全てを愛で包みこんでくれる伝説のママがいる店~玉袋筋太郎のスナックミシュラン⑪湯島『ここ』

全日本スナック連盟の会長である玉袋筋太郎さんがスナックを巡り、プロの目線で、ママやお店の評価を下す連載「スナックミシュラン」。日本列島津々浦々、スナックは全国に7万軒もあるというのに「興味はあるけど行ったことがない」なんて人も多いはず……。玉袋筋太郎さんが、ママのキャラ、お店の雰囲気、つまみ、歴史、時にはお客さんの質まで、深い愛情を持って★をつけていきます。  第11回は東京・湯島にある『ここ』。   

今回、取材に伺ったのは文京区、湯島にある『ここ』さん。 大ママは顔出しNGのため、取材はチーママさんが対応してくれた。その大ママは、カウンターの向こうから参戦。玉ちゃんに「新宿や銀座だけでなく、湯島にも母がいる」と言わしめた大ママとは、果たしてどんな人か。年配客が長年お店に通う理由は、大ママが介護ヘルパーの資格も持っているからではないはず。さてさて、どんな話が聞けるのか。

70人にテレホンカード

玉ちゃん:さあ、来ました、湯島の『ここ』ですよ。ここからスタートというかね、湯島の北極点ですよ。俺もここから始まってるんじゃないかね(笑)

チーママ:もう8年くらい?

玉ちゃん;そうね、チーママとは8年くらいかな、関係もってからね。ガハハハ(笑)

編集部:そうですか、そこはスルーしますね(笑)

取材に対応してくれたのはチーママ。大ママは顔出しNGとのこと。

玉ちゃん:いやいや、俺も『スナック玉ちゃん』という自分のお店を8年続けてこれたってのも、『ここ』との出会いがあったからっていうのもあるんだよね。

編集部:『ここ』さんは何年になるんですか?

チーママ:大ママから数えると30年くらいになりますかね。以前は、場所も規模も全然違ったんですけどね。

玉ちゃん:そうそう、もっと大箱でね。

大ママ:そうそう、50人くらい入る大きいお店だったの。会員制でね。

編集部:会員制で50人の箱ですか?

大ママ:そう。中に50人いたけど、外に入れないお客さんが70人とか並んでたの。入れずに帰るお客さんもいるでしょ。そういう方にはね、昔あったテレホンカードね、それを1枚ずつあげてたのよ。1杯も飲んでもらってないのに、こっちがお金あげてるみたいだったわよ(笑)

玉ちゃん:損して得とれっていうことだね。

大ママ:それでね、待っているお客さんのために、通路にテーブル出して、そこで「せっかくいらしてくださったんだから、ビール一杯飲んでいってください」ってビール1杯飲ませてたんですよ。で、中にいるお客さんがトイレ行く時に、待っているお客さんをみるでしょ? そうすると、「あの人たち可哀想だね、ママ、刺身出してやれよ」って、中の人が外の人におつまみをご馳走してくれるの。だから、中で食べるより外で食べる方がね、昔の屋台みたいでタダだから、得だったわよね。

編集部:外の人はお金払わなくていいんですか?

大ママ:そうよ、しかもテレホンカードももらえるしね(笑)

玉ちゃん:うわー、それはすごいねー。炊き出しだね(笑)

大ママ:そうそう、おもしろい話があってね。うちがその場所を出た後にね、うちが人気あったもんだから、それを真似て『あそこ』っていうお店をやった人がいたんですよ。うちのお客さんも面白がって少し流れたけど、結局すぐに潰れちゃったのよね。やっぱり『あそこ』より『ここ』がいいってね(笑)

玉ちゃん:おおお!大ママ、かましてくるねーわ(笑)チーママ!負けてるぞ!

チーママ:無理だ、あんな風に喋れない(笑)

カウンターに居るママに向かって乾杯!

釣果で決まるメニュー 

チーママ:結局、その大箱の時から、3回くらい場所を変えて、今に至るんですよ。その時その時、時代に合わせてね。

玉ちゃん:どんどん洗練されてきたんだね。

チーママ:でも、大箱の時の名残もあるんですよ。その当時、桜の時期に、本物の桜の木を店内に飾って、シートを敷いてみんなで飲んでたらしいんです。その名残があって、いまだに桜の時期は、店内が桜でいっぱいになるんですよ。

玉ちゃん:そうそう、この中、桜だらけなのよ!外に行けば、すぐそこで花見できるのに、みんな外行かないでここで飲んでんのよ。それがまたすげーいいんだよ。

チーママ:もう、枝越しに会話する感じになっちゃうよね(笑)

玉ちゃん:ママ、凝り性だもんね。

チーママ:本物志向。

玉ちゃん:ママ、最近、腰を悪くしたけど、もう釣りが好きでね。沖釣りね。魚を釣ってきちゃ、お客さんに振舞ったりしてね。

チーママ:前は、月曜日の釣果によってメニューが決まってたね。

編集部:もう、漁師めしじゃないですか(笑)

玉ちゃん:いいでしょ? 鯛の刺身、唐揚げ、煮物、全部出るからね。

チーママ:だから、段々とお店の規模は小さくなっているけど、中身は一緒(笑)

その場で調理した料理が次々と机に。

玉ちゃんに残るタモリさんの言葉

編集部:それじゃ、お客さんも昔からの方が多いんですか?

チーママ:そうですね、もう70代とか80代のお客さんも多いですね。

玉ちゃん:そっか、そうだよな。若いのだといくつくらい?

チーママ:若くて40代かなぁ。

玉ちゃん:そう思うとさ、40代でも若いんだと思ってほしいよね。

チーママ:そう、だから40代の時は気がつかないけど、すごく幸せな時期を過ごしているということをわかってほしいなって思うな。健康だしね。

玉ちゃん:そうね、やっぱり健康って大事だからね。年取ってさ、妻に先立たれちゃった人でさ、外に出る気力なくなって、頑固になって、家に引きこもって、気が付けば孤独死なんてあるからね。それがさ、こういうスナックというリハビリセンターがあってさ、こういうお店に来て人と喋って飲んでたら元気になったりするんだよね。

チーママ:10年くらい前、タモリさんが玉ちゃんと撮影でいらした時に、こういうお店の在り方を見て、「これはナイトサービスだから、国から補助をもらった方がいいのにね」って仰ってました。

玉ちゃん:あの頃、タモリさんが60ちょいで、俺が40ちょいだったかな。その時にタモリさんがカメラが回ってないとこでスッと言ったその一言がすごく響いてね。「ああ、スナックっていいとこなんだな、自分が応援しなきゃけないな」という俺の後ろ盾になってるんだよね。

チーママ:最終的には、自分が70代80代になるからね。その時に、自分の居場所は自分で確保しなきゃいけないから。

玉ちゃん:だから『ここ』なんだよね。みんなが、個々に『ここ』を持てばいい。ってな。

タモリさんとの思いでを語るチーママ

クリックよりも…

玉ちゃん:そんな『ここ』に通うお客さんは、やっぱり古くからの常連さんが多いよね?

チーママ:ほとんど常連さんだけかな。

玉ちゃん:だよね。そのさ、古くからのお客さんをさ、大ママが本当に大事にしていてさ、そういうとこにも俺は惚れちゃったんだよね。

チーママ:本当に大事にしているんですよ。ママは、お馴染みのお客様のお墓参りをご家族にも内緒で、密かにずっと行っているんですよ。ご家族の方がお墓参りに行ったら、先にママの花があるみたいな。

玉ちゃん:ね、すごいよね。それを続けているのもすごいけどさ、そこまでの関係を、このスナックで築いていることがすごいよね。スナックにはそれがあるんだよね。今の時代はさ、クリック一つで何でも手に入るし、悩みすら解決されるような感じ、あるじゃない?

でもさ、ここまでの関係構築とか、ためになる話とかさ、そうじゃないと思うね。

やっぱ、クリックよりスナックだよ。


編集後記(取材陣の感想)

大ママは顔出しもNGで、取材中も常連さんの接客をされていたので、あまり伝わっていないかもしれないが、『ここ』の大ママはすごい。

明るく、声が大きく、貫禄があって懐が深い。全てを受け入れて愛で包んでくれるような雰囲気を持っていて、色んな悩みを話したくなってしまう。チーママが「大ママは、厳しいことも言うし、真は強いが、我が強いわけではない」と言うように、ハッキリとものを言うが、嫌味はなく、話をしていてとても気持ちがいい。大雑把で豪快な感じを持ちながら、鋭い洞察力で、人の心や状況の変化を察知して、さりげなく気遣う細やかさも持っている。

背中を押して欲しいとき、迷っているとき、岐路にたったとき、元気が欲しいとき、『ここ』がある。


LOVE
★★★
「全てを包み込む、大ママの愛」

FOOD
★★★
「目よりも高いとこにある鍋。その鍋の中の音を聞いて料理の加減をみるってんだからすごいよね」

ENERGY
★★★
「腰が痛くても店に立ち続け、一度も泣き言を言ったことがない、圧巻のパワーだね」

ここ
住所:文京区湯島3-37-10柘植ビル1階
TEL: 03-3839-7763
営業時間:19:00~24:00
定休日:土曜・日曜・祝日

Composition=河合昇平(コレロ) Photograph=吉田タカユキ  

玉袋筋太郎
玉袋筋太郎
1967年6月22日、東京都新宿区生まれ。実家はスナック。高校卒業後にビートたけしに弟子入りし、1987年に水道橋博士と漫才コンビ「浅草キッド」を結成。社団法人全日本スナック連盟会長も務め、『浅草キッド玉ちゃんのスナック案内』などの本を手がける。
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