あの伝説のロビーも復活! 新しくなるホテル「The Okura Tokyo」の全貌公開!

未来へ向けて事を為すのはあらゆる仕事の基本であろうが、そのためにあえて「変えない」「引き継ぐ」「残す」という判断をする人たちもいる。2015年、ホテルオークラ東京本館は、多くの人に惜しまれつつ建て替えのために解体された。国内外のVIPに愛され、誰しもが憧れた静謐なメインロビーもいったんは姿を消すも、新オークラ東京ではこのメインロビーが忠実に再現されると発表された。変えずに引き継ぎ残すという判断を下した理由はどこにあったのか、ホテルオークラ東京の本館再開発準備室長の梅原真次取締役が、その意図と思いを語る。 


メインロビーの空気感まで再現

多くのお客様に愛されてきましたホテルオークラ東京のメインロビーは、1962年の創建。半世紀も歴史を重ねると、メンテナンスを施してきたものの、さすがに経年変化は起きますし、建物自体の耐震性の問題も大きくクローズアップされてきました。

何らかの手を入れる必要性は年々高まっており、社内では14、5年前から検討を開始しました。現状の建物を残して耐震補強工事を優先させる案、ホテルのメインロビー部分の建物を残しつつ、一部を高層棟に建て替える案、全面建て替えの案が浮上し、最終的には全面建て替えを選択して、今まさにその工事が進捗しています。

中央がオークラ プレステージタワー、左はオークラ ヘリテージウィング、右手前が大倉集古館。

この検討案でもご理解いただけると思いますが、ホテルオークラの顔たるメインロビーはそのまま引き継ぐ。この1点だけは既定路線であり、ブレはありませんでした。静けさと品位の保たれたあの空間は、ホテルオークラの無二のシンボルであり、ご利用いただくお客様も、ホテルで働く従業員も同じように感じていたのではないかと思います。事実、建て替えが決まった時、海外では取り壊し反対の署名活動が起きたほどです。

このように、メインロビーは多くの方に愛着を持っていただいておりましたし、ホテルオークラの明確な強みであり、昨今増えている外資系ホテルとの差別化にも大いに寄与してきたものです。これをどう復元していくか。しっかり検討を重ね進めなければいけません。

そこで私どもとしては、メインロビー復元の設計を建築家・谷口吉生先生に依頼すること。また、既存メインロビーを解体前に徹底的に調査することにしました。

先ずは設計ですが、谷口吉生先生にお願いするのは必然でした。なぜならこのメインロビーは、先代である先生の父・谷口吉郎先生の建築ですから。その味わいを引き継ごうと思うならば、2代目へ依頼するのはごく自然なことです。そこで、先生にメインロビー復元のご相談をしたところ快諾いただきました。が、せっかくならばよりよくしたい、細部まで目を行き届かせたいとの思いを強く持たれ、設計から工事段階に移行した現在に至るまで、ずっと考えを巡らせていただいております。

従来のメインロビーは、正面玄関を入った奥にありましたが、今回は建物の構造や向きの関係上、正面玄関から右手側にメインロビーを配置するように設計しています。その結果、ロビー手前が多少拡がり、面積でいうと1.2倍ほどに。それでも全体の雰囲気と印象はほぼ変わりません。

他にも、旧ロビーと変えざるを得ないところはいくつか出てきました。一例を挙げますと、吹き抜け2階部分の手すり。50年以上前につくられた従来のものは、高さが870ミリで、現在の建築基準法に適合していません。今回は新築ですので基準法に適用すべく高さを1,100ミリとしておりますが、高さを変えることは、空間全体としてのまとまりに大きく影響しますので、谷口先生にきめ細かく対応していただいております。

次にメインロビーを復元するための手段として行ったのが徹底的な調査・分析です。2015年8月末にホテルが営業を終了し、メインロビーがいったん閉鎖されたあと、解体までにおよそ1ヶ月の猶予期間を設けました。その間にロビーの各部位の正確な寸法から材質、工法や裏側の仕上げ方法に至るまでの材料調査はもちろん、最新鋭の機器を使った光環境調査、音環境調査までも行ったのです。その結果を200ページを超える膨大な報告書としてまとめ上げました。

200ページ強にも及ぶ調査書。その詳細具合に驚かされる。

この報告書は、いわば、紙の上に落とし込まれたメインロビーの正確な「写し」です。これを見ながら作業をすれば、外見はもとよりそこにあった雰囲気まできちんと再現できます。そこに降り注いでいた光の量や質、音響まで調べてありますから、まさに「空気」まで記録してあるといえるのです。

ちなみに谷口先生は、閉鎖して解体までの1ヶ月の調査期間の初日、ずっとロビーの一ヶ所で半日間ほとんど動くことなく座り続けていらっしゃいました。最後にロビーを目に焼き付けておこうとするその姿には、お声をかけることもはばかられるくらいの覚悟と強い思いを感じました。

この調査に基づいて、できるだけ同じ材料を用いて同じ方法でメインロビーを築こうとしているのですが、素材的に変えなければならないものも出てきました。壁の石などがその一例です。多胡石という群馬県産の風合いの良い石が使われていたのですが、この石はすでに採掘できなくなっています。旧ロビーの建物からはずした石を再利用できないかとも考えましたが、割れてしまう確率が高くて断念しました。そこで谷口先生にできるだけ風合いの近い石を探していただいた結果、イタリアでかなり近い石を見つけることができたので、輸入して使うことにしました。

ロビー壁面上方には人間国宝・富本憲吉氏に図案を起こしていただいた四弁花の装飾織物がかかっていましたが、さすがに傷みが激しかったので再利用は困難と判断し、新規で製作することにしました。創建当時に納入していただいた京都の老舗織物業者に相談したところ、幸いなことに、当時の図面が残っていたので、ほぼそのまま再現することができました。

再現するにあたっての悩みどころとしては、新築当初の風合いにするのか、50数年経った解体直前の様子に合わせるのか、その中間をとるのか、の判断です。風合いの異なるサンプルを複数試作して、慎重に検討を進めています。

窓枠のヒノキの麻の葉文様の格子にも同じことがいえました。その部分は黒光りしていましたが、50年前は無垢のヒノキの鮮やかな白さが際立っていたはずです。どちらに合わせるべきか検討を重ねた結果、無垢の白い状態のものを設置することとしました。

ユニークな形状の照明「オークラ ランターン」や、梅小鉢の漆塗りのテーブルなどメインロビーの"名物"の多くは、いったん倉庫で保管してあり、補修のうえで再びメインロビーに設置すべく準備を整えています。

ランターンはそのまま使うとはいえ、電球はLEDに変えようと考えています。そうしますと光の見え方が変わってきます。LED光だとランターンがどう輝くか、空間全体の明るさはどうなるかは、精緻に実験・調査をして計算しました。以前の電球と同じ見え方、明るさにできるよう調整を進めています。

光の演出は、メインロビーの独特の雰囲気をかたちづくる大きな要素でしたから、しっかりと気を配らざるを得ません。全体に暗めの照明で、正面玄関から足を踏み入れると、ロビーにいる方々の顔がすぐには見えないくらい。それが持ち味だったのです。その空間に入ったとき、人がシルエットとして目に映るあの視覚体験は、他のホテルにないオリジナリティを形成していました。新しいメインロビーでも同じ雰囲気をぜひ再現させようと思っています。

音に関しても同じです。旧ロビーは静けさがひとつの売りでした。床はカーペット、窓には障子、壁面には織物の装飾がかかり天井はクロス貼りと、音を吸収する素材に囲まれていたゆえです。それに、コーヒーサービスなど音を立てる行為をしていなかったので、快い静けさを保てたのです。このすばらしい音環境も、元のままにするべく建築を進めております。

取り壊された、ホテルオークラ東京の旧メインロビー。

ホテルオークラのメインロビーで待ち合わせることがステイタスである。そう言っていただけたあの雰囲気を、あらゆる手を使って再現していきます。なぜそこまで「もとのまま」にこだわるのか。正直、コスト的にも新たに作ったほうがはるかに効率的です。そういう意味では滑稽にすら思われるかもしれません。なぜそこまでするのかと問われれば、私どもとしては「それはあのメインロビーに、それだけの価値があると信じているがゆえです」と申し上げる以外にありません。

ホテルオークラ東京は、The Okura Tokyoとして全面的に生まれ変わります。客室やレストランなど注目していただきたい点は多々あるのですが、まずは何をおいてもメインロビーのあの空気をまた味わっていただけることが、私どもにとっての最大の喜びです。

来年2019年9月の開業を、期待していただけましたら幸いです。

Shinji Umehara
ホテルオークラ取締役上席執行役員。1959年生まれ。’83年にホテルオークラ入社。事業企画部部長を経て、2010年、オークラプレステージ台北の開業準備室長および総支配人、’15年よりホテルオークラ東京本館再開発準備室長に就任。入社以来35年、ホテルのリニューアルや開業にかかわる。


日本の伝統美を受け継ぐホテル施設


Text=山内宏泰