日産のキーパーソンに聞く 人が運転に関与しない時代は本当に来るのか?


総合研究所 所長
アライアンス グローバル ダイレクター
土井三浩

単なる移動ではない質の高い移動を創造する

 「クルマの歴史は世界中の市場に出て、初めて経験する不具合の歴史でもあるのです。安心して使える自動運転は、その経験のうえに成り立ちます」

 そう語るのは、日産の最先端技術開発のキーパーソンである土井三浩氏。現在の自動運転が目指している重要な目的のひとつは「事故がない世界」であり、決して人間が楽をしたり、怠けたりすることを主眼としたものではない、と言う。

 「すでに自動運転は完成しているように言う人もいます。しかし、正確に現状分析すれば、自動ブレーキや先行車の自動追従などのいくつかのシステムを組み合わせ、ようやく初歩的な自動運転ができるようになったところ。もちろんゴールは、人間が運転にまったく関与しない完全自動運転です。ドライバーとしての監視や操作から完全に解放され、後ろの席で乗員同士が向かい合って、リビングで寛ぐようにドライブを楽しめること。もちろんAI(人工知能)化は絶対条件です」

 現在、日産はシリコンバレーや日本での一般路を使った自動運転の実証実験を行っており、大きな成果を得ている。

自動運転車とは、モビルスーツのようなもの

実験車のリーフ。自動運転を可能にするのはミリ波レーダー、レーザースキャナー、カメラなど、ふんだんに搭載したデバイス。そして、そこから得た膨大な情報を処理する高速チップだ。

 「これまでの進化のなかでクルマはブレーキ、ステアリング、アクセルなど、すべて電動化によって制御できるまでになっています。重要なのはこれを正確に機能させること。そのためにはまず"正確に認知"して、次にその情報を"正確に判断"して、そして最後に"正確に操作"しなければなりません。ところが、人間の能力には限界があります。自動運転というのはそれを補うもの。つまり身体拡張の役割を担うものなんです。身体能力を数多くの電子制御によって向上させ、正確に素早く可能な限り安全方向に対処する、いわばモビルスーツのようなもの。まだ、『ナイトライダー』の世界には時間はかかりますが、かといって遅れているわけでもありません。20年前、現在のクルマがどうなるか想像しましたが、だいたい予定どおりの進捗具合です」

 こうした状況のなか、カルロス・ゴーンCEOは昨年の東京モーターショーで「2016年に渋滞中の単一レーンでの自動運転、18年には高速道路での車線変更しながらの自動運転、20年までには市街地での自動運転を実現する」と宣言した。

 「実際に可能でしょう。ただ現在は、道路の白線が消えていたりした場合や、右折時に見えない所から現れるバイクなどはなかなか予測ができません。また、例えば自動運転システム搭載車と無搭載車が混在する状況では、車々間通信も行えません。まずはうっかりミスや突然のアクシデントなどが起こらない事故のない世界を実現すること。そのうえで、あくまでも人間が楽しく、リラックスした移動時間を過ごせる自動運転を目指します。クルマは最良のパートナーなのですから」

 矢沢永吉のCM「やっちゃえNISSAN」をはじめ、"自動運転の積極展開"を宣言した日産。技術のリーディングカンパニーが考える近未来の自動運転は、単なる移動ではない、質の高い移動なのだ。まずは、今年、世界に先駆けて日本市場に導入する、混雑した高速道路上での安全な自動運転技術「パイロットドライブ1.0」の登場を待ちたい。

Kazuhiro Doi
1960年東京都生まれ。85年日産自動車中央研究所入社。クルマの振動、騒音、ITSなどの研究、小型車の商品企画の責任者を経て現職。EVや自動運転車など次世代のクルマとその社会の在り方をデザインする総合研究所を率いる。

Text=佐藤篤司 Photograph=太田隆生

*本記事の内容は16年4月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)