音楽家・千住明「絵のようにきれいな譜面が きれいな音を鳴らす」【私のオーダー履歴書】

世界にたったひとつ自分だけの品は、人生をより豊かに彩ってくれるもの。オーダーメイドのある生活を愉しんでいる各界のトップランナーに、その魅力を語ってもらう。そう、オーダーメイドは己を映し出す鏡なのだ。


オーダーメイドで示す仕事の流儀とは

千住明氏が五線紙をオーダーメイドするようになったのは、1990年代の前半。ご自身の仕事でいえば、アニメ『機動戦士V ガンダム』やドラマ『高校教師』などの音楽を手がけた時期だった。

「作家が原稿用紙にこだわるのと同じで、僕にとっては味のある譜面を書くことが大切。音楽家は譜面と書いて"ふづら"とも読みますが、音楽って譜面のとおりに鳴るんです。殴り書きした譜面だと殴り書きした音が鳴る。僕はきれいに音を鳴らしたいので、絵画のようにきれいな譜面を書くことを徹底した。だから五線紙にこだわりました」

千住氏の五線紙は、小野崎商会というメーカーのもの。横に広いタイプがスケッチ用で、これは作家のメモにあたるという。構想がまとまると縦に長い五線紙に清書を行い、コピーをとる。そのコピー機の性能も大事だという。オリジナルの譜面は大切に保管される。

効果音のような扱いを受けていた映像音楽をひとつの音楽ジャンルに引き上げた千住氏だけに、殴り書きときれいな譜面の違いを語る言葉には重みがある。そしてオーダーメイドの五線紙を使うようになると、ご自身の内面にも変化が訪れた。

「オーダーするようになって、自分のスタイルを確立しつつあるという手応えを感じました。ちょうど同じタイミングで仕事が忙しくなったんですが、五線紙にこだわることも含めて、他の人がやっていないことをやっている実感を得たんですね」

五線紙に名前を入れるだけなら他にも例があるけれど、千住氏のオーダーは一歩深い。

「幸運なことに絵描きの兄(千住博氏)がいるので、紙に関する知識があったんですね。きれいに譜面を書けるようにある程度の厚みがあって、しかも片面だけの五線紙をオーダーしました。五線紙は両面使うのが一般的なので、片面だけを使うのも絵画の発想かもしれません」

複雑なオペラの譜面を書く時などにコンピュータを使うことも増えたけれど、手書きを止めることは絶対にないと千住氏。スケッチには手書きを用いることが多い。クリスマスカードや手紙を書く時に五線紙を用いることもあるとか。「これは役得ですね」と笑う。

五線紙以外に、千住氏は靴などのオーダーも経験している。

「靴のオーダーも楽しいですが、自分の好みで作るより、流行に敏感であってもいいかなと思います。一方、僕の音楽は流行と無関係だし、仕事は後世に残したいものなので五線紙だけは絶対にオーダーメイドなのです」

額縁に飾りたくなるような譜面を書きたいと語る千住氏にとって、譜面は書くものではなく、描くものなのかもしれない。

Senju Akira
1960年東京都生まれ。東京藝術大学作曲科卒業、同大学院を首席で修了。東京藝術大学在学中から音楽家として活動し、映像音楽、オペラなど幅広く活躍。特任教授を務める東京藝術大学で、3月15日に千住明ワークショップ「千住ラボ〜美術と音楽をアートする」を開催(東京藝術大学奏楽堂)。


Text=サトータケシ Photograph=鈴木規仁 Illustration=芦野公平