東京にいる必要はもはやない! 新しい地方ビジネスの形がそこにあった【ニセコブームの謎①】

スイスアルプスよりも極上だと評価される、パウダースノーを求めて、世界各地からセレブが集うエリア、北海道・ニセコ。高級ホテルや分譲型レジデンスなど、開業ラッシュを迎え、街ですれ違うのは外国人が9.5割。バケーションの場としても、ビジネスの場としても、最注目のニセコに刮目せよ!  そこには日本人が知らない新たなるニセコの魅力がある。


拠点をニセコに! 新しい働き方をイノベーション

「ニセコはリゾート開発が進んでいても、根源では農業や漁業で成り立っている地域。決して人間至上主義ではない、自然と一緒にやろうよという想いが強い、面白いところですよ」

そう話すのは、お茶の製造・販売を中心に手がけるルピシアの代表取締役会長・水口博喜さんだ。ルピシアは、2012年にレストランを、’17年に食品加工工場をニセコエリアに開業。そして、水口さん自身も夫婦で東京から移住した。

10数年前からスキーを楽しみにニセコを訪れていたものの、初めからここで仕事をしようとは思っていなかったという水口さん。本社のある東京から遠く離れた地で新事業を展開し、さらに移住まで決意したきっかけは環境の変化だった。

レストラン・ブティック(デリ&ベーカリー)・スイーツショップ・アートギャラリー等で構成される食のリゾート「ヴィラ ルピシア」。

「情報インフラが整備されて、国内でも海外とでもテレビ会議で簡単につながるようになった。そうなると、そもそも東京で仕事をする必要がなくなってくる。しかも、ニセコには海外のセレブリティが多く訪れてインターナショナルな雰囲気になってきた。本当、道ですれ違う人は外国人ばかりの洒落た田舎の趣。旨いものもたくさんあるし、何より住みやすい」

ニセコの豊かな自然がクリエイティヴィティを刺激

’12年にレストランを開業したが、飲食業だけでは観光客が集中する冬と夏の繁忙期以外の商売を成り立たせるのが難しい。そこで新たな事業として着目したのが地元産食材の加工だった。

「北海道は冬が長い分、夏場の野菜はものすごく生命力がある。しかも一気に大量に収穫できる。野菜のほかにも、肉や魚介類も一級品。だけど、それを活かして加工するインフラがまだまだ不十分。せっかくいい食材が手に入るのなら、それを使わない手はないし、きっと面白いことができるのではないかと」

ニセコ町郊外の1万5000坪の土地に、ルピシアがプロデュースする食のセレクトショップを支える食品加工工場を建設し、工場の隣には従業員用の住居(一戸建て7棟、アパート5棟)も確保。さらに今秋の完成を目指して、近隣の5万坪の土地に新たにビール工場、野菜茶工場建設の計画も進んでいる。

「お茶屋のルピシアがなぜビール造りなんだと訊かれても説明のしようがないんだけど、新商品の開発、事業拡大の一環としてとにかく新しいこと、楽しいことをやろうと決めた」

都会から田舎へ移住するといえば、最前線から一歩引いて悠々自適な生活を送るためというイメージだが、水口さんの場合はまったくの正反対。ニセコに移住してからも歩みを緩めるどころか、逆に新しい事業の拡大に目が向いている。

仕事を離れたプライベートでは、夏はゴルフ、冬はスキーとニセコライフをしっかり満喫しているよう。ニセコの自然豊かな環境が、クリエイティヴィティを刺激するのだろうか。

「都会では四季を感じる機会がなくなりつつありますが、ニセコは春夏秋冬、それぞれの変化がちゃんと感じられる。散歩しているだけで見たことのないもの、聞いたことのないものが溢れています。例えば、ホトトギスがどう鳴くか訊かれても、ほとんどの人が答えられないでしょう。私もここで初めて鳴き声を聞きましたけど、『チョッチチョッチチョッチチョロロ』と鳴くんですね。ニセコに来て感じたのは、都会にいると知っているようで知らないことがたくさんあるんだなと。そうした刺激がたくさんありますから、ニセコはクリエイティヴィティが育つ環境なのかもしれません」

HIROKI MIZUGUCHI
1994年にレピシエ(現:ルピシア)を創業。お茶・茶器雑貨などの輸入・製造・卸・販売、レストラン運営などを手がけ、お茶を中心とした食文化やライフスタイルを提案し続けている。


Text=岩村真人 Photograph=池田直俊