生き様がにじみ出る超絶の邸宅!人生が結晶した家② OVERSEAS

ただ大きいだけの家、ただ豪華なだけではない。今回ご覧にいれるのは、家主のこれまでの人生、つまり生き様が「家」という形に結晶したものばかり。だから、まるで家が意思を持ち、家主と一心同体になろうとしている。さて、あなたにはどんな家が建てられるだろうか?

時計ブランド『Richard Mille』CEO リシャール・ミルの
野性の勘を磨くための広大すぎる家

 大きな門をくぐった先に見えたのは、手入れが行き届いた庭園と大きな池、そして遥か向こうにそびえるシャトー。さらに我々が乗るタクシーの横を白馬がゆっくりと歩いていく。お伽話(おとぎばなし)の世界か、映画のセットにでも迷いこんだような気分だ。これが個人の邸宅だということがにわかには信じられない。
 このとてつもないシャトーで暮らしているのは、最先端の素材や機能を詰めこみ「時計のF1」と呼ばれるブランド『Richard Mille』オーナーのリシャール・ミル氏だ。生産数は極少で、数百万円、数千万円のモデルが予約待ちになるほど人気の『Richard Mille』。その唯一無二の時計のアイデアは、このシャトーから生まれている。
「以前は、パリで暮らしていたんだけど、2002年にここに引っ越してきたんだ。急に妻が田舎暮らしをしたいと言い出し、僕は、『それも悪くないな』くらいの気持ちだったんだ。でもここを見つけて暮らし始めたら、本当に快適。週末に庭を散歩したりしていると、慌ただしい日々を忘れて、野性を取り戻すことができる。パリの連中は、『田舎は不便だろう』って言うけど、実際に来てみれば、いかにここが素敵な場所かわかってもらえるだろう?」
 このシャトーがあるのは、フランス・ブルターニュ地方の中心都市レンヌ郊外の田舎町だ。パリからは、車でもTGVでも3時間はかかる。リシャール氏は、月の半分ほどをマーケティングオフィスがあるパリや海外で過ごし、週末など残りの半分をここで過ごす。都会や他国で受ける刺激と自然の中で蘇る野性。そのバランスは、彼が作る「最先端の技術を用いた機械式時計」というアンビバレントな魅力にも通じる気がする。
 シャトーが建てられたのは、243年前、1771年のことだ。長くこの地方の貴族がここで暮らしていたが、住む人がいなくなったところでリシャール氏が買い取ることとなった。敷地面積は、なんと130ヘクタール。東京ディズニーランドと東京ディズニーシーを足した面積が100ヘクタールと言えば、その大きさを理解してもらえるだろうか。
 敷地内には、邸宅であるシャトーのほかにガレージやリシャール・ミル本社、個人用のオフィス、厩舎(きゅうしゃ)や雨天用の屋根つきの馬場などの建物があり、リンゴやチェリーの果樹園や菜園も備えている。
「時々、鹿や猪(いのしし)が現れて、庭や畑を荒らすこともある。だから時々、ハンターに来てもらって、ウチの冷蔵庫に入ってもらうようにしているんだ(笑)」

広いガレージの中には、F1などで活躍した驚愕のレーシングカーコレクションが並ぶ。ちなみにリシャール氏の普段の“足”は、アストン・マーチン。

 ちなみに現在、この広大な敷地で暮らしているのは、夫妻と子供3人。あとは、馬が5頭と犬1匹、猫1匹、池のアヒルが一群いるだけだ。
「引っ越してきた最初は、電気もまともに通ってなかったし、庭も荒れ放題だった。そこから少しずつ手を入れて、ようやく快適に暮らせる状態になったんだ。木は数万本の単位で植え直したし、今も6人の専属庭師が毎日きちんと手入れをしてくれている。それでも理想のシャトーが完成するのは、まだまだ先になるだろうね。ひとつ終われば、別のところの修繕が出てくるし、メンテナンスは永遠に続くんじゃないかな(笑)」
 リシャール氏の案内でシャトーの内部へ。吹き抜けのエントランスを抜けて、リビング、ダイニング、書斎……。まるで迷路のように次々と部屋が現れる。しかもどこも広く、天井が高い。冬場の暖房費が月100万円を超えるというのも納得だ。

「ここも見るかい?」
 いたずらっぽく微笑んだ彼の跡を追って隠し扉のようなドアを抜けると、ステンドグラスが美しい小さなチャペルもあった。
「息子の洗礼式はここでやったんだ。僕がお祈りに来ることはほとんどないけどね(笑)」
 壁や天井の装飾や大きな暖炉に歴史を感じるが、インテリアはゴージャスというよりも、モダンでリラックスした雰囲気。陽気で気さくなリシャール氏の人柄が表れているようだ。
「インテリアは、妻の担当。ほとんど任せ切りにしているよ。やたらと動物の剥製があるのは、昔ここに住んでいた貴族の趣味だよ。部屋数? 3階まであるけど数えたことがないな(笑)」
 実は、リシャール氏が一番こだわっているのは、別棟のガレージ。あのジェームス・ハントが乗っていた「マクラーレンM23」や「ロータス78」「ランチア・ストラトス」「ポルシェ910」など、モータースポーツの歴史を飾った名車がズラリ。

「フォーミュラカーだけで全部で15台持っているんだけど、ここに入り切れなくて、友達のところに置いてある分もある。ここにもうひとつガレージを作りたいんだけど、なかなかそこまで手が回らなくて」
 ミュージアム級のコレクションは、その気になれば、いつでも走らせることもできるそう。ガレージ2階には、リシャール氏個人の部屋があり、車関係の雑誌や玩具やゲーム機が所狭しと並んでいる。
「どうだ、楽しいだろう? 僕は、ここでなら何時間でもひとりで過ごすことができるんだ」
 いつまでも子供のような気持ちで過ごすことができる、リシャール氏の夢が詰まったシャトー。こんなところで暮らすことができれば、彼のような斬新なアイデアが次々と湧いてくるのかもしれない。

Richard Mille
1951年、フランス生まれ。時計メーカー、宝飾ブランドなどを経て、2001年に自身の名を冠した時計ブランド『Richard Mille』を設立した。独創的なアイデアに基づく、驚異的な素材や構造で時計業界を席巻。創立10年を待たず、高級時計市場の頂点に。

ベネトン・グループ会長 アレッサンドロ・ベネトンの
プライバシーを完全確保する地中に広がる「見えない家」

 イタリア北東部、ヴェネツィアから内陸に入った地トレヴィーゾに、「見えない家」と題された家がある。3ヘクタールを超える広大な敷地の中に、一部打ち放しコンクリートが見える。ささやかな建物が点在するのかと思えば、そうではない。この邸宅は、主に地下空間に広がっているのだ。
 オーナーは、イタリアを代表するファッションブランド、ベネトン・グループ創業者ルチアーノ氏の長男にして、現会長のアレッサンドロ氏。そして、パートナーであるアルペンスキー金メダリストのデボラ・コンパニョーニ氏。ふたりが住まいを建てるに際して、依頼をしたのは建築家の安藤忠雄氏である。

広くとられた中庭が、地中に居住空間があることの圧迫感を取り去る。できる限り光を採り入れるよう工夫が凝らされている。

「同じトレヴィーゾにあるベネトンのアートスクール『FABRICA』は、安藤さんの設計です。その伸びやかな空間や、周辺環境との関係性が非常に気に入りました。住宅をつくるにあたっても、ぜひ安藤さんにお願いしたいと考えたのです」
 とアレッサンドロ氏は言う。自邸を建てるうえでは、ひとつだけ要望があった。
「周囲の視線から、プライバシーが守られるように。それだけをお願いしました」

幾重もの植栽と芝生に囲まれたプールを望む。地上には建築のほんの一部が顔を覗(のぞ)かせるだけで、大半は地中に埋まっている形となる。

 イタリア屈指のセレブリティ・カップルゆえ、当然の願いである。その条件を満たすために建築家が採用したのは、半ば以上を地中に埋める住宅だった。
 地中の建築は、安藤氏が長年取り組み続けてきた形態。瀬戸内海に浮かぶ直島の「地中美術館」の例もある。これらの経験を生かし、「見えない家」も地下とはいえ、採光は十分。どの空間も明るさと開放感に満ち溢(あふ)れている。

地下2階のリビングルーム。天井高は実に6.6m。光がたっぷりと降り注ぎ、地階にいることをまったく感じさせない。

 プライバシー確保と同時に、地中の家にはもうひとつメリットがある。自然をより身近に感じられる空間を生み出すことだ。大地の一部と化した居住空間の周囲には、幾重にも樹木が植えられた。それらが育つほど、建築は自然に覆われ、文字通り「見えない家」となっていく。
 木々に家が呑み込まれた時、プライベート空間はより親密で安全なものとなる。その瞬間こそ、住宅の本当の完成である。
「かつて世界を飛び回っていたふたりですが、今はこの家が最も心落ち着ける場になりました。ここでは家族がひとつになれる。私たちにとって、このうえなく貴重な空間なのです」
 とアレッサンドロ氏。この家はそこに住む人や、周囲の自然とともに、時間を経るほど熟成されていくのだ。

Alessandro Benetton
1964年生まれ。ベネトン創業者ルチアーノ・ベネトンの長男。ゴールドマン・サックス勤務、ベネトン・フォーミュラ会長などを経て、現在はベネトン・グループ会長を務める。妻はイタリアスキー界の女王デボラ・コンパニョーニ。

Text=川上康介、山内宏泰 Photograph=嶋田敦之、松岡満男

*本記事の内容は14年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。
14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)