私たちの身近に潜む鬱病の実態を知る 「24時間仕事バカ!」のためのメンタルメンテナンス第5回

わかっているようで実はわかっていない自身の心の健康具合。そこでメンタルの実態を精神科の名医がチェック。心を整えればアンチエイジングに効くのはもちろん、仕事のパフォーマンスも上がること間違いなし。

鬱病のきっかけにもなる五月病の怖さを再認識

 先頃、東大が9月入学制導入の検討を始めたというニュースが報道されましたが、日本の場合、新年度のスタートはやはり4月1日。何年も勤めているサラリーマンでも、人事異動や昇進、転勤など、周囲の環境や対人関係に変化が訪れる時季です。五月病とよく言いますが、これは、そうした変化によってメンタル的に追い込まれたり、新しい環境になじめなかったりすることでストレスを感じ、沈んだ気分になってしまう心の状態の通称。はっきりした数字のデータはありませんが、確かに春、精神科を訪れる患者は増える傾向にあります。新年度を迎えて人が動くということは、その分、何らかの形で摩擦も生じているわけですから、トラブルが起きる確率も上がっている。4月にスタートして、その綻びが見えてくる時季が5月で、いろいろ思い悩んでいるうちに五月病になってしまうケースは多々あると思っていいでしょう。

 社員1000人以上の企業であれば、社内に専属産業医を置かねばならないことが法律で決められています。五月病を自ら疑うようなら、まず産業医に相談。その後必要があれば、人事部を絡めながら何らかの対策を練ることになります。しかし、実際は多くの会社で、いまだにフレキシブルに対応できないケースがまだまだ多いようです。また、環境を変えるくらいでは改善しない患者さんもいる。五月病がきっかけで鬱病になってしまう患者さんもいるからです。鬱病は内因性。つまり、脳の機能が低下することで引き起こされる病。その人を取り巻く環境によって起こる外因性ではないため、カウンセリングだけで完治することはほとんどありません。しっかり休むといった環境づくりも重要ですが、低下した脳の機能を改善する薬で治療するしかない。そこはきちんと見極めていくべきでしょう。

 そんな五月病、ナーバスに考えすぎる必要はありませんが、適切なフォローアップは不可欠。新しい環境になじめず、気分が落ち込んだ状態が続いている人は、今後の注意深い経過観察が大切になってきます。環境に慣れて立ち直る人がいる一方で、深刻な事態に陥る人が少なからずいるのも事実なのです。

今月のクリニック No.5 食欲がなく、仕事に行くのもイヤなのですが……

 厚生労働省は、今や日本人の15人に1人は鬱病で、その数は年間100万人を超えると言います。我が国の自殺者(年間3万人)の中には、鬱病の人が7000人以上いるそうです。

 仕事上の失敗などから気分が落ち込むことは誰にもあることで、むやみに心配する必要はありません。精神科の医師として、鬱病という言葉だけが昨今ひとり歩きしているように感じており、“新型鬱病”といった言葉も出現し、本来の鬱病に対する世間の認識は少し軌道修正が必要だと思うのです。

 鬱病とは脳の機能が低下して起こる病。単に気分の問題ではありません。代表的な症状としてまず挙げられるのは意欲の低下。朝早くに目が覚めてしまい、けれど、ベッドからはどうしても出られず、気分が落ち込んで食欲もなく、会社へ行くのが辛くて、人によっては死にたいとさえ思う。鬱病は風邪を引くように、すべての人がなる可能性があります。ただ、鬱病になりやすい病前気質があって、それは几帳面で何事も右から順にやらないと落ちつかないタイプの人。逆に、何事も大雑把な人はなりにくい。要するにきっちり仕事をこなす会社員ほど鬱になりやすく、仕事がちゃらんぽらんな会社員はなりにくい。会社にとってはきちんと仕事をする人のほうに必要な人材が多いわけですから、この病は治さねばなりませんし、実際、適切な薬を使った治療を行えば、必ず改善されるはずです。

 意欲の低下が主な症状と言いましたが、現れる症状は人によってさまざま。例えばよく身体的表現性障害と診断される「仮面鬱病」は、頭痛や目眩、痺れなど、身体の変調が症状として現れるため、患者さんはまず内科や整形外科を受診する。ところが、調べても悪いところは見つからない。いろいろ検査を重ねた結果、最後に鬱病が疑われ、その治療を受けると、症状が治まるというものです。他に「偽性痴呆」も鬱病の一種。これは鬱により、お年寄りが認知症と似た症状を引き起こす病像。それから「激越型鬱病」といって不安や焦燥感からまるで躁病のように不穏な症状が現れるものもあります。

 このように、鬱病もいろいろ。診断の難しいケースも多くある。それだけ、鬱病は厄介な精神疾患といえますが、治らない病気ではまったくありませんので、自分が鬱病かもと少しでも思ったら、精神科を受診してみることを薦めます。

  • 鬱病(depression)
    誰にでも起こりうる精神疾患の一つで、通常は時の経過とともに緩和する気分の落ち込みが長期間続き、時に激しい悲哀感や虚無感、絶望感や罪悪感となって意欲の低下や、緩慢な動作を引き起こす。早朝覚醒は典型的な症状で、希死念虜(死にたい気持ち)を伴う場合もあり、重症になると妄想や錯乱といった症状が発生する場合も。頭痛など、身体に変調をきたす身体的表現性障害など、鬱病の一種と考えられる病気も少なからずある。


Kazuhiro Kobayashi
医療法人社団 城西クリニック院長。精神保健指定医。1962年生まれ。北里大学医学部卒業後、同大学病院でヘルスメンタルケア中心の医療に従事。身体疾患と精神面との関わりについて皮膚科、形成外科、婦人科の各専門医と研究を重ね、城西クリニックを開院。精神科医として心身両面からの頭髪治療に力を注ぐ。日本臨床精神神経薬理学会専門医、NPO法人F.M.L.理事。月に5,000人以上が来院する小林一広医師のクリニック詳細はこちら http://www.josaiclinic.com/

Text=田代いたる Photograph=太田隆生


*本記事の内容は12年5月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい