宮川サトシ ジブリ童貞のジブリレビュー vol.13『崖の上のポニョ』

幼少期に兄から「ジブリを見るな」といわれた漫画家・宮川サトシは、40歳にしてなお、頑なにジブリ童貞を貫き通してきた。ジブリを見ていないというだけで会話についていくことができず、飲み会の席で笑い者にされることもしばしば。そんな漫画家にも娘が生まれ、「自分のような苦労をさせたくない」と心境の変化が……。ついにジブリ童貞を卒業することを決意した漫画家が、数々のジブリ作品を鑑賞後、その感想を漫画とエッセイで綴る。  


『崖の上のポニョ』レビュー

ご無沙汰しております、元ジブリ童貞の宮川です。

先日、別で連載している作品の展示がありまして、その下見のために嫁と子どもを連れてお台場に行ってきました。展示会場に向かう途中、ヴィーナスフォートっていう駅と直結している大きな商業施設の中を通って歩いていたのですが、突然娘が「わぁ〜!! トトロだぁ!!」と駆け出していったんですね。

そこには「どんぐり共和国」という、ジブリグッズを扱うお店がありました。

以前の私だったら、恐らく鬼の形相で娘の手を引き、そのままヴィーナスフォートを脱出したことでしょう(ジブリ童貞だけに反応する高密度マイクロジブリ波によって肉体がドロドロに溶けてしまうから)。

しかし私はもうジブリを知っています。トトロに関しては娘ともう30回は観ている。何も恐れることはありません。

私は娘とともに入店し、「お〜! ネコバスのラジコンなんてあるんだね、へぇ……全部の脚が動きながら進むんだね。キキの飼い猫ジジのぬいぐるみもあるね、これ、ジョナサンのレジの近くでも売ってたやつだ、ひとつ買ってあげようか?……ははは、トトロはやっぱり大きな口を開けたぬいぐるみが一番可愛いなぁ〜……ああ、でもお父さん、歯をむき出しにしたタイプも捨てがたいんだよな〜」と、そんなことをちょっと大きめの声で話し、娘や大勢いる他のお客さんたちにジブリジゴロとしての余裕を見せつけてやりました。

何言ってるのかちょっと自分でもわからないのですが……どんぐり共和国にいる間、終始「ここは俺の店やぞ」ぐらいの気持ちでおりました。

40歳までジブリ童貞を守って生きてきましたが、見える景色も感じる想いも、ここに来て大きくねじ曲がっていくのを感じております。

……それでは、前置きが長くなりましたが、私がジブリ作品のなかでも最も避けてきた作品『崖の上のポニョ』を40歳になって初めて鑑賞してレビュー書きました、読んでやってくださいませ。

サイケデリックなトトロ

冒頭から色という色が流れるように飛び交う映像美、海の中を描いているのにどんだけ色を使うんだよっていうぐらい、カラフルでサイケデリックなオープニング。

そんななかで、これといって何の説明もなく唐突におじさんの寝言(前衛的なファンタジー)が始まるんですが、このパターンに私もももう慣れてきたのか、いちいち意味を考えたり疑問を抱いたりすることなく、感覚で何が起きているのかを受け入れ続けた、そんな100分間でした。

マジックマッシュルームをかじりながら「となりのトトロ」を見たらこんな感じなんでしょうか……? マジックマッシュルームをたしなんだことがないので、かじるものなのかチュウチュウ吸うものなのかは知らないですが、巻き戻し再生することなくノーストレスで、色彩豊かな動く絵物語の情報がスルスルと頭の中に入っていく感じは、ちょっと気持ち良かったというか。

野外フェスで音楽を聴いては脊髄反射的にとりあえず「気持ちいい」って言っとけ的な人が若干苦手だったりするんですが……ポニョは繰り返し見れば見るほど、その気持ちイイ要素みたいなものが多く含まれている気がします。

トトロのように尺も短く登場人物が少ないのも、おっさんにはとてもありがたかったです。燃費の良い日本車、ぎょうざの満洲の玄米炒飯、そして、何度でも子どもと一緒に観れる映画のブルーレイは、最近の私にとっての三種の神器です。

山口智子さんを良い女と思えるかどうか

ジブリ……というより、宮崎アニメを見るうえで、個人的にどうしてもひっかかってくるのが女傑キャラの存在。『魔女の宅急便』にはその女傑キャラが2人も登場しますし、『千と千尋』の湯婆婆なんて、全ジブリに登場してる印象があるぐらい夏木マリさんの声のインパクトが鼓膜にこびりついてます。

で、今回は私のなかでの女傑中の女傑、あの女優の山口智子さんが宗介の母親リサの声をあてられてて、ちょっと反射的に身体が強張ったというか、トラウマ的に自分が中学生だった頃を思い出してしまいました。

当時『ロングバケーション』『29歳のクリスマス』をクラスの同級生たちはこぞって見ていて、クラスのヒエラルキーのトップにいるイケてる男子女子が「山口智子いいよね〜」と、絶賛していたんですね。どっちのドラマも1話目でリタイヤした私は、そんな様子を遠くから揚げパンくわえて見ているだけ。

これは勝手な思い込みなんですが、たぶんあの頃山口智子さんを「良い女だ!」と言えてた奴らは、今頃出世している気がするんですよ。あとでフェイスブックで確認してこようかな……。

なんでしょうね……俺のなかで山口智子さんって、男とフランス料理食べに行っても途中でナイフとフォークがわずらわしくなって、「割り箸持ってきてーっ!!」って店中に響くような声で叫ぶ女傑イメージ。土砂降りの中、マンションの前でズブ濡れのまま立ち尽くす男に、歯ブラシくわえたまま玄関から顔を出して親指を後方に向け「……入んなよ」って言っちゃうようなイメージ。
情けない話なんですが、男兄弟の末っ子で育てられた私はどうもそういう強い女性にビビってしまうところがありまして……。

案の定、宗介の母親・リサは、宗介に自分のことを「リサ」って呼ばせてるし、車の運転も片輪が浮きっぱなしで「ルパンじゃねーんだからよ」ってぐらい無駄に荒いですし、実際の山口智子さんもたぶん公道で片輪浮かせて走ってると思うんですよ。

……ただ、ですね。朝ドラの「なつぞら」に登場するおでん屋のママを演じる山口智子さんを毎朝見てるんですが、相変わらずの独特なバブル喋りではあるけど、やっぱり綺麗なんだな……と、ふと思えた朝があったんですね。40過ぎてやっとですよ。

あぁ、自分も東京出てきて少しは男を上げられたのかな……とか思ったりして……って、あれ? これ何の話でしたっけ?

登場人物にツーブロックの髪型の人が多いのが気になる

めちゃくちゃどうでもいいことなので、わざわざここに書くようなことでもないんですが……一応本当に思ったことを書くルールなので書いておきますが、登場人物にツーブロックの髪型にしてる人が多いのがちょっとだけ気になりました。

途中、デイサービスのひまわりの家にいる利用者のトキさん(CV吉行和子)の髪型がツーブロックだったの見て確信しました。これはちょっと……(ツーブロッカーが)多いぞ、と。

どうしても気になったので、最初からスローで確認してみたところ、宗介は勿論のこと、母親のリサ、ポニョ(第2形態)もよく見たらツーブロック。デイサービスの運転手のおじさんまでもがそうなので……当時流行っていたんですかね?

一緒に観ていた妻が面倒くさそうな顔してましたが、それを無視してカウントして調べてみたところ……

26人中ツーブロックの人が8人(ヘルメットや帽子を被ってたり、引きの絵で確認できないぐらい小さい人物は除く)

3割のツーブロック率……ですよ、プロ野球で3割打者と言えば一流打者。
ラストのくらげ? ドームの中で走れるようになったデイサービスのおばあさんたちのなかに、ツーブロックのメンバーが一気に数名増えてた時はちょっと興奮しましたね……だから何だって話なんですが。


結論:子供同士の恋心をバカにしていないことに感動する

ポニョを避けてきた理由に、テーマ曲を歌っている幼女(大橋のぞみちゃん)の両サイドで「僕たちも可愛いでしょ?」と言わんばかりの、手にポニョのパペットをつけて歌っている役場のおっさんみたいなふたりの男性のことがどうも当時のポニョブームの頃から受け入れられず……自分が見るべきものじゃないなと判断してたところがあったんですね。

それが実際観てみたら、思ってたよりも全然全人類向けだし、思ってた以上に相当面白かったという、本当あの主題歌のおじさんの露出が個人的には要らなかったというか……ふじおかふじまきのおふたりには何の罪もないですが。何の罪のないってこともないか……。

ほおずりやキスする描写がやたら多いので、ポニョのテーマが「愛」であることはすぐにわかったのですが、ただそれが子供同士の愛を中心に置いたもので、しかも、それを儚い物だとか、いつか終わる物として描いていないってところに、個人的には一番グッときたんですね。

子供同士の恋愛(なんてもの)は、いつか終わる。それぐらい貧弱なもの。

私がそう思いながら1周目を見てしまったのは、すでに終わってしまった当時の自分の恋心の残骸(結果)ばかり見てしまうような、そんなしみったれた大人になってしまったからで。

たぶん、当時私が好きだった水野優子ちゃんに会うためだけに学校に通ってた気持ちは、物凄い純度が高く、子供なりに本物だったはずなんですよね。……思わず当時好きだった子の本名を書いてしまいましたが。

中盤、手足を手に入れたポニョが宗介に会いたいという一心で、魚の波の上をブワーッ! って駆け抜けて追いかけてくる怒涛のシーンがあるんですが、それがすんごい長い時間かけて駆け抜けるんですよ、皆さん知ってると思いますけど。

アニメのことはそんな詳しくない私でも「作画コストとんでもないんじゃないの?」と少し心配になるぐらいの(朝ドラ「なつぞら」で得た聞きかじりの知識でテキトーなこと言っております)とんでもない熱量が込められているんですが、あれってどういうモチベーションで作ったんだろう? って思いながら最初は観てたんですよ。途中で嫌にならんかったんかなとか。よく複数のアニメーターの人たちの想いを統率できたなとか。白毛のおじいさんがこれを作ってるんか……と。

でもそれがもしかしたら、子供同士の愛が持つ純粋なエネルギーを表現したものかと思うと、一児の娘を持つおっさんの私の胸はどうしたって熱くなるんですよね。

半魚人がキスしたら人間になるとか、ポニョたちが使う魔法の理屈とかよくわかんないですが、そんなことどうでもいいやって思わせてしまう"子供同士の愛を全肯定する"ハッピーエンド。あれを観させられたら「ポニョは傑作」と言わざるを得ないですよね……。


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宮川サトシ
宮川サトシ
漫画家。エッセイ『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『情熱大陸への執拗な情熱』『そのオムツ、俺が換えます』/原作『宇宙戦艦ティラミス』『僕‼︎男塾』など。現在、週刊新潮にて『俺は健康にふりまわされている』を連載中
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