「子供の辞めたいを認めるとガマンができない子になる?」 ~親子関係はアドラー心理学で解決④

仕事では実績を上げ、高い評価を受けているし、周囲からの信頼も厚い。ところが、相手が我が子となると、努力と成果がどうも見合っていないような……。前回、夫婦関係の悩みを、アドラー心理学をベースにズバリ解決してくれた熊野英一先生が、今度は親子問題をレスキュー! 


本当に好きなものに出会うまでは"つまみ食い"も必要

ゲームや勉強と並んで、親を悩ませるのが、子供の習い事関連。とくに、「子供が『辞めたい』というのを、簡単に受け入れてもいいのか」は、迷うところ。「上手にできないから、もうイヤだ」「練習するのがめんどうだから、辞めたい」というのを認めていては、何事もすぐあきらめてしまう、こらえ性のない人間になってしまうのではないか。親としては、そんな心配がよぎるからだ。

熊野さんは、「そもそも習おうと言い出したのは誰でしょう? 幼いうちは、親主導のことが多いのではないでしょうか。それを考えると、自ずと答えは見えるはずです」と。

そうは言っても、子供も同意し、嬉々として始めたはずだ。これこそ、自分で決めたことに責任を持つ必要があるのでは?

「たとえばピアノなら、子供は、ステキにピアノを弾くことに憧れただけで、そこに至るまでに厳しい練習があることは説明されていなかったのではないですか? となると、子供が、『話が違う!』と思っても、しかたがありません。『やりたいと言ったのだから、途中であきらめるな』とか『一度始めたことは、最後までやり遂げろ』と無理強いするのは、親のエゴです。

子供が、本当に好きなものを見つけるには、"つまみ食い"も必要。幼いうちは、『合わないから辞める』の繰り返しでも、『本当に好きなことを見つける最中なのだ』と思えば、親の苛立ちも解消されるだろうと思います。もう少し大きくなって、やっぱり辛い練習を乗り越えてでも、ステキにピアノが弾けるようになりたい、と思える日が来たら、そこからまたレッスンを始めてもよいのでは?」

壁を乗り越えるのに必要なのは、ガマンではなく勇気づけ

「イヤになったら、すぐ辞める」という"辞めグセ"についても、熊野さんは、「日本では、耐えることやガマンすることの先に栄光が待っているという“苦労神話”が定着していますが、本当にそうでしょうか?」と、疑問を投げかける。

「実際は、好きで好きでたまらなくて、楽しんで練習しているうちに上達したとか、プロになったというケースが大半なのでは? 子供が壁にぶつかった時に乗り越えられたのは、親がムリにでも続けさせたからではありません。それ以前に、うまくいかなくてもチャレンジする土台ができている子供だったから、乗り越えられたのだと思います。親がすべきは、その土台づくり。それは、第一回でお話したように、子供を勇気づけることで育まれます」

他者との比較ではなく、"昨日の我が子"との比較を

勇気づけには、うまくいかないことや失敗も含めて、その人を受け入れ、認めることが不可欠。けれど、"昭和な親"の中には、ハッパをかけることで子供を奮起させようとするケースも少なくない。

「『挑戦する子になってほしい』とか『期待に応えてほしい』という親の気持ちはわかりますし、大事だとも思います。ただし、『こんなこともできないのか!』『そんなことじゃ、いつまでたっても上達しないぞ』といった子供のやる気をそぐような"勇気くじき"や、『○○ちゃんは、上のクラスに進んだのに』『このままじゃ、○○くんに負けるぞ』などの他者との比較はしないこと。それで発憤する子供なんて、そうはいませんよ。比較するなら、昨日の我が子と。『先週はできなかったことが、できるようになったね』『この前先生に注意された部分、よくなっているね』。そうした言葉は、子供のやる気を促すと共に、『お父さんは自分のことをちゃんと見てくれている』という親への信頼にもつながります」

Today’s Advice
栄光は、ガマンの先にあるのではなく、勇気づけによってもたらされる


アドラー心理学とは
ユダヤ系オーストリア人心理学者アルフレッド・アドラー(Alfred Adler、1870-1937)が築き上げた心理学。個人とは分割できない存在であるという理論のもと、現代のさまざまな問題に具体的な解決法を与える実践的な心理学として、臨床現場はもちろん、学校や家庭や企業でも活用されている。


Eiichi Kumano
アドラー心理学に基づく「親と上司の勇気づけ」のプロフェッショナル。日本アドラー心理学会正会員。1972年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業し、メルセデス・ベンツ日本勤務の後、アメリカのインディアナ大学ケリー経営大学院に留学、MBAを取得。帰国後、保育サービス業などを経て、2007年、株式会社子育て支援を創業。著書に、『アドラー式働き方改革 仕事も家庭も充実させたいパパのための本』などがある。


『アドラー式子育て 家族を笑顔にしたいパパのための本』
熊野英一
小学館 ¥1,404


Text=村上早苗 Photograph=鈴木克典