スター選手誕生がメジャーとなるカギ。海のF1「セールGP」が持つエンタメとしての可能性③

ヨットレース界に新風を吹き込む、世界最高峰の国別対抗戦「Sail(セール)GP」の2シーズン目が2月28~29日にオーストラリア・シドニーで幕を開けた。100万USドル(約1億812万円)の優勝賞金を懸けた"海のF1"と称される新たなるエンターテイメント。チーム数も大会規模もボリュームアップを果たした2シーズン目の幕開けをゲーテWEB編集部員が密着取材。その可能性と魅力を全3回でお届けする。

認知度向上へ必要なこと

セールGPとは、全長約15mものヨットレース艇が世界最速(時速約100km)のスピードで海を駆け抜け、「海のF1」と呼ばれる国別対抗戦。サステナビリティ(持続可能性)を事業の軸に掲げ、ロレックス、オラクルなどの世界的大企業がスポンサーに名乗りを上げる。最先端技術を駆使して世界中でLIVE中継を実施。今季は参加チーム数も計7チームに増え、優勝賞金も1億円と多額であり、新たなエンタテインメントとして将来性は抜群だ。

しかし、まだ2シーズン目とあって日本での認知度は低く、今後メジャーになるためには多くの課題を残しているのも事実である。日本チームの最高執行責任者の早福和彦氏は「日本は四方を海に囲まれている海洋国であるにもかかわらず、世界を舞台に活躍するプロセーラーがほとんどいない。ヨットは、ヨーロッパやオセアニアでは紳士の嗜みとして親しまれてきた歴史があるのですが、日本は少し不良のイメージがついているのでしょうか……」と実情を明かす。そのうえで「海のレースは本当に素晴らしいですし、子供たちにも、実際にそれを体験してほしい。セールGPの選手は、その憧れの存在となる必要があるし、子供たちに"セールGPに出たい"と思ってもらわなければならない」と課題を見つめる。

国民的に認知されるスター選手になれるか

セールGPが、日本でメジャーになるための一番の方法。それは、スター選手の登場だろう。 

今季、日本チームは、ロンドン五輪セーリング金メダリストの"世界的セーラー"ネイサン・アウタリッジ(オーストラリア)が「ヘルムスマン(舵取り役)」として率い、ペダルを回して帆を調整する「グラインダー」は、笠谷勇希(一橋大から三井物産という異色の経歴の持ち主)と森嶋ティモシー(オーストラリア出身で母親が日本人)。水中翼を調整する大事な役目「フライトコントローラー」は今季から東京五輪セーリング男子49er級代表の高橋レオ(父がニュージーランド、母が静岡出身の21歳)が務め、セールを調整する「ウイングトリマー」は経験豊富なアイデン・メンジス(オーストラリア)が担う。

1チーム5人の代表選手が船に乗ることが許されるセールGP。ヨット新興国の日本は今季は2人の外国人選手の搭乗が認められているが、来季の外国人枠は1人、その次の年は全員日本人で挑まなければならない。それだけに、日本人の「ヘルムスマン」を育てることが急務となる。   

5人ともに才能に溢れ、個性的でタレント性も十分。認知度を上げるためには、もっともっと積極的にメディアにも露出するべきだし、プロであれば、自ら発信することが競技力向上につながる場面も生まれるだろう。 たとえば、フェンシングの太田雄貴、ハンドボールの宮﨑大輔らは、積極的に自らメディアに出て、それを利用することで、意図的に競技の認知度を上げようとしていた。たとえマイナー競技であったとしても、自らが「広告塔」となることで、ひとりでも多くの子供達の憧れの存在となりたい。それが競技のすそ野拡大につながる。そんな思いもあっただろう。

高橋レオ

そういった意味では、「東京五輪セーリング男子49er級代表」と「セールGP日本代表」の二束のわらじを履く高橋レオは、その可能性に秘めている。高橋は、「プロチームで一緒に競技をやることは自分のキャリアの中で非常にいい経験になっています。オリンピックに関しては、東京の次のパリでメダルを獲ることを目標にしています」と話す。

「できるだけ子供達にヨットのフィーリングを体験してもらいたいし(ヨット大国の)ニュージーランドみたいに、いつか日本でも盛り上がってほしい。そのためには、日本で誰かが強くならなきゃいけないし、いつか自分がそうなりたいですね」

五輪での活躍で一気に自らの認知度を上げ、積極的にメディアから取り上げられることによって、セールGPという存在を知ってもらう。21歳のスター候補は「まずはもっともっとスキルアップをしなければ……」と照れくさそうに話すが、「競技をメジャーにしたい」という青写真もしっかりと描いている。

セールGPは、来年には日本大会も初めて開催予定。将来性に溢れた新たなるエンタテインメントは、まだまだ始まったばかり。主催者、スポンサー、現場が一体となって、「競技をメジャーにする」という気概を共通認識として持ち、さらなる先鋭的な挑戦を続ける必要がある。

終わり

Text=鈴木 悟(ゲーテWEB編集部)