くるりと京都音博 ~野村雅夫のラジオな日々vol.13

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、2007年より京都音楽博覧会を主催する、京都出身のロックバンドくるり。


干支をくるりと一周して12回目を迎えた京都音楽博覧会

僕の住んでいる京都市には、世界文化自由都市宣言という理想が謳われている。

曰く、「千年の都たる京都も、その栄光を誇って孤立するのではなく、人種、宗教、社会体制の違いを超え、広く世界と文化的に交わることによって、永久に新しい文化都市であり続けるべきだ」

立命館大学で結成したロックバンドくるりが2007年に始めた京都音楽博覧会、通称、京都音博(おんぱく)は、僕に言わせれば世界「音楽」自由都市を宣言するようなイベントだ。日本全国に限りなくある音楽フェスの中でも異色なのは、くるりメンバーたちの感度良好なアンテナがキャッチした世界あちこちのミュージシャンが招聘されていること。まさに「博覧会」なのである。

12回の歴史の中で迎えた海外アーティストの出身国・地域を順不同で並べてみると、アメリカ、アイルランド、ルーマニア、ナイジェリア、オーストリア、スウェーデン、アルゼンチン、イギリス、レバノン、ブラジル、フランス、インドネシア、台湾。

ジャンルも百花繚乱だ。ロック、フォーク、ヒップホップ、パンク、演歌、歌詞のあるものないもの、果ては、お経に節を付けて歌われる聲明(しょうみょう)も!

国内のミュージシャンたちのラインナップがまたすごい。すべて挙げるとキリがないので、思いつくままに固有名を挙げると…

小田和正、細野晴臣、奥田民生、石川さゆり、矢野顕子、遠藤賢司、高橋優、木村カエラ、RIP SLYME、椎名林檎、高野寛、八代亜紀、Mr. Children、ASIAN KUNG-FU GENERATION、布施明、田島貴男、UA、スターダスト・レビュー、ハナレグミ……

こうした錚々たる面々が、種々の違いを取り払い、京都駅から徒歩圏内に位置する市民の憩いの場、梅小路公園に集って思い思いに音を奏でるさまは、なんとも意義深く滋味深い。

昨年は新たな試みもあった。オリジナルのフィルハーモニー管弦楽団を所狭しとステージに乗せ、日本屈指のベテラン手練たちによるハウスバンドをバックに、シンガーたちが入れ代わり立ち代わりマイクを握る「”生”歌謡ショー」を行った。僕はその総合司会としてタキシードに身を包み、古き良きテレビの歌番組よろしく歌い手たちを迎えては送り出した。

その流れもあり、再びMCを務めさせてもらった12回目の今年9月23日(日)。くるりは数日前、実に4年ぶりのアルバム『ソングライン』をリリースしたばかり。その新しいレパートリーからの演奏も期待されるのはもちろんなのだが、しんがりを務めるのは意外にも3年ぶり。昨年は歌謡ショースタイルで全体が特殊な構成だったし、一昨年は夕方から襲った豪雨の影響でイベント自体が途中で打ち切りとなり、くるりのパフォーマンスは幻と消えた。

「お集まりの皆さん、3年ぶりに音博のトリを飾る我らがくるりを、この3年間で一番の万雷の拍手でステージに迎え入れようではありませんか!」

こんな僕の煽りに促されて舞台に立った岸田繁、佐藤征史、ファンファン、そしてサポートメンバーたち。合わせて12名という大所帯。

今回のアルバムを聴いてもらえばすぐにわかることだけれど、ハイライトと言える流れがある。タイトル曲の『ソングライン』から『Tokyo OP』というインストゥルメンタルへ。音博のセットリストでも、その2曲を再現するくだりが用意されていた。

作詞作曲をしている岸田繁の音楽体験の原点のひとつは、クラシックにある。キャリアの転換点となった名盤と言われる2007年の『ワルツを踊れ Tanz Walzer』以降、彼は管弦楽とロックをどう融合させるかという命題に何度も取り組んできた。2年前には岸田繁交響曲第一番を作曲。広上淳一の指揮と京都市交響楽団による初演が披露され、CDも発売された経緯もある。

今回のアルバムのクライマックスたる2曲は、そうして腐心してきた取り組みの堂々たる成果と言えよう。これはアルバムのセルフライナーノーツにも記載のあることだが、『ソングライン』で使われているトラックの数は100を超える。もともとはシンプルなフォーク・ロックとして着想されたものに、文字通り(あるいはサウンド通り)溢れ出るアイデアの数々がどんどんプラスされて現時点でのくるりの集大成的な曲へと成長した。ビートルズ、ニール・ヤング、ラヴェル、自身の交響曲、アルコール、大好きな球団広島、電車、そして少年のモチーフ……岸田繁を構成するこうした種々の要素が結実した音楽的タペストリー。

そして、『Tokyo OP』はプログレッシヴ・ロック。まさにクラシックをロックがどう取り込むかというジャンルなわけで、メロディーラインも構成も先の読めない展開はひりひりするほどの緊張感をたたえる。ライブでの初めての披露に僕は立ち会っていたが、音楽であそこまで手に汗握ったのは久しぶりだったし、しばらくは興奮冷めやらなかった。いずれも5分を超える「音の博覧会」で、演奏の難易度は極めて高い。そんな流れを1万2300人(チケットはソールドアウト)の聴衆へ向けて響かせたくるりは、自分たちのホームで確固たる存在感を見せつけた格好だ。

終演後、関係者でごった返すバックヤードから少し離れたところで、僕は岸田さんと佐藤さんと缶ビールを開けてささやかな乾杯をした。ビールを流し込んだその腹の底から絞り出したような声で、ふたりは口を揃えてこう言った。

「疲れた〜〜〜〜〜〜」

MVで確認してもらえればわかる通り、『ソングライン』という曲の歌い出し直前には、缶ビールを開ける音が入っている。それを踏まえて僕が「このプシュって音を聴くと、『ソングライン』がまた頭の中に流れ出しますよ」と言うと、ふたりは大きな満足感をたたえてくしゃくしゃになった顔で「ほんまや〜」と大いに笑ってくれたのだった。

干支をくるりと一周して12回目を迎えた京都音楽博覧会。「音博は盆と正月が一緒に来るような感じ」とメンバーが言っていたが、くるりは最高のコンディションで、ここからまた新しい1年を刻んでいく。13回目を迎えるその日まで、僕は彼らに寄り添って応援していきたい。

開演前のステージに立つ僕。撮影:岸田繁


くるりは来年5月に全国4都市を巡るライブツアー5公演を発表している他、岸田繁は交響曲第二番の初演をこの冬から来年にかけて行う。

京都公演 12月2日(日):京都コンサートホール

名古屋公演 12月4日(火):愛知県芸術劇場コンサートホール

東京公演 3月30日(土):東京オペラシティコンサートホール

チケットの一般発売は9月30日(日)

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