ホットで実に大人な「メルセデスAMG A35」【深堀クルマNEWS③】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。第3回は、メルセデス・ベンツの「メルセデスAMG A35 4MATIC」について。  

ストリートに特化したキャラクター  

憧れの輸入車として高い人気を誇るメルセデス・ベンツ。かつては「小ベンツ」と呼ばれた小型セダン「190E」が一世を風靡したが、現在、その役割は、コンパクトハッチバック「Aクラス」が受け継ぐ。2018年秋にデビューした第2世代は、全面刷新が図られ、基本性能が大幅に向上。そのモダンかつスポーティなキャラクターにも磨きがかけられたことで、より幅広い層から支持されている。そのAクラスにもスポーツモデルが存在する。それが、2019年に登場したピリ辛な高性能仕様「メルセデスAMG A35 4MATIC」だ。

メルセデスAMGについて触れておくと、このモデルは、メルセデス・ベンツをベースに、高性能化を図ったハイパフォーマンスシリーズとなる。セダンからSUVまで幅広いモデルが設定され、その守備範囲は、サーキットまで含む本格的だ。(もちろん、SUVでサーキットを走る人は、あまりいないだろうが……)その中でAクラスは、メインストリーム同様に、メルセデスAMGでもブランドエントリーを担う。つまり最も身近なAMGなのだ。

A35の最大の特徴は、ストリートに特化したキャラクターであること。Aクラスの高性能モデルには、「A45 S 4MATIC+」という上位グレードが存在するが、こちらは、よりスポーツ性を高めたもの。性能だけなら、このA45に軍配が上がる。但し、それはサーキットなどの限られたステージでのこと。公道でスポーティな走りを楽しむには、有り余るパワーは、むしろドライバーの足かせとなることも多い。

さらにハイパワーを受け止める足回りは、当然強固なものとなり、乗り心地も悪化する。それならば、パワーを抑えることで、 コントロール性を重視し、日常での快適性も高める日常で最大限楽しめるスポーツカーとして送り出されたのが、この「A35」なのだ。

とはいえ、そこは高性能なAMG。控えめとはいえ、スポーツモデルとしては、不足ない内容を持ち合わせる。搭載される2.0Lの4気筒ターボエンジンは、最高出力306ps、最大トルク400Nmを発揮。トランスミッションは、DCTタイプの7速ATだが、AMGチューンが加えられたスポーツタイプのATとなる。当然、ブレーキ性能も高められている。駆動方式は、前後のトルク配分が連続可変制御される4WDで、前後100:0から50:50で変化することで走行状況に合わせて最適な駆動力と高いコントロール性を提供してくれる。

試乗車は、「エディション1」というA35の導入記念限定車で、高性能モデルらしい華やかなエクステリアを持つ。デニムブルーのボディカラーに、サイドにはマットテットゴールドのストライプと同色をアクセントに取り入れた19インチアルミホイールが映える。最も象徴的なのは、リヤの大型ウィング。まさに乗り手の気持ちを高揚させる、やる気仕様だ。インテリアは、Aクラスのものをベースするが、ホールド性を高めたシートを装着するなど、スポーツドライビングに敵した仕様となる。

ドライブに連れ出すと、ベースとなる2代目Aクラスの進化もあり、想像以上に快適だ。これなら、ロングドライブでも、同乗者の不評を買うことはまずない。限定車の派手な見た目とは裏腹に、なんとも大人っぽいクルマだなというのが第一印象だ。もちろん、走りは軽快でスポーツハッチバックらしいが、スポーツカーとしてみると、少し刺激が足りないのも正直なところ。

そこで車両各部の味付けを変化させるドライブモードを標準となる「コンフォート」から「スポーツ」へとチェンジ。すると、エンジンサウンドやステアリングの重さ、電子制御による足回りが固められるなど、スポーツハッチのキャラクターが強まる。ただこれでもAMGの名からすれば、まだまだ大人な味付けだ。そこで本性を暴くために、モードを「スポーツ+」とすると、そのキャラクターは、アスリートへと化ける。

クルマの動きは、より俊敏さが増し、エンジン回転数は高めをキープし、必要とあれば、より素早いシフトダウンを行うために、エンジン回転数の制御まで行う。さらにマフラーからは、勇ましいエンジンサウンドを響かせる。この地上の戦闘機というべき姿こそ、A35の隠された素顔なのだ。絶妙なのは、公道でもアクセルをしっかりと踏み込めるシーンを作り出していることだ。

そのスペックを数値だけでなく、肌で感じることで、ドライバーはクルマとの一体感が強まる。すなわち、操る喜びが得られるのだ。もちろん、常に、そこまで濃厚な付き合いする必要はない。コンフォートモードにさえセレクトしておけば、日常では、従順なスポーティなハッチバックを装ってくれる。高性能モデルを送り出すAMGが、公道に的を絞った作り上げたA 35は、その名に恥じないホットなモデルでありながら、実に大人なクルマに仕上げられていた。

ただその対価は決して安くはない。カタログモデルで628万円。限定車エディション1では、743万円にもなる。価格差は、115万円にもなるが、装備内容を考慮すると、お得な内容となっていることが悩ましい。ただ、かつてホットハッチを愛した大人なら、その魅力を理解し、最良な一台となることだろう。

Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。