「このポテト、まじ旨い」ってなんて言う? ~英語力ゼロの私がロンドンに移住したら⑬

35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めて渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と日本人含め各国人からお叱りを受けつつ、覚えたフレーズの数々。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第13回!

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「チップスと同じくらい安い」ってどういうこと?

渡英当初は、英語で話すことがとにかく怖く、同じフラットの住人と玄関先で会っても、“Hi”とだけ言って部屋に入ってしまいがちでした。しかし他の住人同士は顔を合わせれば何かしら話しをしているようで、それが羨ましく、なんでもいいから雑談をしたいと、タイミングをうかがっていました(私はもともと人見知りをする性格なので、話しかけようと決めても勇気が出ず、しばらくは相変わらずの“Hi”のみの日々が続きました)。

そして、ある日の夕方、隣の部屋のマダムが真っ赤なドレスを着て部屋から出てきました。これからパーティにでも行くのでしょう。このドレスを褒めれば、雑談ができるかも、と咄嗟に言いました。

"Your dress is beautiful ! "(そのドレス、綺麗ですね!)

それに対してマダムの返しがこれでした。

" Thank you but actually I could get it as cheap as chips"

直訳すれば「ありがとう、でもこれ実は“チップスと同じくらい安く”手に入れたのよ」です。chipsとは、イギリスのソウルフード、フライドポテトのこと。フィッシュ&チップスがだいたい9ポンドくらい、チップスだけ頼めば3ポンドから5ポンド、というところでしょうか。ではこのドレスも3ポンド(約420円)くらいで購入したってこと? そんな安いドレスってあるの? と混乱し、どう返していいかわからない時の常套手段、薄ら笑い、でその場を去りました。

結果、
as cheap as chips =とても安く、という意味でした。

実際のポテトフライの値段とは関係ありません。主に何かと比較して安い、と言いたい時に使われる表現で、今回の場合は

「あなたが予想しているより、実はこれ、ずっと安いの」

ということなのだと思います。今回の私たちの会話は日本でいう「そのシャツいいね」「いや、ユニクロだけどね」というやりとりと完全に同じなのでしょう。チップスは身近な食べ物なので、「安いもの」の代名詞として使われているそうです。

ちなみにアメリカでは、Chipsは日本でいうお菓子のポテトチップスのこと、イギリスではChipsがフライドポテトで、Crisps(クリスプス)がポテチのことです。簡単なことですが、ごちゃごちゃになりやすい単語のひとつです。

本当に旨いチップスはどこにあるのか

公園など、人が集まる時期は、露店やフードトラックでもチップスを売っていることがあります。先日その前を通りすぎた時、道端に座ってチップスを食べていた若いカップルの会話が聞こえてきました。

“This chips is incredible”

「このポテト、まじ旨い」ということなんですが、

ケンブリッジの辞書通り、incredible= extremely good(とてつもなく素晴らしい)と覚えている私にとっては「どれほど美味しいの!?」と驚いてしまい、ついそのチップス買ってしまいました。

美味しかったですが、なんていうか、私が思っているインクレディブル(とてつもなく素晴らしい)、っていうほどでもなく、少しモヤモヤしました。やはり「これ、ウメェ」くらいの意味で少年は言っていたのでしょう。

日本にいた頃は、フライドポテトが大好き、というわけではありませんでしたが、イギリス人が大事にしている「チップス」を、渡英してからよく食べるようになりました。ひと昔前は、「メシがイマイチな国」として世界中でいわれがちだったイギリスですが、今は変化しつつあります。が、それでも時々驚くべきハズレを引くこともあります(先日スーパーで購入したブロッコリーを茹でたら、自然界ではあり得ない真っ青な茹で汁になりました。時々見栄えを良くするため着色された野菜が売っていることもあるみたいです)。

そんななかでもチップスだけは必ず美味しく、物価が高いロンドンにあって比較的安価で食べることができる、信頼の1品です。なら、ロンドンで一番美味しい、インクレディブルなチップスはどこにあるのか、どうしても探したくなってきました。

グルメブログや雑誌を漁っていたら、高評価だったのが、Farringdon駅の近くにあるこのお店。

Comptoir Gascon http://www.comptoirgascon.com/

鴨肉をメインに出すフレンチ料理店、なのですがランチでは比較的安価に食事ができるお店でした。とりあえず、チップスが含まれたセットを頼むために行ってきました。

手でひとつひとつカットされていて、鴨の油で揚げてあるそうです。シナシナタイプのポテトでした。

ちなみにこれはラーメンばちくらいのサイズの器に山盛り入って1人前。口コミでも「美味しいし、店員さんも優しい。ひとつだけ注文をつけるなら量が多すぎる」というコメントが入ってました。一人では到底食べ切れませんでしたが、たしかにインクレディブル、と言える気が。でも、もっと驚きのチップスに会いたい、しばらくはチップス名店探しを続けたいと思いました。

⑭に続く
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MOMOKO YASUI
ロンドン在住編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英。英語のプレスリリースを読むのに膨大な時間がかかって現在、仕事が非効率。

Illustration=Norio