建築とワインで人と人をつなぐ、軽井沢の家

軽井沢の杜に囲まれた外資系投資会社代表取締役社長 Y邸は、宙空に浮かんでいるかのごとく軽やか。そこは人と人をつなぐ、ネットワーキングの拠点であるという。

軽井沢だからこそできるネットワーキングの拠点

駅からクルマで5分。軽井沢の一等地に瀟洒(しょうしゃ)な外観で佇むのがY邸だ。前面の小路からも望めるリビングスペースは上階に持ち上げられており、向かい合う壁面がともにガラス張りなので、その向こう側に広がる庭の樹々までよく見える。下階は吹き放しのピロティで、そこに建物があるというのに風が自由に通り抜けていく。その場に溶け込むとはまさにこのこと、なんと軽やかな建築であることか。

リビングの壁面は南北両面がガラス張りになっており、庭の緑が目に飛び込んでくる。テラスの手すりは意図的に幅広く設計し、そこにボトルやグラスを置ける。

ピロティの上に柱のない空間を設けるこの様式を見て、近代建築の巨匠、ル・コルビュジエの手法を思い浮かべた人がいたら、正解である。この別荘は坂倉建築研究所が手がけたもの。同所創立者の坂倉準三は、言わずと知れたル・コルビュジエの弟子筋にあたる。

「建築に以前から興味があり、コルビュジエが好きだったこともあって、ぜひにと坂倉建築研究所に設計をお願いしました」

と、オーナーのY氏は言う。外資系投資ファンド代表取締役として都心にオフィスを持ち、東京では世田谷に暮らす。地元の駅ビルも、実は坂倉建築研究所の手によるもので、不思議な縁を感じている。

Y氏のライフスタイルは多拠点居住で、東京、軽井沢に加えてハワイにも住居を持つ。

「ただしハワイは4月と12月にしか使っていません。フルマラソンに出場するための拠点です。アクティビティーのための場というわけですね」

対して東京はメインの仕事の場。では軽井沢はというと、位置付けは、はっきりしている。

「ネットワーキングの場です。今、軽井沢は単なる避暑地ではなく、社交クラブのような役割を担う日本で唯一無二の場となっています。軽井沢は代々別荘を持つ方と、自身で起業して家を持つようになった方、ふたつの層に分かれていまして、私はどちらにも属さないけれど、いずれの層にも友人知人がたくさんいる。うまく仲介役を果たして、彼らのネットワークを広げる一助になれば。仕事柄もあるのでしょうが、自分の主張を実現させるよりも、何かをつなぎ増やすことに関心があります」

2階部分に設けられたリビングスペースから玄関ホールを見下ろす。ここも開口部を大きく取り、屋外とつながりを持たせている。

会話が弾む仕かけをそこかしこに設置

用途の明確さは、建築コンセプトの明快さにもつながる。

「設計の際にお願いしたのはまず、土地のポテンシャルを最大限に引き出すこと。カラマツやモミジの美しい木立に囲まれた環境をたっぷり享受できる、開かれた家にしたかった。そして何より、ゾーニングをきちんとしました。ネットワーキングの場としてのパブリックゾーンと、プライベートゾーンを完全に分けた。結果、建物は上から見てL字型となりました」

L字型の建築に囲まれた庭。バーベキューのためのデッキも設置。シェフを招いてパーティーを開く。

パブリックゾーンとしてのリビングスペースは、徹底して「客人ファースト」の設(しつら)え。多人数でのミーティングやパーティーに無理なく対応できるようひと連なりのスペースを確保し、ダイニングテーブルやソファは大きめのものを置く。部屋の両側にあるテラスの木製手すりは、上部が平らになっており、横幅が約25cmもある。

「テラスは語らいの場になりやすいので、グラスはもちろんのこと、ワインボトルまで置いて腰を据えられるようにしました」

玄関脇にはワインカーヴもある。ワイン談義に花が咲いてもいいように、内部には椅子まで置いてあって至れり尽くせり。

玄関ホール脇に設けられたワインカーヴ。「ワインは会話を弾ませる潤滑油」との考え方から、収納本数よりも、それぞれのワインのエチケットがよく見え、銘柄がしっかりわかるようにディスプレイ。

「会話が膨らむ仕かけをそこかしこに置いてあります。『また来たいね』と思ってもらえたら、コンセプトを形にできた証拠と言えそうです」 

あらゆるものが「つながる」ことへと、つながっている家だ。


Text=山内宏泰 Photograph=高島 慶(Nacása & Partners)

*本記事の内容は17年7月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)