精神科は日常の生活を改善させる"生活科" 「24時間仕事バカ!」のためのメンタルメンテナンス 第3回

わかっているようで実はわかっていない自身の心の健康具合。そこでメンタルの実態を精神科の名医がチェック。心を整えればアンチエイジングに効くのはもちろん、仕事のパフォーマンスも上がること間違いなし。

まずは話を聞いてもらう。それが精神科受診の第一歩

 昔に比べて今の人はメンタルが弱くなったとよく聞きますが、確かにコミュニケーション能力が落ちて来ていると感じます。昔より兄弟は少なくなっているし、祖父や祖母と同居する家庭も特に都市部では少なくなっている。家庭内で取れるコミュニケーションを線で考えると、ひとりっ子の場合なら両親と子供を結ぶ3本しかないんですね。兄弟がひとり増えて家族が4人になるだけでも、対角線ができますから6本になるのに、その半分しかない。精神科の患者数が増えているのは、そうした社会環境と無縁ではありません。

 さらに言えば、昔は、例えば長屋のご隠居のようなリスペクトされる人生の師が身近にいて、困った時にはそうした人のアドバイスをもらうことで何とか壁をクリアしていく。そんなことがあったと思うのですが、今は隣に誰が住んでいて、何をしている人かもわからない住環境になっている。日常的に会話のキャッチボールがいろいろな人と頻繁に行われていれば、解決することもたくさんあるのでしょうが、そうした機会がより少なくなってきているんですね。言いたいことも言えず、表現できず、どんどん内に溜めこんで行ってしまって、そこから精神的に参ってしまうというケースがたくさんあるのです。

 そんな時代に、孤立して問題を抱えたまま悶々と過ごし、悩んで答えのない迷宮に入りこんでしまうぐらいだったら、精神科を受診するのも一つの策ですと私は言いたい。もちろん何でもかんでも病気にしてしまうわけにはいかないというのはありますが、ご近所にいる先達に、とりあえず話を聞いてもらうといった程度のハードルの低さというか気持ちで、精神科を捉えてもらえればいいと思います。

 精神科というのは、人様の精神を扱うというよりは生活全般を診る、いわば「生活科」なんです。咳が出る、足が痛いといった身体の変調を感じて初めて医者にかかるというのが、皆さんにとっては普通の考え方なのかもしれませんが、眠れない、食欲がない、やる気が出ないなど、日常生活の中で何か困ったことが起きた時に、受診して生活改善をフォローしてもらう。それこそが精神科の役目です。

今月のクリニック No.3 不眠不休で何でもできる、と思う自分は変?

 いつでも、どこでも自分は絶好調。そんなふうにずっと感じていたら、躁状態を疑ったほうがいいかもしれません。自分が病気だと思わないのが躁病の特徴ですから。躁病の患者さんはとにかく不眠不休で疲れ知らず。金遣いが荒くなるし、よく喋る。自己中心的になって他人への配慮ができなくなる人もいます。躁状態が軽度なら、バイタリティに溢れていて仕事もバリバリこなせるから、有能な人と周囲に見なされるだけで済んでしまう可能性もある。けれど、ある一線を越えて突き抜けてしまうと、その瞬間から病気の烙印を押されてしまうんですね。そういう意味では診断が難しいのも躁病。その人が置かれている立場も重要で、例えばミュージシャンは何万人もの聴衆を前にして自分の歌をワーッと歌って踊りますが、そういう行為って突き抜けた精神状態でないとできないはず。けれど、それを躁と診断して入院なんてことになったら、芸術も何もなくなってしまいます。

 精神科の場合、もともとこういう人であるというベースから、どれだけ逸脱しているかで躁病(感情障害)を診断します。振れ幅の問題ですね。人間には誰でも喜怒哀楽があって、気持ちのアップダウンもある程度の幅の中で必ずあるのですが、その幅を超えて上がってしまえば躁、下がってしまえば鬱。いつものあの人とあまりに違う。そんな状態が例えば1カ月とか、長く続くようなら病気の可能性を考えたほうがいいでしょう。

 部屋に引き籠ってしまい、会社員ならただ欠勤という状態が続く鬱と違って、躁は出社して皆をかき回し、いろいろメチャクチャにしますから、実は鬱より厄介かもしれません。「自分は神の生まれ変わりである」という妄想を語る場合も多々あります。躁病と診断されたら、外来ではなく、入院治療が必要になるケースが多いのです。

 以前、某大臣が地方の知事に対して高圧的な態度をとり、辞任に追い込まれましたけど、恐らく大臣になったことがトリガーとなって躁状態になってしまったのだろうと私は考えます。実際、そのあと入院されましたからね。ご本人に直接お会いしたことがないから詳細はわかりませんが、几帳面でまじめ、一生懸命な人が「自分がやらなきゃ」と強く責任を感じた瞬間に、躁のスイッチが入ってしまうこともあるのです。今、鬱病が何かと話題ですが、躁は鬱と紙一重。身近な病気なのです。

  • case3 躁病(mania)
    気分障害の一種で、気分が異様に高揚し、自身で制御できないほど興奮した状態が長く続いた場合に診断される。不眠不休で活発に動き回り、会話は支離滅裂とは言い切れないが脱線しやすく、一方的で多弁。過度の楽観的思考、注意力の欠如、自尊心の強大化なども特徴に挙げられる。患者によっては性欲や食欲の亢進、浪費などの異常行動が現れる場合も。鬱状態と周期的に交互に現れる躁鬱病(双極性障害)である場合が多い。
Kazuhiro Kobayashi
医療法人社団 城西クリニック院長。精神保健指定医。1962年生まれ。北里大学医学部卒業後、同大学病院でヘルスメンタルケア中心の医療に従事。身体疾患と精神面との関わりについて皮膚科、形成外科、婦人科の各専門医と研究を重ね、城西クリニックを開院。精神科医として心身両面からの頭髪治療に力を注ぐ。日本臨床精神神経薬理学会専門医、NPO法人F.M.L.理事。月に5,000人以上が来院する小林一広医師のクリニック詳細はこちら http://www.josaiclinic.com/

Text=田代いたる Photograph=太田隆生


*本記事の内容は12年3月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい