脳内コンディショニング 脳科学者 中野信子

コンディションのいい状態では脳はどんな働きをするのだろう? 見地からコンディションを解剖。そして、最良の脳(!?)を手に入れるための方法を探ってみよう。

Doctor Nakano
医学博士、脳科学者。東日本国際大学客員教授。東京大学工業学部卒業後、2004年、同大学院医学系研究科医化学専攻修士課程修了。08年同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。同年から10年までフランス国立研究所で研究員として勤務。テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。
Gothic Nakano
クイズ番組で優勝し、「日本一優秀な頭脳の持ち主」の称号を得て、世界で上位2%のIQ所有者のみが入会できるMENSAの会員でもある中野氏だが、プライベートではゴスロリファッションと聖飢魔IIを愛する、意外な一面を持つ。


気鋭の脳科学者はなぜふたつの顔を持っているのか?

神経組織の集まりである「脳」は、コンディションを整えるうえで切り離しては考えられない部位ではなかろうか? その仕組みについて、脳科学者である中野信子氏に聞いた。

「コンディションを良好に保ちたい時、脳の中で注目すべきは、前頭葉にある前頭連合野です」

ここは人間らしい行動を司(つかさど)る部位で、きちんと機能していると、物事を合理的に考え、相手に対する共感性が持てる。

「例えば"この時間にこれを食べては太るから、我慢して明日にしよう"と、合理的に考えられます。また共感性とは、人の痛みを感じられること。それができれば、人を傷つけることを躊躇(ちゅうちょ)します。前頭連合野にはそういった"自分を制御"する機能があるので、コンディションには大きく関わってきます」

さらに前頭連合野には、自分を客観的に見渡せる機能もある。

「自分が今していることが、いいことだ、悪いことだ、とモニターする機能もあるんです」

その前頭連合野を良好に保つために、できることは何か。

「良質な睡眠、食事、適度な運動が大切。これは、やる気の源となり、安心感をつくるセロトニンを分泌させます。脳といえども肉体の一部。セロトニンはアミノ酸から合成されるのですが、食べ物から摂取しないと、量が不足してしまい、脳全体の機能も落ちてしまうんです」

きちんと睡眠を取り、朝、目覚める時、網膜に光をいれることで、セロトニンが合成される。さらにタンパク質を含む大豆製品や赤身の魚、肉などは、セロトニンを合成するトリプトファンを含んでいるのだ。

「理由もなく妻の浮気を疑ったり、子供の将来を不安に感じてガミガミ叱ってしまう人は、セロトニンの分泌不足を疑うのもひとつの考え方です。セロトニンが正常に分泌されていれば、安心感が生まれ、コンディションも自然とよくなりますよ」

さらにここに適度な運動を加えれば、なおのことよしと。

「ウォーキングの継続など、適度な運動でいいんです。こういった運動の継続によって、セロトニンの分泌が促され、認知症リスクが低くなるというデータもあります。むしろ身体にきつい負荷をかける運動より、ゆっくり脂肪を燃やすウォーキングなどのほうが身体にいいと言われています」

さらにコンディショニングをベストに保つための特効薬(!?)もある。

「"疲れた時は甘い物"は理にかなっています。糖分は脳に働きかけ、瞬間的にセロトニンを分泌させるので、まさに頓服のような役割を果たすのです」

取り組みやすい方法で継続的にセロトニンを分泌させれば、コンディショニングを良好に導ける。脳の仕組みを知ることで、それが可能になるのだ。

そんな解説をしてくれた中野氏だが、実はこの写真の両名ともにご自身なのである。右の黒髪でスーツ姿が「仕事時の中野先生」。ゴスロリファッションで金髪の女性は「プライベートの中野信子」なのだそう。

「実は、黒髪はカツラなのですが、これは自分を制御するヘッドギアのようなもの。"公の立場で発言"できるよう、自分を客観視するために身体からアプローチする、私なりのコンディショニング術。男性にとってのネクタイに近いかもしれません」

大脳で最も高度な働きをする前頭連合野。セロトニンのほか、脳から分泌される物質は、快楽をもたらす中毒性の源となるドーパミン、火事場のバカ力となるアドレナリンなどがある。

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Text=今井 恵 Photograph=星 武志 Styling=関谷佳子 Hair & make-up=三輪昌子

*本記事の内容は15年2月取材のものに基づきます。価格、商品の有無などは時期により異なりますので予めご了承下さい。 14年4月以降の記事では原則、税抜き価格を掲載しています。(14年3月以前は原則、税込み価格)