人気アーティスト、ハイメ・アジョンが考える発想の生み出し方とは?【フリッツ・ハンセン】

北欧インテリアメーカー、フリッツ・ハンセンとのコラボレーションで多くの名作デザインを生み出しているハイメ・アジョン氏は、現在最も注目されるクリエイターのひとりである。この度、自身がデザインした新製品「Plenum(プレナム)」の日本初公開に合わせて来日。現代を代表するスペイン人アーティストにとっての、独創的なアイデアを生み出す根源とは? 

「アイデアを生み出すことは、難しくない」

常人の考えでは、アイデアは日々消費されるもの。他者によるさまざまな作品から影響を受け、それを咀嚼し、経験として自分のなかでしっかりと消化できて初めてアウトプットが可能となる。ただし、ハイメ・アジョンは、明らかに意見が違った。その目には一点の曇りもない。前だけを見つめ、平然とこう言い切ったのだ。

「アイデアを生み出すことは、難しくない。イージーさ。みんな、プロジェクトのことをすごく考えてしまうから難しいのかもしれないけど。僕は、ただ自分がほしいものをデザインしているから難しくないんだ」

現在、ハイメ・アジョンはロンドン、バルセロナ、トレヴィーゾ(イタリア)にオフィスを構え、スペインのバレンシアで暮らしている。

1974年にスペインに生を受けたハイメ・アジョン。成長期を情熱的で起伏のあった’80年代のマドリッドで過ごし、10代の頃にはスケートボードカルチャーやグラフィティアートにも没頭した。そうしたバックボーンと、アイデンティティーこそが、次々とアイデアを生み出す根源のひとつにもなっている。そんな彼がこれまで影響を受けたアーティストとは?

「たくさんいすぎて挙げきれないよ。ダリも、ミケランジェロも、カノーヴァも好き。クラシカルからコンテンポラリーまで、この世に存在するさまざまなアートに興味があるので、影響を受ける人も山のようにいるんだよ」

マドリッドとパリで工業デザインを学んだ後、’97年にはベネトンにより資金供給されたデザインとコミュニケーションのためのアカデミー『ファブリカ』に参画。クリエイティブディレクターであり活動家のオリビエーロ・トスカーニらと出会い、刺激的な毎日を過ごした。彼にとっての「学び」は、いつの間にか、「仕事」に変わり、そして、次々と「名作」を生み出すことになる。

「仕事は自分の喜びそのもの。いつも仕事場にいるし、いつも携帯電話で誰かとやり取りしている。でも、自分が愛しているものをつくれるということがすごく幸せだと思っている。仕事とは、努力することではなくて、プレジャー。そして、リスクを背負ってでも、チャレンジをすることだと思っている。すごくエキサイティングな毎日だよ」

ロンドンのギャラリーで開いた展覧会が話題を呼んだ2005年以降、彼の人気と影響力は日増しに大きくなっていく。コミカルな「Onion Qee」コレクションのフィギュアに始まり、インテリアデザインにも活動の領域を拡大。さらには、ホテルやレストラン、そして店舗まで多数のプロジェクトを手掛けるようになった。現在は、生け花や陶芸などの日本文化にも関心を抱いている。

「僕は自分がつくる作品の一部を”ハッピーピース”と呼んでいる。とにかく、幸せなムードがあるものをつくりたい。生け花なども手がているけど、いろんな色や形を使ったり、遊びをたくさん取り入れたデザインを意識しているんだよ。それだけではなく、使う人たちのことも常に考えている」

都内のギャラリーで行われた来日イベントでは、アジョンによる生け花の作品も数多く展示された。

独創的なアイデアを簡単に生み出し続ける、アジョン。彼の今回の来日の目的は、1872年にデンマークで創業し、現在29ヵ国で事業を展開するインテリアメーカー、フリッツ・ハンセンとともにつくり上げた新製品「プレナム」のお披露目のためだった。「プレナム」は、現代の働き方を意識してデザインされた、アジョン初のコントラクト向け家具。電源プラグ、USBポート、一体型または独立型テーブルなどの機能が備えられており、高さのあるアームと背もたれはプライバシーを守り、ひとりで集中したい時はもちろん部屋でのリラックスタイムなど、あらゆるシーンに対応できる。

「僕がオフィス家具をデザインしたのは、今回が初めて。オフィス家具って、すごくテクニカルな部分が要求されるのだけど、より人間っぽいものをつくりたかった。これまでのものとは違い、オフィスが家のように、家がオフィスのように感じることができるハイブリットな家具をつくりたかったし、空間のなかに置いた時にとにかく美しいものにしたかった」

フリッツ・ハンセンは、これまでにアルネ・ヤコブセンやポール・ケアホルムら今は亡き巨匠たちとのコラボレーションにより数々の名作を世に送り出してきた歴史を持つ。

新製品「Plenum(プレナム)」。1~3シーターのソファで構成される。¥577,000~

「僕はフリッツ・ハンセンにとって、スペイン人初のデザイナー。とても誇りに思っている。すごくオープンでいろいろな可能性のある会社だし、よく考えて働かなければならない。僕のデザインは幸運なことに、デンマークの人たちから”将来のクラシックになる”と言われているらしいね。僕はデザイナーというより、アートの方に重心を置いているのだけど、とにかく美しいものをつくりたいと思っている。彫刻的かつ機能的というより、とにかく人に印象を与えるような美しいものを、ね」

アジョンがデザインした家具が「将来のクラシック」と呼ばれる理由。それは、単なるアイデアだけで作品を生み出しているデザイナーではなく、彼自身がほしいもの、彼自身が使いたいもの、彼自身が美しいと思うものをつくっているからにほかならない。その精神は、フリッツ・ハンセンが掲げる「クラフトマンシップ」「タイムレス」「オリジナルデザイン」という3つの哲学にも通じる。しかも、意識的ではなく、本能的に。そんなアーティストのことを人は天才と呼び、その精神性から普遍的な名作が生まれるのである。


Jaime Hayon
1974年スペイン・マドリッド生まれ。マドリッドとパリで工業デザインを学んだ後、'97年にはベネトンにより資金供給されたデザインとコミュニケーションのためのアカデミー「ファブリカ」に参加。当初は、学生というポジションだったが、その才能が認められてすぐにデザインの責任者へと抜擢される。2005年、自らの展覧会をロンドンの「デヴィット・ギル・ギャラリー」で開催し、好評を博し、世界中から注目される存在に。現在では、陶器や家具だけでなく、インテリアデザインやインスタレーションへと活動の領域を広げている。


問い合わせ
フリッツ・ハンセン青山本店 TEL 03-3400-3107


Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)