映画『Red』で三島有紀子監督が描く女の生き方~野村雅夫のラジオな日々vol.41

現在、関西のFM COCOLOを中心に、DJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は 夏帆と妻夫木聡主演で2月21日から公開の映画『Red』の三島有紀子監督。

現代版イプセンの『人形の家』

今回番組にお迎えしたのは、映画監督の三島有紀子さん。2月21日(金)に『Red』が公開となる。直木賞作家、島本理生の同名小説を映画化したもの。原作とは違う、オリジナルの結末も話題となっている。

誰もがうらやむ夫、そしてかわいい娘。はたから見れば「何も問題のない生活」を送っていたはずの塔子。10年ぶりに、かつて愛した男、鞍田に再開する。彼は行き場のなかった塔子の気持ちを少しずつゆっくりとほどいていくのだが、鞍田には秘密があった。現在と過去が交錯しながら向かう先には、誰も想像しなかった塔子の決断が……

  ©2020『Red』製作委員会  

主人公の塔子を演じるのは、夏帆。その塔子が学生時代にアルバイトをしていた設計事務所の社長である鞍田には、妻夫木聡が扮する。鞍田と同じ設計事務所で営業を担当している小鷹役で柄本佑、塔子の夫・真役で間宮祥太朗が参加するほか、浅野和之、余貴美子などが脇を固める。

僕が三島監督とお会いするのは、今回が初めて。僕も彼女もかつては8mmフィルムで自主映画を撮っていたという共通点があって、収録スタジオはマイクテストの段階から、そんな話で盛り上がった。

――いや〜、8mmは懐かしいなぁ。あれ、失敗は許されないんですよね… 編集も。

許されないですね。ラッシュ観るまでわからないですし… 撮れているかどうかも。

――やっぱり繋ぎ直そうと持ったら、1コマは少なくとも消さないと。落とさないとダメじゃないですか。

はい。そうですね。しかも編集で1回切ってしまうと、どこに行ったかわからなる事件というのがよく起こって……

――ちっちゃいからもう……どこか貼り付けとくにもね……

雨戸閉めて、部屋中にぶら下げていましたよ。

――いやー、わかる! 

まさかここで8㎜の話ができるとはすごく嬉しいなぁ。マイクテストの間に、ほんと!

――えらいこっちゃ。

懐かしい8㎜。ほんとに2トラックしかないからね!

――ないですね。音がまた本当大変なんだ、あれは。

本当に苦労しましたね。

――で、アフレコもね… まだ現場のダイレクト録音ってできました?

できないですね。全部アフレコです。

――ですよね。全部アフレコなんですよ。

しかも、ミックスダウンとかができる機材がなかったんで……

――直にフィルムに落として打ち込んでいくから……あっ、ずれたとか……それもアウトなんですよね。

そうそう、そうなんです。

――すごい緊張感のあった記憶が……

ほとんど生放送に近い感じですよね、あれは。

――近いですよね。みんなでせーので顔をあわせてね……

そうそう。SEも入れていってね…

――そうだなぁ。懐かしいなぁ。まぁでもそういう苦労って鍛えられますよね。

うん。

――若い人にとっては「8㎜ってなんすか?」っていう……いや、むしろ「てか、フィルムってなんすか?」ていう話だからな……

そうですよね。

<ディレクターから、若い頃はオープンリールでラジオ番組を作っていたという逸話が入ったのを受けて>

――あ、そうね。オープンリールね。

あ、そっか。

――オープンリールの時代がありましたからね、ラジオも。なんて、本番前にすっかり8㎜トークでございました。では、本番まいりましょうか。

――野村雅夫がFM COCOLOからお送りしていますCIAO 765。今日はこの方をゲストに迎えました。自己紹介お願いします。

こんにちは。映画監督の三島有紀子です。

――三島監督、チャオ!!

チャオ!

――よろしくお願いします。

よろしくお願いします。

――いよいよ、21日、金曜公開の映画『Red』についてお話をうかがいます。

はい。

――三島監督の作品は、正直申し上げて全部ではないのが不勉強で申し訳ないんですが……いくつも観てきた中で、『Red』は一番気に入っています。

ありがとうございます。

――今までのともまた随分毛色が違うなぁというのが見始めての印象で、そこからぐいぐい引き込まれていきました。

嬉しいですね。

――えーっと、夏帆さんについては、これまでも、そして前作から引き続いて起用されました。役者さんって凄いなぁと思うんだけど、全然違う役柄です。しかも、夏帆さんはこういうラブストーリーで主役を張るのは初めてのご経験ですよね。彼女に何を期待されたのか? そして前作でも見つめてらっしゃいましたから、この映画が完成した後に、夏帆さんが違って見えたとか、何か気づいたことがあればまず教えていただきたいです。

私は元々夏帆ちゃんとは作品を何回か作っていて、結構ある一面を切り取られることが多いな、と思っていたんですよね。

――ほうほう。

彼女の中に、いろいろな多面的な要素があって……、少女もあれば、わかりやすく言うと、とてもどろっとした業の様なものも感じる。そんないろんな幅のある人なのだから、もっといろんな顔をみせたいなという欲求が私の中にずっとあったんですよ。

――はい。

で、今度『Red』というのを撮るとなった時に、あ、この塔子っていう役をやってもらったら、きっと夏帆ちゃんの多面的な部分をきっと出してもらえるんじゃないかと思って。

じゃあ、夏帆ちゃんと一緒に崖を飛び降りようって腹を括ったみたいな感じです。

――なるほど。おっしゃるように、演じられた塔子という女性は、特に最初はわりとセリフも少なめで、何を考えているんだろうって探りながら僕らも見ていくという感じなんですよね。そしたら、途中で柄本さんが出てこられて、二人で飲みに行ったりする。すると、飲み会から外れて、二人でさらに遊びに行くという場面があって、そこでも、「あれ?こんな、こんな表情も見せるんだ!」っていう、これまでの流れからガッと変わる瞬間がありました。

そうですね。

――あそこなんか、おっしゃった夏帆さんの一面的じゃない部分かもしれませんね。

うんうん。そうですね。まさに塔子って人が、まるで無色透明のように、何も持ってないのかな? 何も見てないのかな? と思っていたら、まぁ佑君だったり、働きに行ったりとかして、いろんな人に会うごとに、ほんとにいろんな顔が見えてくるんですよね。でも、おっしゃるように佑君との、ある種のデートみたいなシーンの時にも、それこそ少女のようにはじけた、はずんだ顔を見せてくれたというのが良かったですよね。

――多分、柄本さん演じる会社の同僚、小鷹というキャラクター以上に、僕らもびっくりするというか……

あー。

――「そうくるの!?」って。

ハハハハハ。

――結構緊張感が高まる場面でもあったので、びっくりもしたんですけど……

うんうん。

――今回は原作ものです。結構厚みのある小説ですよね。

ああ、そうですね。ページ数もね。情報量も多いですしね。

――その取捨選択も難しいと推察しますし、何よりも映画化する時にちょいちょいある話ですけれども、結末が違う。これって挑戦でもありますよね。原作のファンもいるわけだから。

うんうん。実は自分が文学好きなので、むしろ映画にしたくないんです。だって、小説は完成された完全な作品じゃないですか。だからそのまま撮るなら、小説読んだ方が絶対いいんです。だから、自分は、読んだ時にひっかかったエッセンスから、むしろ広がっていく部分を映画にしたいなと思うんです。でもそれは原作がないと生まれないものですから、そこを起点にすべては生まれてるんです。

――今回、複数いるプロデューサーの中でも芯を取られた方が女性でいらっしゃって、脚本家も三島さんも女性です。つまり、3人の女性が重要人物としてこの映画製作を動かしていた格好です。結末なんかはどういう風に詰めていったんでしょうか?

えっと。私がそのプロデューサーと出会ったのは、もう10年くらい前なんですけど、5年くらい前に、いろんな企画の話をしている中で、その一つとして『Red』の原作があったんですよね。で、それを読んだ時に、私がもうその時点で何を感じたかというと、これはもちろんラブストーリーではあるけれども、女性の生き方の話じゃないかと。で、むしろ、現代版イプセンの『人形の家』に、この映画をした方が良いという話をしたんですよね。それで良ければという話をしたら、プロデューサーがそれでいきましょうと。で、女性の地位がどうだ、とか、上層部に女性が何人入っているんだ、みたいな話にこの社会がなっている。そこへこの映画を投げる意味があると、最初の段階でなったんです。じゃあ、それを明確に、より強く伝えていくためには、彼女(塔子)がどういう選択をしていくのかを力強く描こうと。だから、もう最初の方に、ああいいう結末となりましたね。

――そうなんですね。そこはじゃあ、わりとすんなり。

すんなりですね。最初にそれが決まったと。

――最近の日本映画では稀な結末だと思いますね。

見ないでしょうね。今までもああいう結末は……ないと思います。でも、あれが、彼女が初めて自分の人生を生き始めた瞬間だと思ってます。

――塔子の取る行動を見て、もうその余韻ときたら、僕には彼女がジャンヌ・モローに見えてくる瞬間がありましたよ。

わぁ。ちょっと嬉しいです! うわぁ、もう夏帆ちゃんに今日言います!

――ハハハハハ

これ終わったらすぐ! めちゃくちゃ喜ぶと思います。

――自立した女性とか、言葉としてはね、もうお馴染みだけれど、言葉だけが躍っているところもあると思うんですよ。

うん。

――だけど体現する女性像っていうのは、日本映画ではまだまだきちっと提示されてなくって。

そうですね。

――でもなんか、この作品では、ドキッともしたけれど、スカっともしたし……

うんうんうん。

――っていう意味でも、三島監督、ここにきて凄く踏み込まれたなと思って、とても面白かったです。

あー、良かったです。でも、やっぱり、今世に出す意味ってのは、そこなのかなと。あのラストにあると思っています。

――でしょうね。公開前だから物語にあまり触れるわけにはいかないという事情があるんで、多少抽象的な言葉になりますが、うかがいたいことがあります。

はい。

――塔子は自分なりの物差しを段々持っていくような印象を受けました。たぶん、内側にはもともとあったんでしょうけど、なかなかうまくそれを取り出して参照できない状況があったと思うんです。だから、うまく自己を規定できないでいた。たとえば、誰かの妻であるとか、会社のどこどこ部の誰とか、そういう所属や帰属がないと、途端に輪郭がぼやけてしまう。三島監督は「個人と社会の危うい距離」を映画作りの動機のひとつにしていたと、プロダクションノートで知りました。僕にはすごく印象的だったんですが、もう少し具体的にお話しいただけますか? 個人と社会の危うい距離って何だろう?

そうですね。たとえば、今、普通になんとなく生きていると、「I(アイ)」、私というのがどこにあるのか見えにくい時代かなと思うんですよね。周りの人がどういう風に思っているのか、とか、どう感じているのかっていうのをすぐさま反応を見ちゃうし。ネットを見たら、何に対してどう思っているのかがすぐわかるじゃないですか。先にそれを見ちゃうと、自分自身がどう感じていたか、とか、どういう風に考えているのかを見失うことが多いなと思うんですよね。本当は周りを見るより先に、ネットを見るより先に、自分自身がどう思うのか、どう考えているのかを掘り下げて、ある一つの尺度を持って周りを見ていれば、それも受け入れらえるし、その自分の考え方も話すことができる。そうやってお互いに個というものと個というものを持った者同士が、考えを話し合うからこそ、「ウィー(WE)」、我々、We thinkというものが見つけられるんじゃないかと思うんです。

――始めにWeありきじゃなっくってね……

そうそうそう。誰か、Someone とかAnyoneとかでもなく、Weでもない。まずI、そしてYouってのがあって、このふたつが話し合ったり共存することによって、Weというものが生まれるのが私は理想だなぁと思ってるんです。

――わかります。でないと、なんのための「We」なのか? 空虚ですよね。なんとなく手はつないでいるけど、そこに体温があるのかって感じもするし……

まさにそうですね。

――冷たい手を握っていてもなっていう。

うん。

――今作は映像面でも眼を見張るところがたくさんありました。タイトルが『Red』ですから、当然、赤は大事なモチーフになります。

そうですね。

――あの旗のことは言っちゃって大丈夫ですか?

大丈夫です。

――赤い旗が出てくるんですよ。道路交通法上、付けないといけない、赤い旗。車体のサイズ以上の物を積んでいる時にぶら下げておかないといけないものですよね?

うん。

――要するに、この先に車がいますよって、後続車にわかるようにするための旗なのかな。

そうですね。荷物を載せている時に、「ちょっと出っ張ってまっせー」と。

――そうですよね。

「ここまでありまっせー」というのを警告するために赤い旗をつける。

――それが見えにくいんだ!

ハハハハハ。

――何しろあたりは、吹雪です。しかも、都市部じゃなく山道みたいなところを、塔子と鞍田が車で移動している。そこへ通りかかるトラック。すると、その赤い旗が、警告のための赤い旗が、ハラリと……あれは危ないぞ。

危ないですね。

――風で取れてしまうわけですよ。

はい。

――それがこの後、どういう意味を帯びてくるんだろうって、しっかりフリになっているのも素晴らしかったし、今度は二人が車に乗ったら乗ったで、塔子はコーラをよく飲んでいました。

そうですね。しかも、彼女は自宅では飲んでいない。

――そう! どこで飲んでいるのか!

はい。

――どこで赤を!というね…

はい。

――そして、すごく心配になってしまう赤もあるし……

うん。

――それが雪景色に非常に映える。

うん。

――それから、被写体にピントを合わせたり、合わせなかったりのあんばいも印象に残りました。特に、ハッと浮かんできてピントが定まった時の塔子の顔であるとか、素晴らしかったです。さらには、編集も、色で合わせたり、音でリズムを合わせたり。さっき話したところで言うなら、ある種のデートと三島さんがおっしゃった、柄本さんと夏帆さんの夜の街の場面なんか、どんどん短いカットを繋いで次の場面へっていう流れが鮮やかでした。

嬉しいですね。

――こうやって、セリフは少ないのに、しっかり物語と登場人物たちの関係性を構築していくってのは、日本映画では最近できているものが少ないので、好感どころか、凄いな、と感心いたしました。

良かった。

――僕は人にものを勧めたり紹介したりする職業なので、できれば、僕の物差しをリスナーの皆さんには信用していただいて、まずはどうか、劇場で『Red』を観ていただきたいんですけど、おっしゃるように、あくまで観客もまずはIですよね? どう思うかってところは、皆さんそれぞれだと思います。

そうですね。皆さんの中に、どこに本物のIがあるのかで、(見方や感想は)変わってくると思います。

――そして、おっしゃったWeって、絆とか安易な言葉でもてはやされるけれど、たとえばこの物語におけるWeってどこにあるんだろう。鑑賞後、さぁ、今度は自分の周りを見渡してみてどうだろう? なんて考えると、この映画と相当長いこと付き合わざるをえない。

ハハハハハ。

――終わってもまだ続くぜ、っていう。

ずっと続いてもらいたいですね。

--ですよね? それは映画監督してはもう本望だと思いますからね。

はい。

――では最後に、FM COCOOLO CIAO 765のリスナーに、三島監督、一言いただけますか。

映画館でしか体感できない音だったり映像だったりだと思いますので、ぜひ映画館であなたの「I」を体験してください。そして、周りの反応を気にせずに、感じたまま、「I think」「I feel」を語ってください。何かが生まれると信じています。

――ラジオも出てきますから。

はい。ラジオから流れる音楽も。

――そういう意味でもラジオ好き、音楽好きのリスナーにも響くんじゃないか。あの、名曲『ハレルヤ』の話もありますからね……

そうですね。ぜひ!

――いやぁ。もうね、時間いっぱいだ。尺が足りないぞ。トークショーだ。どっかでトークショーをやるしかない!

ハハハハハ。やってほしい!

――って言うぐらいですよ。三島さん、またぜひお目にかかりたいです。

こちらこそ。

――この時間は、映画『Red』を手掛けられました、監督の三島有紀子さんにお話をうかがいました。ありがとうございました。

ありがとうございました。FM COCOLO、大好きです。