現代のシティボーイ!VW up! GTI【深堀クルマNEWS⑥】

100年に1度の変革期を迎えたと言われる自動車業界。本連載では、国産車から輸入車まで、軽自動車からスーパーカーまで、幅広く取材を行う自動車ライター・大音安弘が、さまざまな角度から業界の今を深堀する。最先端のクルマ紹介はもちろんのこと、 歴史ある名車の今と昔、自動車ブランド最新事情、今手に入るべきこだわりのクルマたち等々、さまざまな角度から深堀する。

最も原点に近いGTI

この愛らしい小さなクルマの名は、「VW up! GTI(フォルクスワーゲン アップ ジーティーアイ)」という。VWのエントリーコンパクト「up!」をベースに開発したスポーツモデルだ。小さいからと侮るなかれ。その実力は、GTIの名が保証してくれているからだ。そもそもVW GTIの歴史は、初代ゴルフまで遡る。

1960年代、ドイツ・フォルクスワーゲンのエンジニアたちは、大衆車ゴルフで、より高性能なクルマと勝負できるモデルを作り上げた。小さく軽いボディに、排気量の大きいパワフルなエンジンを与え、足回りなど各部に専用チューニングを施すことで、スポーツカーへと生まれ変わらせたのだ。当初は、エンジニアのお遊びであったが、そのポテンシャルは非常に高く、商品化させることになったという歴史を持つ。それもそのはずで、彼らは、当時のアウトバーンで、ポルシェ911を追いかけることを目標としたというのだから……。

そんなGTIは、歴代ゴルフだけでなく、ポロなどのVWハッチバックモデルにも設定され、多くのクルマ好きを驚愕させ、そして魅了してきた。その伝統名が与えられているのだ。このup!も、ベース車より高性能な1.0Lターボエンジンを搭載し、各部に専用チューニングが加えられている。その文法は、当時のままだ。もちろん、現行型ゴルフにもGTIは存在するが、ベースモデルの性能向上やより高性能な「R」モデルが用意されるなど、GTIのポジションも少し変化が生じている。その点、原点である初代ゴルフとup!は立ち位置が似ており、まさに原点回帰といえる存在なのだ。

GTIのファッションを纏う

ボディサイズは、実にコンパクト。全長3625mm×全幅1650mm×全高1485mmなので、トヨタ・ヤリスなどのコンパクトカーよりも全長が短いほど。海外ではAセグメントと呼ばれる最小サイズクラスだが、日本だと軽自動車とコンパクトカーの中間的存在に収まる。それでもカッコよく見えるのは、日本車では珍しいスタイリッシュな3ドアのハッチバックボディにかけられたGTIの魔法によるもの。エアロパーツを始め、17インチの大型アルミホイール、高性能タイヤ、スポーツサスペンション、赤いブレーキなど、各部をしっかりとGTI専用アイテムにアップデートされている。さらに車両のあちらこちらに、GTIのバッチが奢られ、生意気にも「ボクもGTIだぞ」と訴えてくる。でもその背伸び感も愛らしさの増すポイントのひとつだ。

インテリアに目を移すと、そこにもGTIの世界が広がる。赤いタータンチェック柄のシートは、ゴルフなどにも使われるGTI伝統のひとつ。ステアリングや6速MTのシフトノブ、ハンドブレーキレバーなどはレザー仕上げとするのも、質感を高める狙いも有るが、やはりスポーツモデル、ドライバーの触感や操作性にも拘っているのだ。しかも、ベースは実用車であるので、ボディサイズの割には、車内は広い。その上、後席の居住性がしっかりと確保されているところも素晴らしい。装備も上級装備が奢られており、300Wの出力と7スピーカーを備える“beats audio”システムやバックモニター、リヤパーキングセンサー、フロントシート用ヒートシーターなども標準となる。

意外にも大人なキャラクター

その走りは刺激的……かと思えば、意外と乗り心地も良く、快適。遮音性も、わりとしっかりしているので、高速を使った長距離移動も楽々とこなせる。意外と大人な顔を持つのだ。しかし、そこはGTI。ドライバーが望めば、スポーティな走りにも応えてくれる。搭載される1.0Lターボのエンジンは、最高出力116ps/5000~5500rpm、最大トルク200Nm/2000~3500rpmと至って平凡なスペックだ。しかし、車重が1000㎏と軽量なこともあり、かなり軽快な走りを見せる。そのためには、6速のマニュアルシフトを駆使することが求められるが、そこもドライバーの楽しみとなる。3気筒特有の少し元気で軽やかな音が、シフトタイミングを体感的に教えてくれる。ドライバーに語り掛けてくるクルマなのだ。先に平凡と述べたスペックも、ベース車と比較すると見方は変わる。ベース車に搭載される自然吸気仕様の1.0Lエンジンは、最高出力75ps、最大トルク95Nmなので、パワーで約1.5倍、トルクは2.1倍となり、GTIに十分なパワーアップが施されていることが分かる。

身近な存在であることも大きな魅力

機動性に優れ、日常領域の快適性も申し分ないup!GTIは、いわば街角のオールラウンダーだ。もちろん、運転の楽しさは、GTIのバッチが保証する。世の中には、小さいクルマを軽く見る輩もいるが、走りの面でも、口プロレスでも、GTIの名が蹴散らしてくれるだろう。またクルマに関心のない周りの人からは、その愛らしく、お洒落なGTIコーデ、そして経済感覚に優れた小ささが、高い評価を得るはずだ。

しかも、スポーツモデルとしては、かなりお手頃。ゴルフGTIの半額に近い、234.2万円だ。しかも人気があるため、きっとリセールバリューも裏切らない。ただ愛車にしたいなら、今が良い機会と言えそうだ。実はup!、2012年にデビューしており、今や完熟期に入った。しかしながら、次期モデルの予告や発表もなく、今後の展開が不透明なのだ。またGTI自体も、日本へは、特別仕様車として導入されているため、ベース車よりも早く、販売終了する可能性もある。up!そのものは、ドイツ車らしい質実剛健を形にしたようなクルマで、割り切りも見えるが、GTIに関しては、特別なモデルであるため、装備面もアップデートされており、フォルクスワーゲンらしい真面目なクルマ作りがより感じられる。

だから、スポーツカーや輸入車入門としてもおススメだ。しかも将来、「GTIに乗っていた」と思い出を語らうこともできる。色々な意味でオススメなGTI、それがup!GTIなのである。


Yasuhiro Ohto
1980年埼玉県生まれ。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者へ。その後、フリーランスになり、現在は自動車雑誌やウェブを中心に活動中。主な活動媒体に『ベストカーWEB』『webCG』『モーターファン.jp』『マイナビニュース』『日経スタイル』『GQ』など。歴代の愛車は、国産輸入車含め、全てMT車という大のMT好き。