海外名門ブランド企業の秘書たち 名門の伝統を紡ぐ名旗手と名女房役

最高品質を追究し、世界に名を馳せるブランド企業。代々継承されるモノづくりと同様に、豊かに紡がれるボスと秘書の関係を見た。

コンティニュアム・エステート
ワイン造りへの情熱と歴史をつなぐボスと秘書

Continuum Estate
右/ワイン醸造責任者
ティム・モンダヴィ
カリフォルニアワインの名声を世に広めた第1人者、故ロバート・モンダヴィ氏の次男。オーパス・ワンの初期にも携わった。

左/秘書兼オフィス・マネージャー
シンディ・ナジ
前職場のロバート・モンダヴィ・ワイナリーで約30年勤務。2011年からティムの下で働く。モンダヴィ家の生き字引的存在だ。
<COMPANY DATA>
コンティニュアム・エステートは、2005年にロバート・モンダヴィ・ワイナリーを売却した故ロバートが次男ティム、長女マルシアと設立したワイナリー。ラテン語で「継承」という意味のコンティニュアム。丹念な醸造法でプレミアムなワインを造る、その情熱の系譜を象徴する。

モンダヴィ家のワイン造りの歴史を紡いできた秘書

最近、シンディさんの娘、チェルシーさんもチームに加わった。ワイナリーとともに、スタッフの家族の繁栄も続く。

 コンティニュアム・エステートは、モンダヴィ家4代に伝わるワイン造りと葡萄栽培を継承する、ナパ筆頭の名門ワイナリーだ。醸造責任者のティム・モンダヴィ氏の父は、カリフォルニアにワインの聖地をつくり、その名声を世界に広めたロバート・モンダヴィ氏(2008年に他界)。丹念な手法を継承し最高品質を追究するティムのワインは、優雅な味わいで、今ではカルトワインのひとつとされている。

 そんなナパの大地には、葡萄だけでなく、豊かなボスと秘書の関係も育まれている。ティムのアシスタントでオフィス・マネージャーを務めるシンディ・ナジさんも、モンダヴィ家のワイン造りの歴史を紡いできた大切なひとりだ。前の職場、ロバート・モンダヴィ・ワイナリーから現在のコンティニュアムまで、37年間にわたってモンダヴィ家と寄り添ってきた。

 「ティムは常にポジティブで思いやりもあり、情熱的。周りをまき込んで彼のために働きたい! と思わせる部分は、"ナパワインの父"と呼ばれる偉大な実父・ロバート譲りのものですね」

気分を害さぬよう、ティムを動かすのも仕事

ワインの出来をスタッフと確認中。「シンディをピザに例えるなら?」という質問に周りから、「シンディはピザ生地。臨機応変で他の具材を上手くまとめてくれる技に長けてるから!」と声が飛ぶ。

 そうボスを評するシンディさんの仕事は、ティムのスケジュール調整から経理、そしてワイナリー運営に必要不可欠なすべての業務だ。職人気質ながら出会う人皆にオープンなティムは、つい時間の感覚を忘れてしまう。

 「パッションが勝ってしまうんでしょうね(笑)。ワインの話を語り出したら止まらないから、次のアポにズレ込んだり遅れたりが頻繁に起こります。ティムの気分を害さぬよう彼を動かすのも、私の大事な仕事です」

商談会に向けてワインを選別するシンディさん。実に気を遣う作業だそう。

 家族の長い歴史を知るシンディさんは、もちろんティムにとっても全幅の信頼を置く存在だ。

 「私は、ワイナリーの方向性を示す役。細かな調整はシンディがしてくれます。彼女の仕事は正確でクリエイティブ、意思表示も明確で助かっています」

 ワイン造りには忍耐と寛容さが必要、と語るティム。それはスタッフへの接し方も同じだ。

 「彼は決して否定的な言葉を口にしないんです。『ダメ』ではなくて『こうしてみたら?』が口グセ。それって忍耐と寛容の賜物でしょう?」

 いくつになっても仕事に新しい発見があって毎日が楽しいというシンディさん。「それも情熱的なティムのおかげ」と笑顔で仕事をこなす隣で、穏やかな笑顔でティムが呟く。

 「人もワインも一緒に成長しながら、最高級に熟成するのさ」

アストンマーティン
伝統の英国車に新時代を
築くCEOと熟練秘書

ASTON MARTIN
上/社長兼CEO
アンディ・パーマー
1963年英国生まれ。生産技術・修士号、後に経営博士号を取得。日産自動車で副社長を務めた後、2014年から現職に。
下/パーソナルアシスタント

ジュリー・ダルトン
1996年、セールス&マーケティング・ディレクターとして入社。運転好きで、社内の女性アドバイスコミッティの一員でもある。
<COMPANY DATA>
1913年、ライオネル・マーティン大尉がアストン村に創業したアストンマーティン。戦前はレースの舞台で活躍し、戦後間もなく実業家のデイビッド・ブラウンの手に渡り、スポーツカー・メーカーとして再興。現在は、英国唯一の独立系高級スポーツカー・メーカーである。

歴史ある世界的企業のトップを支える仕事

ボスのスケジュール調整も大仕事だが「アストンマーティンのような生粋の英国車メーカーで働けるのは幸せなこと」とジュリーさん。

 英国を代表するスーパー・スポーツカー・ブランドにして、映画『007』に登場するボンドカーとして知られるアストンマーティン。英国王室御用達に認定され、近年ではウィリアム王子が成婚時にキャサリン妃を乗せ、運転していた姿が記憶に新しい。

 創業から103年を迎えるこの老舗英国車メーカーに2年前、CEOとして新たに迎えられたのがアンディ・パーマー氏。日産自動車で"エンジニアリングがわかる副社長"として辣腕(らつわん)を振るった経歴の持ち主だが、その東奔西走(とうほんせいそう)するCEOを支えるのがパーソナルアシスタントのジュリー・ダルトンさんである。

 長い伝統を誇る世界的企業のトップを支える仕事とは、どういうものなのか?

 「私は入社して20年になりますが、ブランドの知名度が高まり、顧客やメディア、サプライヤーなどの訪問者が実に増えてきました。アンディがCEOに就任以降はさらに訪問客が増え、私も多忙を極めています。今朝も仕事でプリンス・オブ・ウェールズにロンドンで会い、戻ってきたばかりなんですよ」

 仕事と家族との時間調整が難しいこともあるが、時には役得もあるそうだ。ご察しのとおり、"あの人"も来社したのである。

 「ボンド役のダニエル・クレイグが、テスト走行に来社したんです! 素敵で愛らしくて、興味深い人物でした。他にも俳優やオリンピック選手など、本社には多くのセレブリティーが訪れます。私自身も運転好きなので、テスト走行をすることもありますよ。特に新型DB11は、"ビューティフル"という概念を打ち出したクルマなので女性市場にも響くと感じています。私たち女性社員がテストで走って、アドバイスすることもあります」

 秘書という枠にとらわれず、愛するアストンマーティンのため、アクティブに活躍するジュリーさんだが、繁忙極めるボスに細やかな気遣いも忘れない。例えば、パーマー氏が日本食贔屓(びいき)なことを察し、ロンドンで会食がある時には創作和食の「NOBU」を予約しておく。

 CEOに就任して以来、「ハードに仕事をこなすと同時に、自分らしくのびのびと仕事を楽しんでいるよ」と話すパーマー氏の背景には、ベテラン秘書のそんな熟練の技も息づいている。

Text=小林真奈美(P1~3)、川端由美(P4~6) Photograph=菅野亜以(P1~3)

*本記事の内容は16年12月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)