土岐麻子 東京の街に見る人間の野生 ~野村雅夫のラジオな日々 vol.16

現在、大阪のFM802を中心に、ラジオDJや翻訳家などさまざまな領域で活躍する野村雅夫さん。この連載は、野村さんのラジオというメディアでDJをすることの醍醐味や、ラジオで出会ったアーティストとのエピソードを披露してもらう。今回は、野村さんがずっと新番組に早くお迎えしたいと思っていた土岐麻子さん。


野村雅夫、憧れの女性を迎える

声、音楽性、佇まい、所作、ファッション、物腰……前から放送でも滲み出てしまっているし、はっきり言ってしまってもいるが、僕にとって、土岐麻子さんは憧れの女性だ。都会的なサウンドにクールな人間観察を交え、東京を活写してみせた秀作『PINK』の延長線上にある最新アルバム『SAFARI』。ぜひ僕の番組でもインタビューをと思いながら、うまく調整できず、気づけばツアーも終わってしまい、機を逸してしまったと頭を抱えていたところへ、年末に趣向を変えてまた全国5都市を巡られるという情報を掴んだ僕ら番組チームは、今度こそ土岐さんを逃すまいとお話をうかがうチャンスをもぎ取った。

――――――――――――――――――――――

土岐麻子です。

――チャオ。

チャオ。

――よかったぁ。すんなり言っていただきました。ありがとうございます。考えたら、この番組Ciao Amici!(チャオ・アミーチ)には初登場ということになります。とはいえ、僕はここFM802でこれまでもCiao MUSICA(チャオ・ムジカ)という番組をやってましたから、ずっとチャオチャオ言ってたわけですよ。ただ、土岐さんにチャオって言っていただけると、この仕事してて良かったなと……。

私、チャオっていう原付に乗ってたことがあるんです。

――ええ!?

イタリアの。

――あれでしょ、原付なんだけど、チャリンコみたいにペダルが付いてて……。

切り替えができるっていう。自転車にもなるし、バイクにもなる。

ーー原動機は付いてるけど、原動機を無視することもできるやつだ。

そうなんです。だけど、日本の交通ルール上は、ナンバープレートが付いている以上は、自転車に切り替えたとしても、歩道は押して歩きなさいっていう。

――そうだったんですか。それは初めて知りました。ていうか、チャオっていうスクーター自体が懐かしすぎるし、土岐さんがまたお似合いでしょうね。

いやぁ、でも、大変でしたね。混合オイルっていうんですか、自分で持ち歩くちっちゃい容器に入れた緑色みたいなオイルを、ガソリンスタンドでガソリンと混ぜてやるんですけど、それがなかなかうまくいかなくて。

――そんな特殊なんですか、あれ?

そうなんですよ。

――それでも、好きでチョイスされていたと。

オシャレかなと思って。

――オシャレです! バッチリです。そして、これはもう完全にアミーチ(友達)ですね。

アミーチ!

――土岐さんは5月にニュー・アルバム『SAFARI』をリリースされて、僕も愛聴しているので、そのタイミングでぜひお話したいと思ったんですが、スケジュールがうまく合わず、番組にお迎えできなかったので、今日は振り返ってアルバムの話もうかがいたいなと。プロデューサーはトオミヨウさん。作曲とアレンジを担当されていて、これは前作『PINK』と同じですから、その流れにあるものと理解していいんですか?

『PINK』を作り終えて、さあ、いよいよプロモーションだという時に、まだ実はレコーディングのリズムが抜けていなかったんです。プロモーションをしながらも、次のアルバムの構想みたいなものが見えてきていて。ライフワークみたいにレコーディング作業が続いていたので、本当に自然な流れですね。同じように、トオミさんもそういう風に思ってくれていたみたいなので、お互いに、レコーディングが終わってからも、ネタみたいなものが生まれてきて、それを答え合わせしていった。そんな作品ですね、この『SAFARI』は。

――『PINK』でもジャケットに象徴されてましたけど、都市とそこに生きる人のドラマとか風景が歌われることが多かったように思います。今回は『SAFARI』ですよ。最初、タイトルだけ見た時には、「あら、これもう街じゃねえぞ」と。

ハハハ

――大自然に土岐さん飛び込んでいったのかなって。

街がイヤになっちゃってね。

――そうそう。「逃避した!」と思ったんですけど、違うんですよね、これは。

東京の風景を一望してみると、結構、工事現場が多いんですよね。

――それは、2020年に向けてってのもあるのかしら?

大いにあると思います。大規模な工事や建設現場が多くて、見渡すと、赤いクレーンがあちこちにビルの隙間にあるわけですよ。その姿が、たとえばクレーンならキリンに似ているんです。そして、その周りに、東京はわりと緑も多いので、灌木が生えているように見えたりとか。あと、その間にあるビルが他の動物に見えてきたりとか。サファリというのは、そういう景色からの単純なモチーフ、連想だったんですけど、街とかビルとか、新しい建物を作って、古い建物を壊して、みたいな、そういうのって、人間のエネルギーだなと思ったんです。ビルの隙間に潜む、そんなエネルギーを描いてみたいなと。そうやって、考えていくと、それはもう人間の野性ではないかと。

――極めて人工的なものに表面的には見えるけれど、それをベリッとめくってやると、そこに出てくるのは、人間の野性的な部分でもあるんじゃないかと。面白いですね。作詞は土岐さんがすべて手がけられているわけで、アルバムのタイトルからもうかがえるこうしたコンセプトが、「土岐さんならでは」の切り口であり視点だなと思います。ところで、このジャケットは、土岐さん、室内にいらっしゃるのかな?

そうですね。カーテンの内側に自分がいて。

――今描写されたような風景ってのが、ほとんどシルエットのように、浮かび上がっているという。ちょうどうちの番組(月ー木、17:00〜19:00)のオンエアの時間帯にこういう現象が起きるわけですよ。トワイライトの時間。

トワイライト。そっか!

――夜にかけて、街がその輪郭を表す。山で言えば稜線みたいなものが見えてきて、それが何かの生き物のように見えてきたり。で、今僕がフッと思ったんですけど、クレーンって確かにキリンに似てるし、ジャケットでもそれに模して並べてあるんだけど、もともとは鶴ですよね。英語の意味は。

クレーン……そっか、鶴だ!

――考えたら、もともと動物に喩えてあるじゃん!

ほんとだ!

――なんて気づいたりして。

確か、工事現場の用語では、キリンと呼ぶところもあるんですって。

――へえ。じゃあ、そういう喩えって、誰が意図したかはともかくとして…

そう見えてくるっていう……。

――そういうことなんでしょうね。東京の話が出ましたが、大阪もなんだかんだと街がその風景を変えてきています。この後も話しますが、12月にコンサートを控えていらっしゃるビルボードライブ大阪の、あの大阪駅のあたりも、ここ数年の景色の入れ替わりの目まぐるしいこと! 10年ぶりぐらいに大阪に来た人なんてのは、もう完全に浦島太郎状態なんですよ。グランフロント大阪って行かれたことあります? ビルボードライブ大阪からだと、大阪駅を挟んで反対側にあたるんですけど、そのエリアっていうのは、国鉄時代から貨物を置いておいたりする場所だったんです。そのどデカい土地が大阪の真ん中に余ってたから、それを今再開発してビルが立ったり、公園になったりとかするんです。だから、ジャケットのこの景色というのは、東京に限らず、大阪でもサファリを体感できるような状況に今あるんじゃないかと思いますね。で、収録曲には、大橋トリオとのコラボレーションもあって、これはもうすぐにラジオでもオンエアしました。

ありがとうございます。

――それから、オープニングの『Black Savanna』はこのアルバムを象徴する1曲。前作『PINK』の冒頭には街の雑踏の音が入っていましたが、それが今回は鳥とか動物たちの鳴き声が入っている。アルバムの始まり方として似てるんだけど、コントラストとして面白かったです。ああいう始まりは意図されていたんですか?

この曲のオープニングに鳥の描写があるんですけども、その歌詞を書いた時に、トオミさんがアレンジをしていくなかで、実は本当の動物の声ではないんですけど、動物の声に似せた音を選んで作ってくれたので、前作とのコントラストとしてもバッチリだなという。

――この2018年から2020年にかけての今を描いたアルバムだと言えるし、10年ぐらい経ってからまた聴くと、「あの時のアルバムだな」ってきっと感じられる作品になるだろうなと感じています。そして、これは僕がうかがえなくて残念だったんですけど、夏にはライブで全国を巡られました。題して、SAFARI TOURでしたよね。すごいタイトルだ! 関西は猫のところ、つまりは心斎橋BIG CATでしたが、聴くところによると、ライブハウス以外の場所でもパフォーマンスされたそうで。

ライブハウスとか、ホールとか、全国各地で統一せずにバラバラな会場だったんですけど、石川県では21世紀美術館の中にあるホールで行いました。

――あそこって、僕は雑誌とかでしか知らなくてまだ訪問できていないんですけど、ライブなんかをするような場所なんですか?

そういうイベントホールみたいな場所があるんですよ。面白いスペースでした。私も美術館を鑑賞したことはなくて、これを機に行こうと思ってたんですけど、結局時間がなくて全然行けなくて……。

ーーあら!

プールの下に沈んでいるように見えるっていう、あの有名な展示を見たかったんですけどねぇ。でも、建物は本当に素敵でした。

――そういう特別な場所でのライブもありながら、ツアーは結構満喫されたと思うんですが、まだ足りないぞってとこですね?

そうなんです。

――ただ、追加というには、趣向がもしかすると変わるものなのかも知れませんが、12月にまたワンマンライブツアーがあります。「サファリの夜の夢」と題されています。大阪は12月1日(土)にビルボードライブ大阪。ちなみに、東京はどの会場です?

東京は、恵比寿のザ・ガーデンホールで12月15日(土)です。

――あ、やっぱり、ちょっとシックな場所なんですね。

実は香川の高松だけ、DIMEという会場は前回のツアーと一緒なんですけど、内容としては、前回の夏のサファリツアーが昼間だとしたら、今回は夜というイメージで、お休み前にいい夢が見られそうな、リラックスしたライブにしたいなと思っています。

――土岐さんの音楽、そしてライブというのは、心地いいことは間違いないんですけど、それだけじゃないところが、大きな特徴だと思うんです。たとえば、『Can’t Stop』では「欲望が石油のように揺らめく」とか、あるいは『Black Savanna』では、「いつも感じてる得体の知れない焦燥」とか、ドキッとさせる言葉もあって、そういうものにライブでも僕はハッとさせられることがあるので、そのあたりも楽しみにしたいなと思っております。では、お別れに、年末のライブを予感させるような1曲を『SAFARI』からチョイスいただけますか?

こちらは、アルバムの中では一番最後にできたものです。『SAFARI』には、おっしゃったように殺伐とした表現も歌詞に出てきますが、どこかで自分自身ホッとさせたいなというか、母のような視点の曲が欲しいなと思ってできあがった曲になります。

――紹介いただけますか?

はい、土岐麻子で『名前』。

――ありがとうございました。

ありがとうございました。

話題に上ったツアー「サファリの夜の夢」については、以下の詳細をご覧いただきたい。さらに、「SMA x Billboard Live presents PUFFY x 土岐麻子」という魅力的なステージがこの収録の後に発表された。大阪は2019年1月11日(金)で、東京は1月19日(土)、いずれも会場はもちろんビルボードライブ。極上の空間での楽しいひと時を味わってほしい。


TOKI ASAKO LIVE TOUR 2018 “サファリの夜の夢”

メンバー:土岐麻子(Vocal)、トオミヨウ(Key, Gt & Cho) 、玉木正太郎(Ba & Cho)、鈴木浩之(Dr)

■12月1日(土) ビルボードライブ大阪(大阪)
開場/開演:1st 15:30/16:30、2nd 18:30/19:30
料金:サービスエリア6,900円、カジュアルエリア5,900円(税込)※未就学児童入場不可 
一般発売 10月8日(月祝)11:00~
一般問い合わせ:ビルボードライブ大阪TEL:06-6342-7722 /[平日]11:00~22:00、 [土祝平日特別営業時間]11:00~20:00、 [平日休演日]11:00~19:00、[定休日]日曜 ※ただし公演がある日は11:00~20:00で営業

■12月10日(月) 名古屋ブルーノート(愛知)
開場/開演:1st 17:30/18:30、2nd 20:30/21:15
料金:一般6,900円(税込) ※未就学児童入場不可
一般発売 10月5日(金)
インターネット予約 http://www.nagoya-bluenote.com
INFO:名古屋ブルーノートTEL:052-961-6311(11:00-20:00※土日祝休)

■12月15日(土) 恵比寿The Garden Hall(東京)
開場/開演:16:00/17:00
料金:指定席6,500円(税込、ドリンク代別) 、プレミアムシート(限定27席)¥10,000(1ドリンク&1タパス付)※プレミアムシートはチケットぴあ限定 ※未就学児童入場不可 
一般発売 10月13日(土)
SMA☆TICKET http://www.sma-ticket.jp/artist/tokiasako
チケットぴあ Pコード:129-057 ローソンチケットLコード:75039
e+:http://eplus.jp
INFO:ホットスタッフ・プロモーションTEL:03-5720-9999(平日12:00~18:00) http://www.red-hot.ne.jp/

■12月17日(月) Live Juke(広島)
開場/開演:19:00/19:30
料金:全自由(整理番号順)5,800円(税込、ドリンク代別)※未就学児童入場不可
一般発売 10月13日(土)
SMA☆TICKET  http://www.sma-ticket.jp/artist/tokiasako
チケットぴあ Pコード:128-149 ローソンチケットLコード:63462
e+:http://eplus.jp
INFO:キャンディー・プロモーションTEL:082-249-8334(平日11:00~18:30) http://www.candy-p.com/

■12月18日(火) DIME(香川)
開場/開演:19:00/19:30
料金:全自由(整理番号順)5,800円(税込、ドリンク代別)※未就学児童入場不可 
一般発売 10月13日(土)
SMA☆TICKET http://www.sma-ticket.jp/artist/tokiasako
チケットぴあ Pコード:128-669 ローソンチケットLコード:63500  
d-ticket.net http://www.ticket.ne.jp/dticket/
e+:http://eplus.jp
INFO. デュークTEL:087-822-2520 http://www.duke.co.jp/


vol.17に続く

Text=野村雅夫

野村雅夫
野村雅夫
ラジオDJ/翻訳家。1978年、イタリア生まれ、京都在住。大人のためのミュージック・ステーションとして人気を博すFM COCOLOで、モーニングショーCIAO 765(mon-thurs. 6:00-11:00)を担当するほか、イタリア文化を紹介する京都ドーナッツクラブの代表を務め、映画や小説の翻訳を行う。訳書や映画評、エッセイなど多数。
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