シェフ・三國清三 業界で初めてオーダーしたコックコート【私のオーダー履歴書】

世界にたったひとつ自分だけの品は、人生をより豊かに彩ってくれるもの。オーダーメイドのある生活を愉しんでいる各界のトップランナーに、その魅力を語ってもらう。そう、オーダーメイドは己を映し出す鏡なのだ。


1日3回着替えるコックコート

三國清三氏に話をうかがうべくオテル・ドゥ・ミクニを訪ねると、テーブルに置かれたのは1冊の本。『C’est Mikuni 僕の、おいしさ。』という三國氏の著書に、オーダーメイドのルーツとこだわりが記されていた。

「僕のコックコートは、30年以上も前から村松白衣店の横田さんにオーダーメイドで仕立ててもらっています。当時はまだコックコートは既製品を着るのが当たり前でしたが、僕にとっては大切な仕事着。スーツで仕事する人がスーツにこだわるのと同じように、僕はオーダーメイドのコックコートを着ることで気持ちを切り替えているのです」

ダブル仕立てのコックコートは、シンプルなデザインながらも使いやすさが考慮されたディテールが特徴的。「自分のこだわりを反映したオーダーメイドというのは、多くの場合、その人の仕事と関係のあるものと一致するはず。だから僕はコックコートなのです」と三國氏。

使用する生地選びからこだわるという、三國氏のコックコートはディテールにも想いがしっかりと反映されている。

「素肌の上に着るので、肌触りのよさと耐久性の高さのバランスが取れた素材を使っています。そして首元は動きやすく、フィットしたサイズ感に。袖はラウンドカットを深くして、動きやすさを妨げないようにしています。毎年体形に合わせてオーダーしていますが、シンプルなデザインは変わりません」

これらのこだわりのなかでも、特に注目したいのがフロントの包みボタンだ。タキシードなどの礼服に用いられる手法を取り入れることで、清潔感や誠実さ、礼節といった自身の仕事に対する姿勢を表現している。

胸にあしらわれた包みボタンは、ひとつひとつ手作業でつけられたもの。

「コックコートを着替えるタイミングは1日3回。それに、ちょっとでも汚れたらすぐに着替えます。僕は毎日爪も手入れしているし、髪は1週間に1度、伸びる前に必ずカットしています。これもすべては清潔であることを意味する、クリンネスという考えがベースにあるからこそ。時間もお金もかかるけれど、常に清潔感を保つことで、清潔感のある料理が生まれるのです」

清潔できれいに見えること。そして機能美が息づくコックコートを三國氏はこう表現する。

「自分のためだけに仕立てたコックコートは魂みたいなもの」

ネックの裏側には仕立てた年ごとに色を変えた刺繍が施される。またクリーニング店へのメッセージとして〝プレスの際釦をつぶさないよう注意〞というタグもついている。

約30年前に業界初のオーダーとして生まれたコックコートには、自身の哲学が宿っていた。

Kiyomi Mikunui
オテル・ドゥ・ミクニ オーナーシェフ 15歳で料理人を志し、札幌グランドホテル、帝国ホテルにて修業。1974年駐スイス日本大使館の料理長に就任。フレディ・ジラルデ氏に師事。その後、フランスの三つ星レストラン等で修業を重ね、’85年オテル・ドゥ・ミクニをオープンする。


Text=いとうゆうじ Photograph=杉山節夫 Illustration=芦野公平