鳴り物入りで就任したポルシェジャパン新社長の野望<前編>【吉田由美の世界のクルマ見聞録㉖】

カーライフエッセイスト・吉田由美は、クルマの最先端を肌で感じ続ける"現場主義者"。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、軒並みイベントや取材が中止になっている今だからこそ、「見て、聞いて、知った」クルマの最新事情とは――。

中国、韓国で抜群の実績を積んで来日した新社長

新型コロナによる緊急事態宣言後、私の仕事のスタイルも大きく変わりました。そのひとつが、オンラインを使ったコミュニケーション。人とはなかなか会えない代わりに、オンラインを使ってなら誰とでもどこででも繋がれます。そしてこんな方とも……。ポルシェジャパンの新社長ミヒャエル・キルシュ氏。

キルシュ社長は、2019年8月1日付でポルシェジャパンの代表取締役社長に就任。その前は、ポルシェコリア(韓国)で3年間社長を務め、'18年には過去最高の販売記録を達成。さらにその前にはポルシェチャイナ(中国)、ほかにBMWやホテル運営会社の取締役などの経歴を持つお方です。

私は去年の11月、ポルシェのモータースポーツを表彰するパーティーと、その翌日に行われたポルシェ初電気自動車「タイカン」の日本発表時にキルシェ社長をお見かけしましたが、第一印象は「ワイルドそうな社長さん」(笑)。あくまで見た目だけのイメージですが。

ポルシェ初電気自動車「タイカン」日本発表時のキルシェ社長

そして今回、ポルシェジャパンとしても新たな試み、オンラインでのミーティングが実現しました。この日の参加者は、キルシュ社長、モータージャーナリストの河口まなぶさん、今井優杏さん、そして私の4名。テーマは「新型コロナ後の『新たな日常』における自動車ブランドのコミニュケーションについて」でした。

私たちの情報を事前にリサーチしていただいたようで、キルシェ社長は、お誕生日が近いという河口さんに、まずは「おめでとう」のメッセージを。その時、前日がお誕生日というポルシェジャパンの黒岩広報部長へのメッセージも忘れないあたり、気配りの方と推測いたします。

その後も一人一人に声をかけ、私に関してはポルシェコリア時代からご存じだったとのことで、本当に驚きました! なぜ韓国で? どうして(笑)。恐るべしリサーチ力です。どうやら今回は「自動車業界のインフルエンサー」ということで、私にもお声がかかったようです……。

そして、キルシェ社長が自己紹介。ドイツ生まれの54歳。小さい頃からクルマとは縁があったそうですが、当時はスポーツ三昧。サッカーはプロを目指し、テニスもやっていたというスポーツマンだったようです。

大学では経済を学び、その後、BMWに就職。一般管理職や社内コンサルティングを経て、米国でプロダクトマネージャーを務めている時には1996年のアトランタオリンピックに携わったとか。その後もF1にBMWが参入するのに関わったり、グローバルでのPRを統括するなど幅広い仕事をこなしていたようです。

その後はヘッドハンティングで大手ホテルグループ「アコーホテルズ」ドイツの取締役チーフコミュニケーションオフィサー(COO)に就任。その後は2012年から4年間、ポルシェの世界市場第2位である「ポルシェチャイナ」でCOO 、'16年からは「ポルシェコリア」でCEOという輝かしい経歴を経て、'19年8月から「ポルシェジャパン」のCEOに着任されました。

プライベートでは、スロベニア出身の奥様と、お子さんが二人。国際色豊かなご家庭で、「人が好き」「ガジェットが好き」「日本が好き」とのこと。

そして日本に赴任してからは、日本全国のポルシェディーラーを精力的に巡っているそう。とはいえ、残念ながら現在はコロナ禍のため中断しているとのことです。今回は1時間半の予定を30分もオーバーするという盛り上がりでしたが、簡単にまとめるとこんな感じのお話です。

――キルシェ社長は他のアジアの国に赴任されていましたが、アジアの中での日本はどういう存在ですか?

「歴史や文化の違いは、人に表れます。そして中国も韓国も日本も違います。中国は、いかに早く成功するかという弱肉強食の世界。成功やリッチの証を人に見せびらかしたいというのがあります。中古車の国内持ち込みができないのでクラシックカーの文化がないのと、新しいものや、すぐに欲しいものを買うので、そこは米国と似ています。韓国は歴史の背景こそ日本と似ていますが、より自分を強く表現します。電気、通信、デジタル製品、バッテリーテクノロジーでは世界のリーダー的存在です。品質やサービスを求める期待値が高いところは日本とも似ています。そして日本。パラダイスです(笑)。お客様が成熟し、文化が脈々と続く行動をします。日本ではたくさんのクラシックカーを街で見かけますが、これは中国や韓国では見られない光景です。70年前のクラシックポルシェが美しいまま街並みにあります。日本の人たちはカスタマイズにも理解があります。サービスは"おもてなし精神"ですが、それはお客様にだけではなく、チームに対するおもてなしの気持ちや取り組みがモチベーションになっています。日本には1年近くいますが、毎日いろんなことを学び、そこに自分の経験を加えてポルシェの文化を前進させるために、ポルシェのカルチャーは何かを考えています」

ーー販売での問題点があるとすれば、どんなところですか?

「日本は素晴らしい国です。しかし、組織のリーダーとしては他のどの国より手順が多く、物事を動かすスピードが遅くなってしまいます。日本人は謙虚なのでなかなか意見を言ってくれません。これはビジネスでは問題になるので、新しい企業カルチャーを作らねばならないと思っています。そのために大事なのは『信頼と責任』です。前例に従えばいい、という考えを改善していかねばなりません。未来を受け入れるために古いプロセスは破壊し、イノベーションによって変化させなければなりません」

ーーポルシェジャパンの社長として期待されていることは何だと思いますか?

「すべてのディーラーを回りたいのですが、現在はコロナの影響で中断しています。全体の印象としてはプロ意識が高く、ポルシェのことをよく理解しています。ディーラーからのフィードバックによると、お客様はクルマには満足しているようですが、この変革の時に、社長がどう対応するのか気になっている。投資はどうするのかも含めて。電気、デジタル、コネクトなどの時代は間違いなくやってくるので、充電ステーションを作ったり、コーポレートアイデンティティを発信したり、社内のデジタル化も進めなければなりません。EV時代になったらアフターセールスビジネスがどうなるのか? とかもです。インターネットやデジタルの活用法がカギになります。そのために、新しいビジネスも進めています。そして今、私に求められているのは透明性、強いリーダーシップを表明すること、ブランドの前進、供給のバランスを適切にすることです。私はポルシェジャパン初の外国人社長ですが、今のところは良い感触です。そして、やはり『信頼と責任』。コミュニケーションに対して心を込めて進められるように日本語も勉強中です。今のポルシェに合うおもてなしやディーラーがどうサービスできるか。そして、社員にどんなサービスができるか。私に何ができるのかを考えています」

ーー後編に続く

Yumi Yoshida
岩手県生まれ。カーライフ・エッセイスト。自動車評論家(日本自動車ジャーナリスト協会理事)。短大時代からモデルを始め、国産メーカーのセーフティドライビングのインストラクター経て「カーライフ・エッセイスト」に転身。クルマまわりのエトセトラについて独自の視点で自動車雑誌を中心に、テレビ、ラジオ、web、女性誌など広く活動中。3つのブログを展開し、中でも「なんちゃってセレブなカーライフ」は、ピーク時で1日約20万アクセスを誇る。持っている資格は、普通自動車免許、小型船舶1級、国内A級ライセンス、秘書検定、ECO検定、カラーセラピー。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本ボートオブザイヤー選考委員。 現在はYouTubeで「クルマ業界女子部チャンネル」を立ちあげて出演中。