデートゥーユー、ディア、ま〜くん♫
ハッピーバースデートゥーヤ!

お誕生日ですか、今日は。

――もぉ、誰から仕入れたんですか、その情報は?

いや、俺は知らなかったんだけど、さっき、この番組のスタッフが打ち合わせに来て、「こうこうこんな感じです。あとは雅夫に任せていただければ。で、ちなみに今日は雅夫の誕生日です。ひとこと、ハッピーバースデーくらい…… あ、そこまで言っていただかなくても結構なんですが、一応情報として」って言ったわけ。で、一言ってのもあれなんで、ひと「節」を今つけました。

――ありがとうございます〜

おめでとうございます。

――いやぁ、まいっちゃったなぁ。

良かったね。良かった良かった。

――そして、久保田さん、チャオ!

あ、チャオ!

――ハハハ! よろしくお願いします。いやぁ、ほんと嬉しいです。そして、僕がFM COCOLOに移ってきてから2ヶ月弱なんですけれども、802でもお会いしてお話をうかがう機会が何度かあったんで、その流れもあってこうしてまたお迎えできて光栄でございます。

ありがとうございます。

――で、まず振り返っておきたいのは、先日、神戸国際会館こくさいホールで行いましたFM COCOLO Crossover Jam Coolvibes 2019にご出演いただいたこと。僕も当日現場におりまして、パフォーマンスを拝見しました。まぁ、素晴らしい夜でした。

楽しかったですねぇ。

――何より、出演しているミュージシャンのみなさんが、ステージ上で楽しそうで。

あのね、リハーサルがほとんどなかったんですよ。ないことはないんですが、何を歌いますと、バンドさんにはこれでいきましょうと。あとは、約束事だけ決めてあって、そっから先、これ大丈夫かな、間に合うのかなみたいな感じでやったのね。

――逆算すると、時間がないかもしれないと。

そうそう。そうなの。でも、そういうのが良かったんだろうね。本番ステージに上がって、歌う曲は決まってるけど、どういう風に始めようか、どういう風に終わろうかと。コラボレーションする相手は決まっているけれども、どんなことになるんだ、みたいな。そういう感じのままやったんで、あの夜は出演者も何が起こるかわかんないみたいな感じでした。俺、大好きなんだ、そういうの。できたら、リハーサルはゼロが嬉しいのね。そしたら、仕事は本番だけでいいじゃん。それに近かったね。だから、本番になって、イントロをちょっと伸ばそうぜ、みたいな。歌うのはまだやめといて、もう少し話そうぜ、とか。そういうことが色々できちゃうのが楽しい。それに、他に出ていたさかいゆうにしても、JUJUにしても、ああって言えば、こうってやってくれるし、バブルガム・ブラザーズなんていうのは、言った通りには絶対にやんないから。

――リハーサルを念入りにしたとしても、その通りにはいかない。

あの人たちはリハーサルは嫌いだけど、無理やりやらせたとしよう。もし、リハーサルでやっちゃったらば、それは本番ではやらないっていうね。

――むしろ、本番でやらないことをリハで楽しむわけですね。

その通りなの。俺はそれを知ってるんだけど、他の出演者はまだあの人達の毒気を知らないから、間に俺が入ってあげた感じかな、この間は。

――今のお話を踏まえて思い出すのは、久保田さんが『その人』を歌われた時です。イントロに乗せて、「ニューアルバム出るんだよね」なんて話をされました。イントロのフレーズを何度も回しながらね。で、どこで歌い出すのかなと思って僕は観ていたんです。「じゃぁ、そろそろ行こうか」となって水を少し飲まれました。「喋りすぎたわ」なんつって。で、その後に一言バンドメンバーにおっしゃったのが、「いつでもいいよ」。

言ったね。

――もしリハを完全にやって、段取りをガチガチに決めていたら、あの「いつでもいいよ」という言葉はないじゃないですか。

ないね。要らないし。でも、逆に言えば、段取り決めて、小節の数も決めてたらば、バンドは緊張するよね。あそこのタイミングで、全員がせーのって入るところを間違えちゃいけない、となるから。なので、全員がフリースタイルで演奏していて、何となく目が合ったところで、ドラムがカウントすればいいと。その方が、楽だよ、きっと。いいミュージシャンならね。

――そこなんですよ。あの夜は、バンド・メンバーがすばらしくて、何しろ芯を取ったのが、森大輔という男ですよ。いつの間にか、FM COCOLOでは僕よりずっと前からNIGHT AQUARIUMという面白い番組を持っているので先輩になってしまいましたが。で、JUJUさんと久保田さんがコラボされた場面で、久保田さんがMCで「ちょっとあの曲弾いてみて」って言ったら、森大輔くんはサラサラっと弾いてみせちゃう。打ち合わせもしてないのに一瞬で「弾けるってこと自体がすごいんだ」って久保田さんがおっしゃると、観客がみんな拍手をしていました。

何を言っても弾けるんだよ、森くんは。

――このエピソードに代表されるように、森大輔くんが率いたあの夜のバンドは、どんなことにも対応できるから、シンガーたちもドンと構えて好きなことができる。

そう。これは本当に大事。俺たち歌う方が安心して、自分はただ乗っかっていれば、あとはサポートしてくれる。あとは自分でいられる。その環境が大事。だから、シンガーもやっぱり楽しかっただろうね。でも、バンドのメンバーの中では、ミュージシャンとしては森くんが年長ではないわけね。なんだけど、森くんが引っ張る役。バンド・リーダーなわけ。才能ありますね、森くんは。でも、まだああいうステージで百戦錬磨で仕事を続けているわけではないのよ。あの夜はワントライみたいな感じなんで、「弾いてくれ」と言えば弾けるんだけど、さあ、その後どうしようまではまだいけないから。それは次のCOOL VIBESのお楽しみですね、彼がやるなら。

――ハハハ! なるほど。

でも、現時点で相当なんでもできるんだけどね。僕らも甘えちゃったり、頼っちゃったり、面白がって試しごととかしちゃうけど、それに応えてくれるから。だから、お客さんでいっぱいの本番なのに、彼に対していろいろと試しごとをしちゃった感じだったね。

――その意味では、森くんのこれからの長いキャリアを考えた時に、もしかすると、あの夜は節目となる一夜だったかもしれないですね。

うん。きっとね、節目ですよ。いろんなこと考えただろうし。

――奇しくも、彼の地元だし。

そうだよ。

――神戸大学の。

そうそう。毎日通ったところだからね。

――ステージがはねてから、僕もチラッと打ち上げに顔を出させてもらって、一応固有名は伏せておきますが、ある方なんかは、「次のCOOL VIBESにもう出たくてしょうがない」とおっしゃってましたよ。

ある方! 言ってましたね。俺の横に座ってた。

――だから、それほどに、僕ら観客はもちろん興奮して余韻醒めやらなかったけど、ミュージシャンたちもそうだったんだと。それって、まさにクール・ヴァイブスが生まれていたってことですよね。僕も既に次が楽しみです。FM COCOLO編成部のプロデューサー陣はね、スケジュールを押さえるのが何より大変なんだって言ってましたけどね。

バンドもそうだけど、歌い手もさ、ちょうどいい具合っていうか、ノリが良くて、歌心がすごくあって、キャラは他の誰とも違うものをそれぞれが持っていてっていうのを集めるのは、それはなかなか大変ですよ。

――では、ここらで、そのCOOL VIBESでも披露された、ニューアルバム『Beautiful People』からの1曲をここでお送りしましょう。曲紹介、お願いします。

『その人』という曲です。



――今日なんですよね、発売日が。

いや、今日は誕生日でしょ。

――フフフ。アルバム『Beautiful People』の誕生日でもあるってことですよ。

そうです!

――まずタイトルですが、シンプルだけど強いワードです。もう終わったライブの振り返りはやめますが、COOL VIBESのステージでも何度も「Hey! Beautiful people!!」って観客に呼びかけてらっしゃいましたよね。久保田さんが発明した言葉ではないのに、ああいう風に久保田さんの口から発せられると、何か特別なオーラをまとう感じがしていました。この言葉に収斂されたのは、作り始めだったのか、それとも作る過程のどこかでって、どちらなんでしょう?

この言葉自体は自分のライブで口癖のようによく使ってた言葉なの。

――それをこのタイミングで、アルバムのタイトルにしたわけですよね。

うん。俺の中では、長年とても自然な言葉なんだけど、アルバム・タイトルとしては考えていなかったんですよ。ある程度、そうだな、5、6曲作ったあたりで、そろそろタイトル決めのリミットですよとなるじゃない? 早く決めとかないと、(メディアの)皆さんにお配りする資料の印刷が間に合いませんよっていうタイミングってあるじゃないですか。それで、2・3個違うのを考えてたのね。たとえば、「Universal Language」とか。そういうのをスタッフに俺はプレゼンしたんだけど、「小難しいですね」「真面目だ」「いい言葉じゃないですかぁ」なんて感じで2、3時間協議をして、みんなが納得するのが出なかったの。やっぱり、スタッフがニンマリしないとイヤじゃないですか。

――ですね。

それじゃぁと、俺がず〜っと使っている、シンプルでいい言葉。今さっき「強い」って言ってくれたけれども、強くてシンプルでいい言葉。アルバムにも実は今回の内容にピッタリですよ。言いましょうか。皆さんのよく知ってる単語ですよ。ビューティフルって知ってますか? 「知ってる知ってる」ピープルって知ってますか? ふたつ合わせて、ビューティフル・ピープルってどうですか? 「それだ! それだ!」って、娘からおじさんまでが納得したわけ。「わかりやすいです」って。意味合いもあったかいし、満場一致で、制作の途中でそう決まりましたね。

――今回は1トラック目が『Beautiful People 〜Foreplay〜』という序章になっていて、8トラック目、アルバム半ばにも『Beautiful People 〜The play〜』が挟まってるし、その前の曲は『So Beautiful』だし。ビューティフルにしろ、ピープルにしろ、これまでの曲でもワードとして使ってこられているし、ライブでも合言葉だし、結果的にはこれは大事な一枚になりましたね。

でっかいタイトルですよ。だから、自分の代表的なアルバムのタイトルっていうことに、この『Beautiful People』はなる。このタイトルになる前から、5、6曲作っている段階で既に歌詞の中にビューティフル・ピープルって言葉がポツンポツンと入っていたから、以前もそうだし、今もそうだし、今後も普通に使っていく当たり前の代表的な言葉なのかもしれない。俺の中ではね。

――アレンジなんですが、ここでも彼の名前を出しますよ、森大輔くんが半分くらい手がけたっておっしゃってましたよね。

そんなつもりはなかったんだけど。近しい環境にいるんでアレンジの相談もしやすいんだね。

――数々のアレンジャーと組んで来られましたが、森くんの特徴って、どんなところにあるんですか?

僕の一番の理解者です。僕はいい楽器弾きでもないし、素晴らしいアレンジャーにもなれない。だけど、こういうことをやりたい、今はこんな音のイメージを持ってる、こんな曲を作ったんだけどってのを、言葉抜きで理解してくれるんです。それを具現化するにあたって、時間もかからないし、キャラも出やすいっていうのは、森くん以外になかなかいないです。だから、結果的にアルバムの半分以上は森くんのアレンジですね。俺んちに来てくれるんですよ。それで、さすがは神戸大学で、作業が早いの(笑) 他のアレンジャーと俺んちでやる時は、2日まるまるかかるところを、森くんは飯の前にはもう終わらせちゃう。

――時短だ(笑)

そう、時短できるんですよ。こんなに早くできるんなら、飯を食ったらもう1曲やっちゃわないかって話です。もし森くんの作業が遅かったらば、アルバムに入っている彼担当の曲数も少なかったんじゃないかってくらい。「もっとできるかぁ?」みたいな。

――そろそろお別れなんですが、僕は今、朝の番組をやってるんです。夜明けから昼前まで。聞くところによると、明け方に思いつかれた曲があるそうで。

『JAM fo’ freedom』だ。時間的に言えば、この番組が始まる直前くらいかな。アルバムの実質の1曲目に似合う曲がどうもまだできていないなと。他はほとんど全部揃ってるのに、1曲目がない。で、森くんと一緒にその1曲目用にいくつか作って、いい感じのものがあるんだけど、まだ何か足りない。悩み抜いた挙げ句、じゃぁ、いいや、Aという曲にしようと。で、寝ようかなと思ったんだけど、その時に、ものすごい簡単な、ものすごくファンキーなんだけど、ものすごく簡単で一発で覚えちゃうものがフッと浮かんで、「これだこれだ!」と。でも、俺は譜面も書けないし、どうしようかなぁ。フレーズとコード進行のアイデアだけ、電話にササッと入れといたの。明け方の2分で、できちゃったみたいな曲ですよ。

――すごいなぁぁぁ! 今みたいなエピソードをイキイキと直接うかがえるのが、ラジオのインタビューの醍醐味だよなってのをいただきました! そういう短い間に、明け方にフッと曲ができちゃうこともあるんだと。

そういうのがいいもんなの。

――そうしてできあがったのがアルバムの実質の1曲目になっていく。そう、まだアルバムを手に取ってないという方は、レコード屋さんに走ってください。今からかける曲で久保田さんとはお別れですが、まだアルバムを持っていないあなたにとっては、この曲が実質のスタートになる。

すばらしい!

――そしてライブではまた曲順が変わってきます。

もちろん。

――ライブではどうなるんだってあたりを、今度はコンサート会場へ目撃しに行っていただきたい。「Toshinobu Kubota Concert Tour 2019-2020 “Beautiful People”」であちこち回られますからね。チケットについては、久保田さんのホームページをご確認ください。で、久保田さん!

はい。

――CIAO 765にご出演いただくのは、今日が記念すべき1回目でしたが、またちょいちょいお願いします。

少なくとも、次の誕生日が来るまでには……って、1年に2回も何かあるっけな…… まぁ、またお邪魔します〜

――ハハハハ! お気持ちだけでも、ありがとうございます。では、最後に曲紹介を。

はい。『JAM fo’ freedom』を聴いてください。

――ありがとうございました。

ありがとうございました。






野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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