宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー番外編『ルパン三世 カリオストロの城』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。 

カリオストロの城レビュー

前回のジブリレビューで、未ジブリ作品も残すところあと一作、「火垂るの墓」で最終回です! みたいなことを書いたと思うのですが…すいません、次回をラストジブリとさせていただいて、今回はこの作品でレビューさせてください…。

…正直なところを言いますと、これ、ジブリ作品と思って最初の頃に間違えて買っちゃってたんですよ。Amazonで6,000円も出して。このままカリオストロに触れず、無かったことにしようかと思ったりもしたのですが…やっぱ勿体無いじゃないですか。あ、6,000円が勿体無いとかじゃなくて、宮崎駿監督の処女監督作品をこのまま見ずにジブリレビューが終わることがってことです。

なので本当申し訳ないのですが、「カリオストロはジブリじゃねーから」と言いたいジブリストの方もいらっしゃるのは重々承知の上、今月は「カリオストロの城」でジブらせてください…。

ちゃんと「カリオストロの城」童貞でした

で、しかもですね、「カリオストロの城」ってとっくに子供の頃に見たつもりでいたんですよ、金曜ロードショーで2〜3回は見てんじゃないかな? と。…え、じゃあもうジブリ童貞って何だよって話になるんですが、本当に曖昧な記憶でして。カリオストロの公開が1979年、私が生まれた翌年ですからね…あんま関係ないか。

幼少期に七つ上の兄にかけられた例の「ジブリは見るな」の呪縛はあったものの、ルパンだしこれは大丈夫だろ…と、子供だしうっかり見ちゃってたんじゃないかな? と。というのも、私も私の兄もテレビアニメのルパンがそこそこ好きだったんですよ。ルパンとかスペースコブラとか(相棒じゃなく刑事貴族の)水谷 豊とか、主人公が三枚目系で、余裕を見せながら敵を倒す展開の作品に憧れがあったんでしょうね。兄も私もイケメンではなかったので(学生時代の兄のあだ名は“こぶ平”“こぶ”でした)、三枚目を気取って生き延びるしかなかったのでしょう。    

そんなわけで、なんだかんだ見てただろうしBlu-rayも買っちゃってたし、自粛中で飲みにも行けなくて時間もあるから「一応見とくか〜」ぐらいのつもりで再生したんですよ。するとビックリしたことに、「カリオストロの城(以下:カリ城)」全く見たことなかったんですよ…。初見中の初見、初見オストロ(しょけおすとろ)でした。幼少期の私、偉いですね…何かを嗅ぎ取って今日までカリオストロを避けてきたんですね、ほんと偉い。池田偉いザ。

なんかおかしいなとは思ったんですよね、カリ城のビジュアルポスターの中に「マモー」がいないから。私が知ってるルパンの映画は、3時間ぐらい噛み続けたミントガムみたいな顔色の「マモー」という怪人が出てくるのですが、待てど暮らせどマモーはおろか、ミモーもウッチャンもナンチャンも出てこない(ミモーとウッチャンナンチャンはいくら待っても出てこないですが、あ、マモーはウッチャンか…どうでもいいですね…)。

マモーが出てくるのは「ルパンvs複製人間」でした    

オープニング曲の「炎のたからもの」も初めて聴きましたが、チャプター戻してもう一回聴き直してしまうぐらい良いですね…なんでしょうね、この“カラオケで歌いたくなる感じ”。味もよくわかんないのにブランデーとか飲みながらね…そういやカラオケももう何年も行ってない気がしますね…。早く完全に元の世界に戻ってほしいものです。

ちなみにですが、TVアニメのルパンで覚えているのは、ルパンが着てるジャケットの色がシーズン毎に? 緑、赤、ピンクがあって、ピンクだけなんかちょっと女子(じょし)みたいでヤダな〜って感じてた記憶があるので、まだ幼かったのでしょうね…今はピンクのジャケットが通(つう)っぽい感じがして好きです。あと、なんでも斬れる石川五ェ門の斬鉄剣が、こんにゃくだけ斬れないという設定も妙に覚えてますね。たぶん自分が死ぬ時に見る走馬灯の中に、その斬鉄剣とこんにゃくの場面は数秒登場すると思います。

ルパンに対する思い入れはそんなところでしょうか…(少なっ)。それでも夕方学校から家に帰って再放送の「ルパン三世」をよく見てましたね…懐かしい。まだ元気だった母が作ってくれたパンの耳をカリカリに揚げて砂糖をまぶしたやつを食べながら観てた記憶があります、よく「アリンコ来るよ!」って叱られてたっけ…。

ちょっと話が逸れましたが…先に言っておくと、カリ城童貞ではあるものの、さすがに銭形警部の「奴は大変なものを〜」ってセリフだけは知ってます。この日本で生きている以上、このセリフと織田裕二の「事件は会議室で起きてるんじゃ〜」はどれだけ興味がなくても必ず耳に潜り込んでくるので。銭形警部のセリフについては後半に漫画で詳しく描いたのでお楽しみに。

すごいオープニングだけどルパン三世のテーマを止めないで…

冒頭からいきなりルパン&次元によるカジノ泥棒、盗んだ大量の札束は全て偽札、それがルパンたちを今回の舞台カリオストロ公国に誘うきっかけに…で、タイトル「カリオストロの城」。ここまででおよそ2分。全く無駄のない、むちゃくちゃわかりやすいオープニング。引き込み力がウチのダイソンよりも凄い…才能ありますね、この宮崎って監督は。初監督? 本当に?(もう少しこの偉そうな感じでいきますが許してください…)

で、ルパンの愛車のフィアット500がパンクして、次元とジャンケンしてタイヤ交換、あえて道端に咲く花々越しののんびりした風景の画面で二人の関係性をゆったり見せる…のかと思ったら、追っ手から車で爆走して逃げる花嫁姿のヒロインが飛び込んでくる。脊髄反射的に追いかけるルパンたち、その車の生き物みたいな挙動表現とスピード感、そこに「はい、みんなが聴きたかったやついくよ?」とばかりに始まるルパン三世のテーマ。テッテレッテ〜♫

まさに才能の塊…いや、本当凄いな…。この宮崎って監督、たぶん日本を代表するアニメ監督になるんじゃないですかね…給付金全額賭けてもいいです、まだもらってないけど。

…ただ、ですよ。ここでちょっとだけ思ったんですが、自分みたいなジブリ童貞丸出しの、演出だとか何もわかってない普通のおじさんが意見するのもあれなんですが、この後に展開される一大カーチェイスのシーンで、気持ちよく聴いてたこのルパン三世のテーマが何度か一時停止されるんですよ。対向車のバスが正面から飛び込んできた時と追っ手が手榴弾を投げてきた時だったかな…。

ここは監督、ルパン三世のテーマを止めないでほしかった…かも。しかも曲が再開するとちょっと巻き戻っててまた最初からなんですよ…なんでちょっと戻すかな監督…素人が偉そうに無粋なこと言ってるのはわかってるけど…ルパン三世のテーマは通しで聴きたかったな〜…そんなことを思いました。まぁ、サントラ買って勝手にエンドレスで聴いてろって話なので全然どうでもいいですが、とにかくフィアット500が走り出した時は胸のあたりをギュッ! と掴まれたような熱いものがありました、素晴らしいオープニング。

そんなオープンニングの話とあんまり関係ないんですが、一緒に見ていた5才の娘が一緒に見たがってたわりに冒頭の泥棒シーンがちょっと怖かったのか、急に関係ない「どうぶつの森」の話をし始めたので、最近彼女がハマってる塗り絵をやって待っててもらうことにしました。

せっかくなので、冒頭でルパンが国営カジノから逃げる時に、警備の車のボンネットの裏に貼ってあった完全に人をナメてるルパンの張り紙を塗り絵にしてみました。「おとうさんごくろうさん」と書き足された文字に父も思わず涙。

ルパンの中にパズーの細胞が混在している気がする…

先に書いたように、そこまでテレビアニメ版ルパンに思い入れがあるわけじゃないので、「なんか違う! こんなのルパンじゃない!」とか言うつもりは全然無いのですが…顔がコロコロ変わるルパンに少しだけ違和感を感じました。ラピュタのパズーっぽかったり、ハイジのペーターみたいだったり。

ルパンってもうちょっとスケベだったような気がするんですよね。途中カリオストロ城に潜入していた峰 不二子と合流するんですが、不二子ちゃんにほとんど興味を示さないんですよ、頭の中は少女・クラリスのことのみ。まぁ、私もカリ城の迷彩服着た不二子にはあんまり何とも思わなかったので、これはそういう趣味の問題なのかもしれません。

「アルプスの少女ハイジ」のアルムおんじみたいな庭師も出てくるし、途中、ルパンとハイジの世界の境界線が曖昧になったみたいな感じがしました。…あ、さっきからサラッと「アルプスの少女ハイジ」の例えを放り込んでますが、dアニメストアに課金して自粛期間中に娘と見始めたんですね。また話が横道に逸れそうなので詳しくはまた別の機会に書きますが、ハイジ、情操教育アニメとしても相当良いですね…。自分のような高畑ファンだけじゃなく、娘がいるパパにはマストで触れて欲しいアニメです。このジブリ童貞の連載がなかったら改めて見ることはなかったので、GOETHEさんには感謝ですね…。

noteで不定期にハイジの親子レビュー「ジブリ童貞スピンオフ『ハイジを見せる育児』」もつけておりますのでよかったら…。

ジブリ=ロリコンのイメージ問題に決着

男兄弟の中で育ったからか、作者のロリコン願望が作品に染み出ちゃってるものに過剰に反応してしまうところがありまして…それがジブリ童貞をこじらせていた大きな要因だったとも思うのですが、これまで何十本とジブリ作品を見倒してきて、まだ完全に拭い去れてなかったんですね、ジブリ=ロリコンアニメという勝手なイメージが(萌えアニメが一般的となった令和の現在でこんなこと書いてるのは、時代遅れも甚だしいのですが、私は兄からジブリを止められて時間と物を見る感覚が小四の二学期ぐらいで止まっているので勘弁してください…)。

ルパン(おっさん)がクラリス(少女)と結ばれるかもしれない…というシナリオも、正直そこまで気持ちの良いものでもないなと思いつつ見ていたのですが、終盤の伯爵とクラリスの結婚式をルパンがぶっ壊しに来るシーンでルパンが伯爵に放ったセリフを聞いて、思わず「ハッ」としたんですね。

「妬かない妬かない〜ロリコン伯爵」

…え、ルパン(宮崎監督本人の変装)がそんなこと言うんだ…(自覚あるんだ…)と思ったんですね。もうちょいわかりやすく言うと、ロリコンという概念が宮崎アニメの中にあることにちょっとホッとしたというか。

そうなると、急に「ロリコン警察」みたいに生きてきた自分が恥ずかしくなってきてですね…年齢とか関係なく、恩義の隣におまけみたいにくっついてくる愛だってあるだろうと、考えが180°ひっくり返ってしまったんですね。垣根を越えてくる愛情こそが人間愛。なのでカリオストロ伯爵も加藤 茶さんも別にロリコンでもなんでもないです。(っていうかロリコン警察って何?)

銭形の最後のセリフで笑ってしまう

これはおっさんになってから見た私に問題があるから聞き流してもらって大丈夫なんですが、最後のあの有名すぎる銭形警部のセリフ「奴はとんでもない物を〜」ってやつ、あれも初めて本編の中で聞いたのですが、感動というか、感動を通り越してちょっと笑ってしまったんですよ。

改めて、あれって銭形(銭形に変装した宮崎監督)が上手いこと言ってるわけですよね、実際だったら警察として言わなくていいセリフというか。落語のサゲ(オチ)みたいな、おあとがよろしいようで的な。そのセリフをわざわざ言いに来たんだなと思うと、なんかその背景を想像してしまうというか…その上手いこと言いに来ました感がちょっと可愛くてクスッときてしまうんですよ。

本当ならグッとこないといけないところなんですが、これはおっさんになるまで何十年と発酵させたからいけないわけで、せめて学生時代に金曜ロードショーで見て「ラストの銭形のセリフやべ〜っ!」ってなっておくべきでした。勿体無いことをした…。

あと、おっさんになってから見た弊害としてもう一つあるのが、城内の隠し落とし穴とルパンたちのベリベリベリベリ〜っていう変装を終始警戒しながら見てしまうという弊害もありました。おっさんになると、騙されるもんか! という変なつまんないプライドが無意識に心を覆ってるんですよね、本当は騙された方が楽しいことだってあるのに…。

おっさんになると普通の床が普通の床に見えないし、モブキャラたちが全員ルパンか次元に見えてしまう病気。これ、一生治らない病気だと思うとちょっとグッタリしますよね…活蔘(980円)飲もうっと…。

結論:終わってみればスーパーマリオ、何も残らない。でもそれがいい…

本編のメインの感想が最後に来てしまいましたが、終わりから最後まで流れるようなシナリオ展開に釘付けで、全くケチのつけどころのない傑作エンタメ映画だと思いました、めちゃめちゃ面白かった…。

泥棒として優しすぎてルパンらしくないという感想もあるんだよね…と、ジブリストの知人から聞いたこともあるのですが、ルパンが宝石や美術品ではなく、美少女を盗む回があったっていいわけですよね。当たり前だけど、お姫様とのかりそめの恋を、ちゃんと泥棒することで表現してるところが最高にクール。ちょっと違うかもですが、法外な治療費を取るブラックジャックが、気まぐれで子供が大切にしてるおもちゃと交換で手術するみたいな話、めちゃめちゃ好きなんですよね…。

本当面白かったので、ジブリ作品にカウントして良いのならおそらく3本の指に入ると思うのですが…ただ、見終わった後ですね、意外とこれが何にも残らないんですよ。無。もちろんスカッとして何も残らない良い意味での無ですが。

洋画の「ワイルドスピードなんちゃらMAX」…的なやつを見た後のような…いや、それでもまだアドレナリンのカスみたいなものは残るでしょうから、うーん…友達がプレイしてるスーパーマリオを見た後ぐらいの何も残らなさ、とでも言いましょうか。

そうなんですよ、この作品ってスーパーマリオだと思うんですよ、たぶん。捕われの姫を助けるために、助走つけて大ジャンプしたり、水流に逆らって平泳ぎしたり…。たまに「自分がルパンだったらここで一機死んでな〜」って思いながら見てたところもありました。

この共通点に気づいたのはたぶんジブリ童貞の私だけだと思います…。

ちなみに「天空の城ラピュタ」を見た時もそのスーパーマリオ感を感じていて、見終わった後にいまいちピンとこなかったとレビューしたと思うのですが、じゃあラピュタとカリオストロの何が違うかっていうと、たぶんそこは慣れ親しんだおっさんのキャラが主人公であるという点なのかなと。

ただマリオも慣れ親しんだおっさんのキャラなんですが、マリオの思想を感じ取ったことがないので、自分の中で「思想を持った慣れ親しんだおっさんのアクションゲームみたいな映画は面白い」ということになるんでしょうかね…ややこしいですね…。    

偽札作りを営む小国の存在や国際警察のしがらみとか、ある程度の教養も必要になるので、これはやっぱりおっさんになって見て正解でしたね(嘘、本当はゴート札とか世界経済についてよくわからなかったので調べました)。

それにしてもこれ作った宮崎監督、31歳ですか…私よりも10こ下か…。間違いなく売れるだろうな〜(最後まで偉そうでごめんなさい)。

vol.22につづく

宮川サトシ
宮川サトシ
漫画家。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』など。現在、週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』を連載中
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