宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.5『もののけ姫』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。


『もののけ姫』レビュー

ジブリ童貞のジブリレビュー、今回の「もののけ姫」で5作品目です。監督しばりで5作品も続けて観ていると、なんというか…監督の人間性の輪郭がどうしたって浮かんでくるわけで、監督が(作品単体ではなく)「アニメ映画」を通して言いたいことってなんだろう? とか、監督の癖だとか、監督の好きな食べ物って何かな、おやきとか好きそうだな……とか、今何してるのかな…みたいなことを、ふとした時に考えてしまうぐらい、正直宮崎監督のことが好きになってきてしまっております。

自分の作業場にある棚に並び始めたBlu-rayのパッケージ(シンプルなデザイン、マット加工で肌触りもイイ)もなかなか良い景観で、時々それらを眺めてはニンマリとしたり、あとそうそう、「ジブリ作品鑑賞してる時あるある」なんてのもあるんですよ。

きっと皆さんも浮かんでいると思います、西岡徳馬さんの顔。

……というわけで、のっけからジブリ愛を匂わせていることからもお分かりかと思いますが、今回は何のひねりもなく、ただただ「もののけ姫」の絶賛レビューで駆け抜けようと思います。結論から言いますが、超絶面白い映画でした……。

あれ? もののけ姫が主人公じゃないの…?

もののけ姫が公開されたのは1997年、私が高校卒業した頃。彼女もいないし浪人も確定するし、楽しいことと言えば、ジャンプでジョジョの第5部を読むことぐらい…そんな頃でした。作品は見てなくても、口の周りにべったり血がついた狼少女みたいな美少女が、白い狼の前でこっちをキッと睨んでるポスターは記憶にありました。

当時はものまね王座決定戦とかでも、皆こぞって米良美一さんの歌まねしてたんですよね……。あれが当時の私のジブリへの疎外感を強めた要因のひとつだったりもするのですが、とにかくあの曲を茶化す風潮(カウンターテナー風にあの曲を歌えば、クラスの人気者になれる空気)で歪んでしまった私は、あのポスターから勝手に「どうせこの狼少女が自然を私欲で貪ろうとする人間たちと戦う話なのだろう」と、決めつけていたのでした。

それがこうして観てみたら実際は全く……でもないけど、かなり印象が違ってまして、少年ジャンプの主人公みたいな青年・アシタカが、去年私がドはまりしたゲーム「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」みたいな爽快アクションで活躍しまくる、骨太の冒険アニメだったわけです。主人公、アシタカだったんかい、と。

で、そのアシタカがやたらカッコいい。敵陣に突っ込む時に必ず言う「押し通る!」って武士道むき出しのお決まりのセリフから始まる弓矢での戦闘シーンとか、腕に巻き憑いた呪いのアザとか、本当少年ジャンプ的、邪王炎殺黒龍波的。呪いの副作用でちょっと怪力になってたりとか、そういうのに年甲斐もなく久しぶりにワクワクしてしまう。40歳にもなって「右腕呪われてぇ〜」なんて思ったりするなんて、まだまだ私も元気ですね…。

しかも、そのもののけ姫がさほど魅力的じゃない…

でもそこがまた良くて。予想していたもののけ姫(以下:サン)は、ナウシカのような、みんなが姫様姫様言って取り囲むぐらいのカリスマ性があるわ、人格者で聖人だわ、で、おまけに美少女だわ、そんなイメージだったんですが、実際は全然そんなことなくて、さほど魅力がないんですよ。「すばやさ」のパラメーターが他よりグッと高いぐらいで、そんなに活躍もしないし、口のまわり血だらけでちょっと小汚いし。むしろか弱くて、人にも獣にもなれず育ったという可哀想な生い立ち。

なんというか、守ってあげたくなる野生女子なんですね、もののけ姫。そこがこれまで見てきた優等生すぎるジブリヒロインたちとちょっと違ってて、眩し過なくて見やすかったです。

アシタカも旅の道中、村に残して着た許嫁(かわいい)のことをちっとも思い出さないばかりか、その許嫁にもらったお守りの小刀をあっさりサンにあげてしまったり、彼女のことを抱きしめてひたすら守ろうとするのですが、そこちょっとわかる気がしたんですね。正直、「許嫁の小刀あげるんかい!」とは思いましたが。うちの奥さんも、タイプ的に「すばやさ」のパラメーター高めの小猿みたいなところあるので、なんかちょっとわかるのです。

魅力的じゃないと書きましたが、サンの地味にいじらしいところを見つけたのでイラストでご紹介します。

家庭科で習ったばかりなんです感がすごいけど、そこがまたいじらしい……

私の同級生のイケメンがSTUSSY好きだったのでそう見えたのかも…

性描写、そうくるか〜…

物語が後半に進むにつれて、バンバン人や動物(神)たちが死ぬのですが、ただ死んでゆくというよりは、「生きようとして死んでゆく様」が描かれています。おそらくこの映画のテーマは、キャッチコピーにもあるように、「生きること」なんだなと。

で、「生」を描く以上避けては通れないのが「性」描写だと思うのですが、これは子供も見るアニメ作品、伊丹十三監督のように、湯気の立つようなネチっこいセックスを描くわけにもいかないわけで。宮崎監督、どうするんだろう…どうこれを乗り切るんだろう?

……そんな余計な心配をしてしまったというジブリエッセイ漫画を描いたので、よかったらご覧ください。

タレントさんの声優起用についてちょっと考えた

昨今のヒットアニメ映画とかでも、タレントさんが声優として起用されてる作品をいくつか観たりもしてきたのですが、これ私だけだったらごめんなさい…鑑賞中に新キャラが出てくる度に、いちいち「これ誰の声だろう?」って考えてしまいませんか? この〝誰の声でしょうクイズ〟が頭の中で始まると、どうしても物語に没入できなくて、そのうち「どうせ長澤まさみでしょ……?」と、心が拗ねてしまうこともしばしば。

ただ、このもののけ姫の美輪明宏さんは凄かったですね………。クイズのことすっかり忘れてました。アシタカに「だまれ小僧!」と一喝するシーンは、子どもの頃、名古屋の東山動物園だったかな、ホワイトタイガーが目の前で本気吠え(ほんきぼえ)した時、思わずすくんで、泣きそうになってしまったことを思い出しました。あのホワイトタイガー、もう死んじゃったかな……。

動物(神)が喋る様子は、声と口の動きがズレてるのも良いんですよね、神通力で伝わってくるような感覚になる演出なのかな…間違ってたら恥ずかしいけど。

あと、これは余計かもしれませんが、サン役の石田ゆり子さんは、なんかちょっと違うかなと思いました(サラッと書きますが)。

結論:もうジブリとか関係なくウルトラ面白い映画

結局、主人公のアシタカが魅力的でカッコイイってことぐらいしか触れてない気がしますが、それだけでも十分おつりが来るぐらい映画として本当に面白かったです。

ジブリ慣れしてきてるのもあって、最後どうなるのかは大体予想できるし、そこを大きく超えてくるオチとかも別段ないですが、これはそういう映画じゃない気がします。たぶん、生き物たちの命のやり取りを観る映画かと。

イノシシの群れが人間の地雷でバカーンとぶっ飛ばされる、人も人で殺らなきゃ殺られるから必死、もげる腕、死体の山、生きることの根源的虚しさ(と愛しさと切なさと心強さ)が画面からずっと垂れ流しになってて、そこにアシタカがサンを助けるべく崖を飛び降りてシシ神の森を駆ける駆ける。

……そんなの観てたら、もう勘弁してほしいぐらい泣きそうになるんですよね、「結局泣いてないんかい」とも思いますが。後半この"ずっと泣きそうタイム"がまぁ続くわけで、これはとにもかくにも傑作映画だなぁと。

ジブリとかもう関係ないし、目の前を走るこだまのケツが3歳児のうちの子みたいでかわいいし、言うことなし! 観たことない人、そんなにいないでしょうけど、ぜひ改めて観て欲しいです。今のところ『もののけ姫』、自分の中のジブリランキング堂々の第一位です。


さて、次回のジブリレビューは?

いかがでしたか? 力技みたいなレビューでしたが伝わったでしょうか……。次回はそろそろ『ラピュタ』でジブろうと思っておりますが、それ以外でも今後も読者の皆さまのご意見を反映して作品を選んでいきたいと思っています。次に観るべきあなたのおすすめ作品を教えてください。ツイッターやfacebook、Instagramなどで「#ジブリ童貞」のハッシュタグをつけて投稿していただけたら嬉しいです。参考にさせていただきます。

第6回に続く

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宮川サトシ
宮川サトシ
漫画家。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』など。現在、週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』を連載中
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