読んでる本が男を語る 関係ない男編

『わが心のジェニファー』 

世の中で起きているあらゆることを自分とは「関係ない」と思ってはいけないという雰囲気がいつの間にかできあがっているような気がする。シリアの難民問題や中国の人民元切り下げも「関係ない」では済まされないのだ。確かにそのとおりなのだとは思うけれど、じゃあ私に何ができるのかというと無力に等しく、事の核心も摑(つか)めないままに、「関係ない」はずはないのだと唱える日々。

浅田次郎さんの新作長編の主人公はアメリカ人の男。NYで証券会社に勤めていて、結婚を考えているブロンドの恋人がいる。幼い頃に両親が離婚したことにより祖父母が親代わり。祖父は元海軍士官で、彼によってアメリカ人とは、男とはどうあるべきかをハードに叩きこまれて育ってきた。

このプロフィールだけ引っ張ると、少なくとも日本でフリーライターとして働く私にはまったく接点がない。「関係ない」と言っても差し支えないとさえ思える。

しかしブロンドの彼女が大変な親日家で、プロポーズを受け入れる条件として、主人公に日本をひとり旅し、歴史や文化を肌で感じ、理解してくることを命じるのである。

そして白人の大男は自分とは「関係ない」と思っていた島国へしぶしぶやってくる。かつて日本と戦った祖父からは「黄色い猿」だの「油断のならないやつら」だのという口汚い言葉を飽きるほど聞かされてきた。さて本当に日本人は、祖父の語るような輩なのか。

東京、京都、大阪、大分、そして北海道。人や街を知るうちに、彼にとって日本は「関係ない」では済まされない間柄となってくる。

同時に読者である私は、主人公の視点から、よく見知った日本と日本人というものの姿を改めて知ることになる。異国の青年の物語は「関係ない」話ではなくなっていくのだ。

恐らく浅田さん自身のこの国への違和感や怒りが投影されているのであろう本作は、「関係ない」どころか私たちを写す鏡なのであった。

やっぱり「関係ない」と思ってはいけない。

『わが心のジェニファー』 浅田次郎 著 小学館 ¥1,500