「のん」が持つ不思議な魔力~野村雅夫のラジオな日々vol.7

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は女優として話題作に続々と出演し、アニメ映画『この世界の片隅に』では声優としての才能も世の中に知らしめた「のん」。常に新たなフィールドでの活躍の場を広げるそんな彼女が今回マチャオがDJを務めるFM802『Ciao Amici!』(チャオアミーチ)のゲスト。


女優のフィールドを超え活躍の幅を広げ続ける表現者「のん」

のんはやはり既成の器に収まる人ではなかったようだ。

主人公すずさんの声を演じて超ロングヒットとなったアニメ映画『この世界の片隅に』が話題となるなか、2017年3月、彼女は「創作あーちすと」と名乗ってアートブックを出版。8月にはクラウドファンディングのCAMPFIREからサポートを受けて自分の音楽レーベル「KAIWA(RE)CORD」を発足。演技、美術、音楽を股にかけた新たな「のん」の行動範囲が見えてきた。

とはいえ、映画やTV CMなどでのイメージは把握していても、美術と音楽に関してはまだよく知らないという読者もいることだろう。渋谷のGALLERY X BY PARCOで初の個展が開催され、その最終日には、クロージング・イベントと1stアルバム『スーパーヒーローズ』のリリース・パーティーを兼ねたワンマンライブが渋谷クラブクアトロで開催。彼女の表現の全貌が姿を現したこのタイミングで、幸いにも「のん」が僕の番組FM802 Ciao Amici!にやって来てくれた。少しシャイだが朗らかで屈託のない「のん」とのやり取りを楽しんでもらいたい。


「のんで〜す。チャオ。久しぶりです」

ーーかねてより、僕も「のん」さんの音楽活動をチェックしておりましたが、「いよいよ」ということになりましょうね、5月9日に、1stアルバム『スーパーヒーローズ』がリリースとなりました。おめでとうございます。その前日には個展のクロージングを兼ねるライブがあったわけですが、まずうかがいたいのは、その個展『“のん”ひとり展 -女の子は牙をむく-』についてです。関西では開催されなかったから、観ているリスナーも少ないので。

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「主に、この個展のために描き下ろした絵とか、今までに描いてきた絵とか、あとは、ハムスターを巨大化させた立体物とかを飾ってました」

ーーどれくらい巨大化させるんですか?

「えっと、どのくらいかな。全長2メートル、高さ1.5メートル。おっきいですよ」

ーー元がハムスターですからね。

「ハムスターに跨がれる感じです」

ーーえ?実際に触ったりもできるんですか?

「あ〜、なんか、お触りは禁止だったんですよ」

ーーなんちゅう表現をするんですか!それにしても、なぜハムスターを巨大化させるに至ったんですか?

「もともとハムスターが好きなんですけど、『女の子は牙をむく』っていうテーマでやってたので、かわいいハムスターが牙を生やして巨大化したら怖いんじゃないかと思って」

ーー裏腹な部分を表現したっていうことなんでしょうかね。それは見たかったなぁ。各メディアでも報じられていましたが、パリに行かれて、そこで受けた刺激をご自分の創作活動にフィードバックされているってことを僕も聞いていましたから。ぜひ大阪でも企画してほしいなあ。作品はまだあるわけでしょ?

「はい。ぜひやりたいです。大阪でやりたい」

ーー本当に珍しい、そうした個展のクロージングを兼ねたワンマンライブがあったわけですが、そのゲストに高野寛さん、そして大友良英さんがいらっしゃったという!「のん」さんの音楽活動は、実は本当に素晴らしい方々がバックアップしていて、このお二方も、アルバム『スーパーヒーローズ』に深く関わっていらっしゃいますもんね。ライブはこれが何回目になるんですか?

「イベント参加も含めると… 『WORLD HAPPINESS 2017』から始まって、でも、まだそんなにですよ。6、7回かな」

ーー今回はワンマンライブでした。一般的に考えれば緊張もするとは思うんですが、楽しかったですか?

「めちゃめちゃ楽しかったです。緊張はしまくってたんですけど、やっぱりステージに立って皆さんと演奏し始めると、すごい楽しくて。お客さんたちも盛り上がってくださいました」

ーー編成は?

「4人です」

ーーそこにはKIRINJIの弓木英梨乃さんもいらっしゃったんですよね?これも大阪で観たい!

「ぜひぜひ」

ーー関西の我々は、とりあえずアルバムをじっくり聴きながら、来るべき関西でのライブに備えるということになります。『スーパーヒーローズ』には、ファンの間では既におなじみとなっていた『スーパーヒーローになりたい』や『RUN!!!』を含む、全部で12曲が収録されています。さっき名を挙げたお二方意外にも、すごい面々が参加していまして… たとえば矢野顕子さん。真島昌利さん。尾崎亜美さん。高橋幸宏さん、などなど。なんという!高野さん作詞作曲の『スーパーヒーローになりたい』という曲があったわけですが、アルバムではどうして複数形に?

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「音楽界のスーパーヒーローのような方たちに曲を作っていただいたというのと、1stシングルのタイトルにかけたいなというのもあって、こういう形になりました。スーパーヒーローたちに憧れているのんが作った曲も入っているので」

ーー「のん」さんが作詞作曲しているものも結構あって、飯尾芳史さんがアレンジを手がけていたりするんですが、「のん」さんからの「こういう音にしたい」というような意向はあったんですか?

「まずは飯尾さんと一緒にお話をさせてもらうんですが、とても素敵にしてくださるので、全信頼をおいてやっていました。でも、真島さんに作っていただいた『さぁいこう』は、お願いした曲の中で一番最初にあがってきたものだったんですけど、最後までアレンジに悩み、紆余曲折あり、最後にはライブで組んでるバンドメンバー『Non Cigarettes』でやりたいですと飯尾さんにお伝えしたということもありました」

ーーバラエティーに富んだ12曲ではあるんですが、ざっと聴いた印象として、バンドブームの頃、80年代の終わりから90年代頭にかけてのパンキッシュな流れを感じたんです。それこそ、ブルーハーツとかジッタリン・ジンとか。僕は生きていましたから、懐かしいなとも思いつつ、そんなサウンドにのんさんの声がのびのびと乗っていく様子がとても気持ちが良かったです。スカッとしました。でも、のんさんにしてみれば、生まれる前じゃないですか。これだけのスーパーヒーローたちに囲まれてますから、いろんな音楽を教えてもらっているとは思いますが、今僕が言ったようなのはお好きなんですか?

「すごく好きで、真島さんもファンだったりしたので、書いていただけないかとお願いしました」

ーー真島さんもバンドの遍歴がありますが、ソロのものが僕はまた好きなもので、作詞作曲真島昌利でのんさんが歌う『さぁいこう』がアルバム前半の大事なところに入っていて、すごく嬉しかったです。そして、曲順で言えば、『へーんなのっ』から入るのが最高!

「本当ですか? やった〜! 嬉しい!」

ーーこれはもう、「のん」さんの作詞作曲で、言葉を聞いていたらいちいち笑っちゃうんです。これはいい意味ですよ。「のん」さんが思っている「これ、変だよ」っていうものを並べ立てるわけじゃないですか。僕ら日本の社会って、「これ、変だよ」を大きな声で言わないところがあると思うんです。そこへ1曲目からこうして並べ立ててくれると、もう1回この言葉を使うけど、スカッとします。

「ありがとうございます!」

ーーこれをライブで味わいたい、個展も観たいってことですが、一応、今後の予定がふんわりとですが、僕の手元に届いております。夏の全国5大都市ツアーが決定!宮城、大阪、広島、福岡、そして9月30日、日比谷野外音楽堂と発表されております。また日取りがはっきり出ましたら、この番組でもフォローしてまいりますね。表現の幅が広がっているわけですが、夏に向けて、野望ってあります?

「仕事の面では、かなりいい感じで手広く、やりたいことをやれているので、これ以上広げるというよりは、ライブの経験をもっと積んでいきたいなという気持ちが強いです。もっと深めたいです」

ーーアルバムのクレジットを見ていると、のんさんがギターを弾いているものが多いですが、ライブではどうですか?

「ライブでも弾いて歌ってます」

ーーお!ますます大阪初ライブが楽しみ。そして、プレイだけではなくて、どんな照明になるのか、ステージに何を置くのかとか、その辺も僕はワクワクしてます。

「すげぇ細かいところまで見られるんですね」

ーー見るよ!そりゃ、見るよ。またこの番組にも遊びに来てほしいと思いながら、お別れに1stアルバムから1曲お送りしますが、矢野顕子さんが参加されているじゃないですか。矢野さんも色んな方とコラボレーションし続けてきた方ですよ。心躍っただろう矢野さんからの曲が届いた時の印象を教えてくださいよ。

「矢野さんに頼んでみるのはダメ元だったんですけど、快くOKしてくださったんです。デモが届いたら、矢野さんのピアノの弾き語りで、矢野さんの声で入ってて、その詞の中で清志郎さんのことを歌っている部分があったので、この曲をのんに書いてくださったんだというのが驚きましたね」

ーーそこなんですよ。矢野さんにとって、そして日本の音楽にとって、清志郎さんの存在はとても大きいわけで、それを「のん」さんに提供する曲に込めるっていうのが、本当に美しい話であり、こうして1stアルバムにそれが入るっていうのが、僕は素晴らしいことだと思います。それでは、その『わたしはベイベー』を聴いて、お別れです。ありがとうございました。

「ありがとうございました!」

これが2度目となるインタビューだったが、彼女はますますハツラツとしていて、とても好感が持てた。僕の言葉を受けて時に恐縮したりもするものの、気負うことも気後れすることもなく、自然体。何かの鋳型に彼女を当てはめず、健やかに羽を伸ばして創作する様子をこれからも見守っていきたい。

そうそう、このインタビュー以降、話題にしている「“のん”ひとり展 ー女の子は牙をむくー」の梅田ロフトでの開催が決定した。6月7日(木)〜26日(火)の期間で、9日(土)には、「のん」のトークショー「のんとお茶会」もある。ぜひ、出かけてもらいたい。

FM802 Ciao Amici!(チャオアミーチ)番組ホームページ

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野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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