石原慎太郎が40年愛した海の家

朝起きると、部屋から海を一望できる──。ここは、海と湘南とヨットをこよなく愛する石原慎太郎さんの邸宅だ。創刊8周年を記念し、読者だけにその特別な場所を見せていただいた。

その家は眼下に海が広がる切り立った崖の中腹にあった──

逗子湾を望む山の中腹に造形された敷地は南北に細長く、西(奥)に山、東(手前)に崖。そこに左右シンメトリーのコンクリート打ちっ放しの白い建物がドンと鎮座する。

 ヨットマン【yachtman】ヨットに乗ること自体が、その人の生き様そのものになっているような「海の男」の尊称。単にヨットに乗る人、道楽としてヨットを所有し乗っている人とは意味合いが異なる。

「寝室でもある書斎からは、逗子湾が一望できる。僕は海が好きだから、いつでもヨットに乗っているような気分でいられるのはありがたいことだね」
 緩く弧を描く逗子の海岸。その西側、原生林が生い茂る小高い山の崖上に、忽然と白い城塞のような建物が現われる。ここは石原慎太郎さんの逗子にある邸宅だ。眼下には海が広がり、逗子と葉山のマリーナからの艇の出入りが望める。

「この家を建てたのは40年以上前。それまでは逗子の別の場所に住んでいたんだ。ある時、散歩をしていたら、偶然この土地に出合ってね。眺めがいいし、子供ものびのび育てられそうだから、その場で購入することを決めた。建築家はRIAっていう建築事務所の近藤正一さん。彼に要望したのは、シンメトリーであることだったな」

山から見た邸宅の屋上部。奥には逗子・葉山の海と山、街が広がる。

切り立った崖の中腹に建てた鉄筋コンクリートの建物。山側、正面中央の大きな鉄の2枚扉を開けると、巨大な玄関ホール、階段、2階の回廊が目にとびこんでくる。壁にはヨットの写真や航海図、海をモチーフにしたアート作品が飾られ、また海側のすべての部屋の窓は、左右端から端、床から天井まで大きくとられている。この家は、海と一体化できる建物なのだ。

一面窓の書斎兼寝室。眼下に逗子湾、その向こうに葉山の海が広がる。「朝目覚め、太陽が昇ってくるのを見ながら、今日の海はどうか、と想像する時間が楽しみだね」

 高校生の頃からディンギーを操り、国内外の数々のヨットレースで活躍した慎太郎さんにとって、ヨットは特別なものだ。以前、ニューヨーク・タイムズの政治に関する取材で、慎太郎さんはこう答えている。

「ヨットというと優雅に見られているが、とんでもない、レースはほとんど喧嘩腰だ。自己主張し合い、多くの艇がギリギリのところで勝負する。しかし、その激しいレースが終われば、それまで罵り合っていた連中が、一緒に肩をたたき合ってウイスキーを飲むんだ。この駆け引きや真剣勝負が、そのまま僕のスタイルになっているな」

 そんなヨットマンの慎太郎さんにとって、この逗子の家ほど心から寛(くつろ)げる場所は他にないに違いない。なぜなら、ここは慎太郎さんの美学が隅々にまで貫かれた、ヨットマンのための家だからだ。

客間の重厚なサイドボードの上には、国内はもちろん、数々の国際ヨットレースで勝ち取ったトロフィーがずらりと並ぶ。

Photograph=黒﨑 彰
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石原慎太郎
石原慎太郎
Shintaro Ishihara 1932年神戸市生まれ。一橋大学卒業。55年、大学在学中に執筆した「太陽の季節」により第一回文學界新人賞を、翌年芥川賞を受賞。ミリオンセラーとなった『弟』や2016年の年間ベストセラー総合第一位に輝いた『天才』、『法華経を生きる』『老いてこそ人生』『子供あっての親-息子と私たち-』など著書多数。
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