史上最速MINIは可愛いけれどクセも強い!【深堀クルマNEWS④】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。第4回は 「MINI John Cooper Works GP」。
  

特別かつ、選ばれしもののMINI  

英国ブランド車であるMINIの限定モデルが、2020年2月13日、都内にて日本初披露された。その名は、「MINI John Cooper Works GP(ミニ・ジョン・クーパー・ワークス・ジーピー)」。世界限定3000台のうち、240台が日本に導入される限定車だ。その価格は、576万円と、その愛らしさスタイルとは裏腹に、目を見張るプライスを掲げている。一体、どんな限定車なのだろうか。

MINI John Cooper Works GPは、MINIの中で、最も走行性能を重視したモデル。つまり、スーパーMINIだ。ベースとなるのは、大定番モデルであるMINI 3ドアハッチバックの高性能モデル「John Cooper Works」をベースに、エンジン性能の向上を始め、足回りの強化や軽量化など、各部に専用のチューニングを施したものだ。

このモデルを理解するには、まずMINIとCooperのことを知らなければならない。MINI Cooerといえば、現行型MINIでも使われるグレード名だが、そもそも「Cooer」というのは、F1などのレーシングマシンの開発製造を手掛けたジョン・クーパーという人物に由来する。ジョン・クーパーは、1959年に誕生したMINIの原点である小型車「オースティン・セブン(のちにミニに改名)」の優れた基本性能を目に付け、セブンをベースとしたスポーティモデルを開発した。そのモデルは「ミニ・クーパー」もしくは「ミニ・クーパーS」と名付けられ、多くのクルマ好きに愛されただけでなく、モータースポーツでも大きな実績を残した。ミニの優秀さを示す冠として、その後も、スポーティ仕様のミニのグレード名として受け継がれてきた。

それが2001年よりBMWが開発製造を行うようになったMINIシリーズでも、受け継がれているのだ。ただかつての最高潮であった「クーパーS」も現在は、最上級グレード名として使われているため、より性能に特化した仕様に与えられてきたのが、「John Cooper Works」というネーミングなのだ。当初は、性能向上を図るカスタマイズパーツの名称であったが、後にグレード名へと発展した。

その「John Cooper Works」に追加される「GP」はグランプリの略称であり、限定車がモータースポーツを強く意識したモデルであることを示す。まさに、ジョン・クーパーが、勝つためのマシンとしてミニに目を付けたことを彷彿させる名称なのである。この「John Cooper Works GP」は、歴代MINIに設定。歴代モデルでも最強スペックが目指されてきた。最新型となる第3世代は、MINI史上最速が謳われている最もホットな仕様なのだ。

具体的な仕様を見ていこう。まずエクステリアは、空力特性を向上させるべく、よりアグレッシブな仕立てに。特に印象的なのがホイールアーチカバーと大型のリヤスポイラーだ。このホイールアーチカバーは、サイズアップされたタイヤを収めるべく、前後フェンダーの幅を広げるのが目的なのだが、珍しいことにフローティング構造を採用する。つまりフェンダーから上に突き出すように装着されているのだ。またリヤスポイラーは、より立体的な造形とし、大型化。空力性能の改善はもちろんだが、GPモデルの迫力を増すことにも貢献している。ボディカラーも専用開発された「レーシング・グレー・メタリック」を採用。角度や光の加減によりライト・グレーからブルー・バイオレットへと変化するユニークな塗装で、愛らしいMINIのスタイルに隠された鋭い一面を予感させるかのようだ。さらにルーフやドアミラーには、「メルティング・シルバー」を取り入れた2トーン仕様となり、アクセントカラーとしてレッドも各部に取り入れている。

インテリアは、一見、MINIのままだが、後席を除くと驚愕。なんとリヤシートが取り払われ、その部分には、ボディ補強を行うためのクロスバーが装着されている。実用的であるはずのMINIに、2名しか乗ることが出来ないのだ。これも走行性能を高めるために重要な軽量化のひとつで、GPモデルの伝統でもある。インテリアのデザインは、「John Cooper Works」に近いが、シート表皮の変更やインテリアトリムの一部が専用デザインとなるなど差別化が図られている。最大の違いは、メーターパネル。通常のMINI(JCWを含め)では、アナログ式メーターを採用しているのが、GPでは、デジタル式メーターパネル換装。瞬時に速度やエンジン回転数が把握できるものとなっており、まるでレーシングカーのようである。また車内には、限定車であることを示すシリアルナンバーの刻印が加わるのも演出のひとつだ。

最後に、その実力だ。モータースポーツで培った技術を余すことなく採用することで高性能化を図ったエンジンは、MINI史上最強スペックを誇る。ベースとなる 「John Cooper Works」に搭載される2.0L 4気筒DOHCターボエンジンは、最高出力が+75psとなる306ps、最大トルクが+130Nmとなる450Nmまで向上。その走りを支える足回りは、10mmダウンなどのチューニングを加えた専用サスペンションとし、トルセン式LSDも標準化。タイヤは、軽量な鍛造18インチホイールに、225/35スポーツタイヤを組み合わせる。もちろん、ストッピングパワー向上も重要であり、ディスクを大径化させたスポーツブレーキシステムも合わせて採用している。さらにエンジンマウントやボディ構造、サスペンションシステムの構造も再設計することで、ボディ剛性の向上も図られているのもポイントだ。

このように各部の最適化を図ることで、0-100㎞/hは、5.2秒まで短縮。最高速度は、265km/hを誇る。その実力の証として、多くのスポーツカーが開発や性能評価に利用するドイツ・ニュルブルクリンクサーキット北コースでのタイムは、先代GPよりも約30秒の短縮となる7分56秒69を記録したことが公表されている。意外にもトランスミッションは、8速ATのみで、MT仕様は用意されていない。これもラップタイムを重視したためだろう。昨今のATは、高性能化が進み、プロドライバー顔前、状況によってはそれ以上の実力を発揮する。もちろん、マニュアルシフトができないわけではなく、ステアリングポストには、大型化されたアルミ製パドルシフトが備わる。

JCW GPは、まさに特別なMINIだが、同時に選ばれしもののMINIでもある。もちろん、MINIだけに、単なるトリッキーなマシンではなく、ある程度の従順さは持ち合わせていると思われ、おそらく日常で乗り回すことも可能だろう。しかし、後席を潔く取り払っていることからも分かるように、誰にも最適な一台を目指したわけではない。その実力は、ホットハッチと呼ばれる小型の高性能モデルとしのぎを削るために与えられたものだ。当然、その分、快適性も犠牲になっている。その意味が理解できないと、このMINIを手名付けることはできないし、その魅力も薄れてしまうだろう。


Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。