back number  人生という魔法について歌う ~野村雅夫のラジオな日々vol.26

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は3月にリリースしたアルバム『MAGIC』が話題のbuck numberのボーカル・ギター清水依与吏だ。


3年3ヵ月ぶりにオリジナル・アルバムをリリース!

スケジュールの都合で、僕たちが会ったのは珍しく昼前。少し寝不足なんだと言うので、どうしたのかと聞いたら、前の晩に10-FEETのTAKUMAさんとFM802の人気番組Rock Kids 802で一緒に話した興奮から、ホテルへ帰ってもすぐに寝付けなかったらしい。なにしろ、2003年に観客として参加したライブイベントで10-FEETのキャップにTAKUMAさんのサインを入れてもらい、back numberの初期はその帽子をかぶってライブに臨んでいたのだというから、そんな憧れの先輩にラジオで話せる日が来るとはという感慨が押し寄せたようだ。僕も清水依与吏くんとゆっくり話すのは久しぶりだったのだけれど、マイクチェックをしながらそんなエピソードを聞いているうちに、すぐに打ち解けることができた。

どうも、back numberのボーカル・ギター、清水依与吏です。

ーー依与吏くん、チャオ!

チャオ!

ーー番組が新年度に入りました。昨年4月から始まったわけですが、驚いたことにですね、昨年の4月2日に、依与吏くんはコメントという形ではあるとはいえ、出演してくれているんです。番組の一組目のメッセージでした。僕以外の声がCiao Amici! で初めて流れたのが back numberだったんです。

なんか、すみません。しかも、また来てるわけでしょ? 1年後に。ハハハ

ーーフフフ。でも、今回はスタジオに来てくれて、対面で話せるっていうのが嬉しいところです。ていうか、僕がまず1年前に寄せてくれていたメッセージのお礼を伝えないと。まあ、依与吏くんは、僕が前に5年間担当していた番組Ciao! MUSICA(チャオ・ムジカ) でも何度もお話したし、なんなら、その前に担当していたRock Kids 802からのお付き合いだから、番組名のアミーチは友達って意味だし、メッセージをくださいってお願いしたんです。もっとあけすけに言うと、「祝ってくれ」というとんでもないオファーをした結果、依与吏くんの返しが奮ってましたね。「え? チャオ・ムジカじゃないの? アミーチ? なんかちょっとしっくりこないな」

ハハハハハハ!! 失礼か! すいません。

ーー新番組の立ち上がりに寄せられた言葉。「番組名がしっくりこない」だもんね。

ハハハ! やっぱり、長かったんですよ。ムジカ・タイムが。なので、チャオ・ムジカっていう鳴りを気に入っちゃってたわけですよ。でも、今後はアミーチってことですよね。

ーーそうそう。ひとつ、改めてよろしくお願いします。で、今回来てもらったのは、3月27日に6枚目のアルバム『MAGIC』がリリースとなったということで、おめでとうございます。

ありがとうございます。

ーー2016年の年末に出たベスト・アルバム『アンコール』があったし、シングルなんかも出てたから、そこまで間隔が空いたっていう印象はなかったんですけど、実はオリジナル・アルバムとしては3年3ヵ月と結構空いたんだよね。

ね。空いてますね。

ーーたとえば『瞬き』って曲があるじゃない。映画『8年越しの花嫁 奇跡の実話』の主題歌で、これなんかは2017年12月20日にシングルとして出てるわけ。その年のFM802 ロック大忘年会Radio Crazyでも披露してくれたから、僕もよく覚えてるんですよ。あの『瞬き』がここに収録されるんだっていう軽い驚き。

あ、でも、感覚的には俺らもそうかも。

ーー『MAGIC』というアルバムを出すぞって、そこをめがけて録音していったわけでは決してないと思うしね。レコーディングの時期は実際にかなり長きに渡ってるんですって?

そうですね。いろんな心持ちの曲が入ってます。当たり前ですけど、ず〜っと同じ気持ちではいられなかったり、いろんなものに夢中になったりとか、自分の中での流行り廃りみたいなものもあったりとか……なので、結果的には、色とりどりなアルバムになったのかなと思ってます。

ーー『MAGIC』という名前を付けようと思ったのは?

『瞬き』を書いていたあたりかな……そのもうちょっと前くらいからかな……「価値ってなんだろう?」ってずっと考えてて。自分はこの人のことがこんなにも好きなのに、周りの人は全然この人のことが好きじゃないとか。なんなんだろう、それ? なんで自分の中にだけ価値があるんだろう、とか。いろいろ考えていた時に制作にあたっていたので、結構色濃くそのエキスが出ていて、「価値」って言葉はキーワードになってるんだろうなと。でも、そのままアルバムタイトルにするのは、単純に清水依与吏なだけだから、小島和也と栗原寿とバンドでやるうえで、もっとキラキラしたものにできないかなと思ったんです。バンドって楽しいなって今思っているので、だからこそ、価値を見いだせること自体が、魔法にかかっているってことなのかなと。そういった意味で、MAGICという言葉はしっくりくるなあと思って。

ーー言われてみれば、価値っていうキーワードに収まるような歌詞が多い気がするね。

そう。一貫して。なので、コンセプト・アルバム的なところもあるような気もするんです。

ーー実はね。

だけど、同じ色で統一されたアルバムという印象はないので、よりキラキラした、自分たちも聴いていてワクワクするようなものにしたかったんです。曲順でも工夫したし。

ーーどんな工夫なの?

価値がどうだとか、歌詞の意味を重視して曲順を考えていくと、たぶん『瞬き』が1曲目で、『あかるいよるに』って曲を一番最後に持ってくるのが、美しかったんだと思うんです。

ーー『あかるいよるに』には魔法っていうキーワードも歌詞にずばり入ってるしね。

そうそう。なので、わかりやすいし、それがいいんじゃないかなと最初は思ったんです。でも、メンバー3人が、ものすごくカッコいいback numberに会いたかったんです。俺たちのやってるバンドは、こんなにカッコいいんだ。このアルバムは、カッコいいぜって。なんかね、今までで一番、男くさいというか。ちょっとハードボイルドなのかなっていう感覚もあるので、そういう風に感じられる曲順にしてます。ポップな曲も結構入ってるんですけどね。

ーー面白いもんで、もし「置きにいけば」、オープニングとラストにそれぞれ配置されていた『瞬き』と『あかるいよるに』が、今はその2曲が並んでるからね。

ハハハ! あ、そっか。そうだそうだ。3・4で並んでる。『瞬き』を聴いた後に、何が聴きたいって、いろいろ試したんですけど、『あかるいよるに』以外は無理だったんですよ。『最深部』『サマーワンダーランド』『瞬き』という流れの後には。ここまで聴いてもらえれば、どんなアルバムか、どんなバンドかっていうのは、ある程度わかって、そこからさらに掘り下げてもらえる仕様になってるのかもしれないですね。

ーー3ピースバンドであるという、back numberのロックバンドとしての男くささ、あるいは、ハードボイルドなところは、確かに感じられる局面が多いです。一方で、今回はプロデューサーが4名ほど、しかも、日本の音楽シーンの最前線の方々が参加しています。

こうやって名前を並べると、めちゃくちゃ贅沢ですね。

ーー島田昌典さん。亀田誠治さん。小林武史さん。蔦谷好位置さん。となると、蔦谷さんが一番若いのかな。他の3名は、もういわゆる大御所ですから。正直に言っていい? 特にアルバムだと、セルフ・プロデュースのものが増えるじゃない? シングルでは、ある種の華やかさが備わって、アレンジ、言わばお化粧ののせ方がうまいっていう……

自分たちだけではできない部分。

ーーそれがプロデューサーの仕事なので、見事なんですけど、どっちかっていうと、セルフ・プロデュースの曲が聴きたくなるのね。

嬉しい。

ーーたとえば自分の好きな曲に丸をつけていくとするなら、ほとんどがセルフ・プロデュースのものなんです。そこで質問したいのは、こうした名うてのプロデューサーたちの手で仕上がってきたアレンジを耳にした時のことなんです。こういうたとえは語弊があるかもしんないけど、幼馴染の女の子がいて、化粧っ気のない頃から知ってる子に、久々に会ったら、すげえ化粧がうまくなってて、美人だけど、あの時のあの子とちょっと違う気がする、みたいな。特に女性の場合は、化粧がうまければうまいほど、「え!?」みたいなさ。そういう感覚になることってないの?

アコースティック・ギターでまず弾き語りをしてみて、それがよいなと思うじゃないですか。

ーー一番素朴な状態だよね。

どうしても、曲って自分たちの子どもでもあるって感覚もあるので、どういう服を着てほしくて、どういうお化粧が似合うとか、すっぴんが似合うとか、そういうのはなるべくよく考えるようにしています。この子はきちんとお化粧をして、髪の毛もちゃんととかしてあげて、俺たちっていうよりは、曲自身が自信を持って、今の自分が最高だと言えるようなものしか、表には出さないですね。

ーーなるほど。そうじゃないと、嘘になっちゃうというか。ライブで歌ったり、街でふっと耳に入ってきた時に、「こりゃ違ったな」って思いたくないものね。

絶対にあってはならないと思います。ただの1曲も。だから、ものすごく考えてます。

ーー曲ができた時に、あるいは作りながらも、その子の行く末みたいなものがある程度見えるわけだね。

そうですね。3人で最初は編曲にトライするんですけど、これは自分たちの中で完成と言えるところまで持っていけると思うものと、これは俺たちじゃない方がいいっていうような事もあるわけですよ。もっとすごい優秀な指導者がいる道場に行きなさい。みたいな。

ーーハハハ!

君は才能があるからって。ただ、才能はあったとしても、あっちに行くと、たぶん誘惑も多いから、うちの群馬の道場でがんばりなさいみたいな子もいるんですよ。

ーーハハハ。たとえがどんどんずれてきたよ。

女の子の話だったのにね。

ーーでも、そうかもね。結果、どっちも楽しめる1枚なわけです。曲数も多いしね。これぞ、アルバムの魅力。たとえば、『ロンリネス』って曲は、もともとシングル『大不正解』のカップリング曲なんだけど、これなんかは自分たちでプロデュースしてなんぼだろっていう感じの曲だよね。

そうです。誰かに渡してもね、そんなに意味はないという。

ーーすげえ皮肉のきいた曲ですよ。神へのインタビューという設定。僕のこの歌い出しと同じ言葉で今日はゲストコーナー始めようかと思ったくらいだもん。「清水依与吏さん、今日はね、お忙しいところをありがとうございます。早速インタビューから始めさせていただきます」って。

歌詞だから。それ、歌詞!

ーーハハハ! 歌詞をほとんどそのまま読んだだけ。でも、こういう言葉から始まるってのも、たとえばシングルの表題曲だけではわからないback numberの面白さですよ。あと、『monaural fantasy』ね。これは、すごい好きです。もどかしさって、恋愛に限らずだけど、依与吏くんの表現のテーマによくなるじゃないですか。この曲には、人生をどう生きていけばいいのかっていう、視野の広さが備わっていて、後悔があったとしても、最後はこうありたいんだと歌われます。これなんかは、華美に飾ったアレンジじゃないのがやっぱりよいなと思ってます。

生きていると、すごい大好きな居酒屋さんが店を畳んだりとか、Tシャツとかよく買ってたお店がなくなったりとか、よくあるじゃないですか。また同じメンツで集まりたいねって言ってて、みんなに連絡したら、あいつとあいつが喧嘩したとか、あいつとあいつが一度つきあって別れたなんてことになって、あの夜には絶対に帰れないんだなって。そういうことが、すごくもどかしいんです。当たり前なんだけど、戻れない時を生きているのをものすごく思い知らされる瞬間なんです。それを乗り越えても、ちゃんと生きていけるのかなって。でも、やっぱり帰りたいんだ。あの夜はすごく楽しかった。幸せだった。そういう感覚を、絵を描く感じでやりたかったんですよ。

ーー気づくのはいつも後なんだよね。

幸せって、ほんと、後になってきづくじゃないですか。

ーー後なんだよ。

なんなんすかね。

ーーでもね、その時々で、大切にしたいから噛み締めようって思いもあるっちゃあるんだけど、「今幸せだな〜〜〜〜」なんて思ってると、純粋にその場を何も考えずに楽しんでるのとはまたちょっと違うなって気もするのよ。端から写真を撮ろうとしてる気がするわけ。

あ〜〜〜〜〜〜、はいはい。

ーー本当に楽しいときって、写真は撮り忘れるじゃない。

そうなんですよ。

ーー飯とかって、今はみんなSNSにアップするけど、本当に美味しい時って、撮り忘れてるじゃない。

そう! 残ってないんですよ(笑)

ーー空になった皿を……

あ、やっべぇ!ってなるんですよね。

ーーその感覚を思い出したのは、この曲を聴いていての体験でした。

ほんと、その通りだと思います。

ーーアルバムも出ましたから、今回も大規模にツアーが展開されていくわけですが。これ、タイトル、誤植じゃないよね? アルバムのタイトルはなんだっけ?

『MAGIC』です。

ーーツアー・タイトルは?

『NO MAGIC TOUR』です。

ーーお〜い!

ヒヒヒ! だって、魔法使えないなと思って。

ーーハハハ!

これで『MAGIC TOUR』だと、いっぱい何か出てきそうじゃないですか。象とか。それが一瞬で鳩になるとか。

ーーなるほどなるほど。人生における価値という魔法について歌ってはいるが、ステージで魔法そのものを見せるわけではないぞと。誤解されるとマズイもんね。フフ。

それに、魔法は使えなくとも、自分たちが魔法にかかっている状態なわけだから。少なからず、back numberっていいなって思ってくれる人が、何か気になって来てくれるわけですから、そこには魔法はないんだけど、帰った時にどういう気持ちでしたかっていうのは、俺たちも知りたいし。それから、魔法が使えない中で俺たちみたいなバンドができることってなんだみたいなことにはなると思います。だから、アナログなライブになりますよ。ハハハ!

ーーそりゃそうだよ。

歌中心のいつも通りのものになると思います。

ーー宙に浮いたりはしないですか?

今企画中ではあるんですが、実は最後までずっと2cm浮いてた、みたいな。

ーーハハハ! 

あれ〜、気づかなかったぁ、みたいなね。

ーーいやいや。地に足の着いたパフォーマンスをして。

そうですね。いつもふわふわしてるんで。その分、どっしりやりたいです。

ーーでは、次に会うのは、そのツアーでってことになりますかね。でも、これからも、向い合わせで喋りたいからさ、スタジオに来てよ。もうムジカじゃなくて、アミーチ、友達なんだから。番組名がしっくり来ないのは、言い慣れてないからだから。

アミーチ! アミーチ!

ーー今日は、どうもありがとうございました。

ありがとうございました。




野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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