世界最大級のフェス「グラストンベリー」に行ってきた~英語力ゼロの私がロンドンに移住したら⑨

35歳・英語力ゼロなのに、会社を辞めて渡英した元編集者。「その英語力でよく来たね(笑)」と日本人含め各国人からお叱りを受けつつ、覚えたフレーズの数々。下手でもいいじゃない、やろうと決めたんだもの。「人のEnglishを笑うな」第9回!

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イギリス人しかいない状態にビビりまくる

6月26日から30日までグラストンベリーで開催された音楽祭、「グラストンベリー・フェスティバル」に行ってきました。1970年から行われ、900 エーカーの土地(東京ドーム約77個分)に16の会場、数百のステージを有し、今年のチケット販売数は13万5000人分、まさに世界最大級の音楽フェスティバルです。

イギリスにいるからには行ってみたかったこのフェス、運よくチケットを入手することができました。高速バスのツアーに申しこんだので、到着したら最後、5日後のお迎えのバスが来るまでキャンプ生活となります。異国の地での5日間ものテント生活、音楽と酒と荒くれ者たち、荒廃したトイレ……楽しみよりも、恐怖と緊張の方が強く、吐きそうになりながらバスに乗りました。ならなぜ行くのか、自分でもよくわからなくなっていました。

その会場に向かうバスの中で、うっすらと気づいたことがあります。そして会場に着いて、確信に変わりました。「ここには、ほぼイギリス人しかいない」と。

ロンドンには、純粋なイギリス人を探すのが困難なほどに外国人がたくさんいます。道を歩いていても、フランス語やスペイン語にアラビア語、他にもたくさんの言語が聞こえてくるのは当たり前で、私にとって、英語はもはやそういう外国人たちの「共通言語」という感覚になっていました。

しかしここグラストンベリーでは見渡す限りネイティブのイギリス人、そして聞こえてくるのは「本物のイギリス英語」。そしてその99.9%が、聞き取れませんでした。

ネイティブの英語は単語と単語をつなげて発音する、「コネクテッドスピーチ」が多用され、たとえ知っている単語でも知っているようには聞こえません。普段教材にしているBBCラジオの、はっきりしっかりと喋っている英語ですら、ろくに聞きとれていないのに、こんなに活きた英語が私に聞こえるはずはありません。聞こえていないということは、私の発話も絶対的に相手に伝わるはずもなく、普段外国人同士で「お互い様だ」と思って話していためちゃくちゃ英語を発する勇気も途端に失いました。要するに、初めての「イギリス人だけの空間」にめちゃくちゃビビったのです。

「リッチュラリー」の乱発

とはいえ、密接したテント群、近隣の人と話さないのは不自然すぎます。当然隣のテントのおじさまが話しかけてくれますが、やはりほとんど聞きとれず、気まずい雰囲気に。結果、おじさんがテント付近にいる時間はなるべく顔を合わせないように生活するという有様となりました。しかしそんなリスニング力ゼロの私でも気になった単語がこれ。

literally

あたりの会話に耳をすませば、この単語「リッチュラリー」が必ず聞こえてきます。隣のおじさんも相当回数言っていました。「リッチュラリー」がなんなのか、最初はわからなかったのですが、これは私たちが受験英語でも習った「文字通り」という意味の副詞です。ただ、発音はアメリカ英語の「リテラリー」と習っているので、わからないはずです。

おじさんは確かこんな会話で使っていました。

Yesterday, I went to literally top of the hill.(昨日、マジであの丘の上まで行ったよ)

この場合は本来の意味の「文字通り」で当てはめても意味は大きく変わらないかもしれません。しかし「literally」は言いたいことを「強調」するための効果も口語ではあるようです。とにかく、じっと聞いていれば話に何度も登場。フェスという場所なだけあって「マジで」「すんごく」という意味合いでも多く使われているような気がしました。ケンブリッジの英英辞書では口語の例文としてこのようにも紹介されています。

I was literally bowled over by the news.

「そのニュース、すんごい驚いたよ」というような意味合いでしょうか。

さて、肝心のフェスはといえば、もう最高でした。とにかく広大な会場、1日で20キロ歩いた日もありクタクタにもなりましたが、ジャネット・ジャクソン、元オアシスのリアム・ギャラガー、ザ・キュアー、ケミカル・ブラザーズ、ヴァンパイア・ウィークエンドなどなど錚々たるアーティストを一気に観られるこの贅沢さ。

また会場には無数の給水所があり、ボトルを持ってくれば無料でいくらでも水がもらえるシステムが素晴らしかったです。ペットボトルごみを削減するための活動の一環で、会場でペットボトル飲料を販売しない代わりに今年から始まったシステムだそうです。

しかし今年は特に暑くなったこともあり、この給水所が来場者の水分補給と健康管理に役立ったことは確かで、日本のフェスでもこのシステムがあればいいのになぁ、と思いました。(会場で販売していないだけあって、ペットボトルごみは確かに出ていませんでしたが、最終日、メインステージに散乱していた缶や紙ごみの数はすさまじく、日本のフェスのクリーンさも同時に感じました)

最終日はもっとゴミ、すごかったです。

トイレ地獄問題

ちなみに、私が最も怯えていたのがトイレ問題。ロンドンのトイレですら、お世辞でも綺麗と言い難いのですから、13万5000人が5日間、お酒を飲み続けて暮らしたらトイレはどうなるのか。正直この問題が個人的に深刻すぎて、ギリギリで行くのを辞めようと思ったくらいです。

トイレには2種類あり、全部いわゆる「ぼっとん」でした。しかしひとつは自分で土をかけて匂いを消すことができる「堆肥トイレ」で最終日以外は割と清潔に保たれていました(あくまで最終日以外は、です)。ちゃんと個室になっているのでいわゆる文明的なトイレに近かった気がします。

トイレの内側のドアには「Natural eventへようこそ」的な文言が書かれていました。

が、一方で、恐ろしかったのはこちらのトイレ。もはやこのフェスの風物詩のようで、このようにポストカードにもなっています。

天井と足元は抜けており、匂いがこもらないのですが、プライベート感はゼロ(隣との仕切りは1mくらいの高さのうすい板がかろうじて1枚。顔と局部ぎりぎり隠れます)。ちなみに中にあるのは便器というより大きい穴です。当然、文化的に和式的利用はできません。私はこの「穴のふち」に腰掛ける勇気はなく、臀部を微妙に浮かせる技と筋力が回数を追うごとに身につきました。

ちなみにグラストンベリーではちゃんと地図にも「Toilet」と表記されていましたが、フェスによっては「Loo」(同じくトイレ、の意味)という表記になっていることもあるので、注意が必要です。

バスじゃないバス

怯えながらではありましたが、憧れのグラストンベリーで数々のアーティストの演奏を見ることができて大満足でした。しかし出発時、緊張で吐きそうになっているところに、バストラブルも起きていました。バスが故障して動かなくなり、パーキングエリアで3時間立ち往生したのです。この時の対応がいかにも合理主義的なイギリスでした。

呆然と立ちすくむ運転手をよそに、乗客の一人が近くのガソリンスタンドから修理工を呼んできたり、一方で別の乗客が電話で他のバス会社に交渉、代打のバスを手配したり。人任せにしない、合理的でスピーディに問題解決に挑むのが、イギリス人なんだなぁと、私は一人状況を把握するのに必死な状態ながらも感動しました。

「去年のバスは、事故ったからね。今年はいい方だよ」というようなことを、3時間待ちぼうけている間、隣でビール飲んでいた青年が言っていました。

そんなバスの中で、今回学んだ単語が

Coach

大型の高速バスのことを言います。日本人にとっては「路線バス」も「大型バス」も「bus」と呼ぶので、ついそのつもりでいました。「バスはどこに来ますか?」と会場で聞いた時や「代打のバスが来るまで、パーキングエリアで買い物しててもいいか」と訪ねた際にも、「bus」と言ってしまいましたが、みなさん一瞬「?」という顔をしました(いつものごとく私の発音の問題かもしれませんが……)。よく聞けばみんな「Coach」と言っていたので、今回のような「高速バス」は「bus」でなく「Coach」と分けた方が良いようです。

アートの展示のようなステージもたくさん。夜になるとライトアップも凄かった。

⑩に続く
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MOMOKO YASUI
ロンドン在住編集・ライター。1983年生まれ。男性ライフスタイル誌、美術誌、映画誌で計13年の編集職を経て2018年渡英。英語のプレスリリースを読むのに膨大な時間がかかって現在、仕事が非効率。