【遠藤光男の物申す!】トレーニング界の伝説がドーピング問題を斬る

昭和40年代、黎明期の日本ボディビル界に彗星の如く登場し、注目を集めた男がいた。その名は遠藤光男。 昭和41(1966)年、24歳の時にボディ・ビル・ミスター日本となり、世界大会にも出場。ドーピング三昧の海外選手を向こうに回して優秀な成績を残し、翌年、自身のジムを東京・錦糸町に開設。日本に於ける筋力トレーニング指導の第一人者としての地位を確立していく中で、作家・三島由紀夫や俳優・高倉健らとも親交を持ったほか、相撲界とも関わりが深く、千代の富士、白鵬を始め7人の横綱を指導。また国際プロレスのリングではレフェリーとして活躍し、数々のレスラーにもトレーニング法を伝授したことも知られている。 そんなスポーツ界のご意見番・遠藤光男氏が、2020東京五輪を控えながら、ゴタゴタが続く日本スポーツ界に「物申す!」。今回は、ドーピング問題や食事の大切さについて。 


ドーピングが野放しだった時代

ボディビルに関しては、日本のレベレが上がってきて、だんだん世界に追い付いてきているという実感がありますね。今はドーピングが厳しくなってきていますから、日本人でも、かなりいいところまで行けるようになってきました。でも以前は、ドーピングが野放しだった時期があるんです。

自分が世界大会に出た当時は、そういう連中ばっかりでしたからね。でも最近は、ちゃんとアマチュアのボディビルの大会ではドーピングテストを、しっかりやってます。だから、日本人はナチュラルで頑張って、世界大会で活躍するようになりました。

以前は、旧ソビエトとか、アメリカもすごかったですよ。「ボディビルをやってるのに、お前はなんでステロイドを使ってないんだ!?」って何度も質問されましたよ。「使ってない」って言ったら、「変だ」って言われましたからね。そういう時代でした。ドーピングに関して国際的に厳しくなってきたのは、ボディビルに関して言うと、だいたい10年ぐらい前ですね。

日本でボディビルの世界大会を開催したとき、私も実行委員長を務めたことがあるんですが、そのときもドーピングテストをやったんですよ。何人か外国の選手が引っ掛かりました。

当時は、やるったって、全員検査するわけじゃなかったんです。上位1人ずつとか2人ずつとか、せいぜいそのくらいでしたね。検体が10人分ぐらい。私も、採尿するとき立ち合いました。採尿した容器から別の容器に移して、蓋をして、A検体、B検体に分けるんです。AとBは、同じものなんですが、空き瓶に半分ずつ入れて、ラップして、シール貼って、剥がしたら絶対分かるから、悪さできないような容器になっていました。そこに本人にサインさせて、ジュラルミンのアタッシェケースに入れて持って行くんです。

赤羽に三菱油化っていうドーピング検査をしている会社があって、そこで遠心分離機を使って調べるんです。例えば、A検体で陽性になりました、と。でも「俺は使ってない」と言うでしょ。じゃあ同じものをBに分けてあるから、「Bも検査しましょう」ということになる。だから間違いがないようにするために、AとBに分けるんですね。

そこで引っ掛かった選手は、剥奪ですよ。でも判明するのは、大会が終わってからですからね。オリンピックでもそうですよね。時間がかかるんです。

だけど、当時引っ掛かったやつなんかは、もう、知らん顔してパーティで酒飲んで踊ってましたよ。昔は罪の意識なんて、ほとんどなかったんです。

ドーピングに手を出したら負け犬だ!

今はドーピングに該当する禁止薬物は何百種類とあるんです。昔は、たんぱく同化剤、アナボリックステロイドとか、数種類しかなかったんですよ。その後、利尿剤も禁止になりました。なんでかっていうと、利尿剤を飲むと、おしっこするときに、どんどん水を飲めば薄まって反応が出にくくなるんです。

今、何百種類という禁止薬物があるんですが、追っかけっこで、新しいの新しいのを作って、国ぐるみでやってるケースもあるでしょう? ロシアなんか、オリンピックでも問題になりましたけど、一時、アームレスリング世界大会でも、ロシア人選手のほぼすべてがドーピングに引っ掛かったことがあります。

一番効果的で確実なのは、抜き打ち検査なんです。抜き打ち検査を指定して、拒否したら陽性と見なされるんです。大会の日にやるとなると、尿から反応が出ないように、いろんな工作をしてくるわけですよ。反応が消える薬飲んだりとかいろいろ。そういうことがあるので、今、IOCなんかでも抜き打ちでやっているんです。そういった意味では、今、スポーツ界全体がドーピングに関しては、厳しくなりつつありますね。

国内のボディビル連盟でも、ナチュラルボディビルディング連盟っていうのがあるんです。一切ドーピングを使いません、許しませんっていうことでね。けれども、世界連盟では昔はプロの大会、ミスターオリンピアっていう大会があるんですが、賞金が出る大会ではドーピングテストをやっていなかったんです。今でも、多分そうでしょう。だからアマチュアでドーピングに引っ掛かっても、プロに転向して、そっちの薬を使って大会に出場してしまう可能性があるんです。

化け物のような体してますからね。それはすごいですよ。なかには、もう40代で廃人になっちゃったりね。一世を風靡した有名なアメリカのボディビルダーで、もう歩けなくなっちゃった人が何人もいるんですよ。寂しいですよね。健康のためにやっているのが、薬に手を出して。だから自分たちも「薬に手を出すのは、ボディビルダーの敗者だ」「負け犬だから」って言っているんですけどね。

ドーピングは、まずアンフェア。それと、健康を害する。社会的な影響力も大きいですよ。みんな憧れて「すごいな」って言ってた人が、実はドーピングやっていたんだとなると、「なんだ、ボディビルダーってみんなそういう連中か」っていう社会的な評価が出ちゃうんです。そういう意味ではとても悪いことだと思っていますね。今、ドーピングを全然やらない人たちにとっては、いい環境になりつつあると、そう信じていますけどね。

サプリメントの問題点

ただ、問題は、今、サプリメントの時代でしょう? いろんなサプリメントを一般の人も飲みだしていますが、そのサプリメントも、海外から来るものの中には、ちょっと怪しいのもあるんです。うちのサプリメントはこれだけ効果ありますよと謳っていて、実はこっそり禁止薬物が入っているから効果が出る場合もあるんです。

だから自分たちとしては、自然の食べ物だけで、サプリメントなんか取らなくてもちゃんとした体が鍛えられるよと言っているんです。食事をきちっとコントロールして、考えて食べて、そういう生活態度も含めて、練習もきちんと工夫してやれば、そういうの取らなくても、十分大会に出て通用する体ができる、ということを指導しています。

今はプロテインだって、いいものがいっぱいありますからね。サプリメントというのは1回摂り出すと、1しか摂らなくてよかったのが2になったり、3倍取ったら3倍効果があると思って、摂り過ぎてしまったり。必要な分だけ摂ればいいんだけど、どうしても人間の心理として多く摂れば多く効果出ると思っちゃったりしますよね。その辺のコントロールが難しい。

普通の食事に関する指導も、もちろんします。人間の体は食べ物でできていますからね。食べ物が一番大事です。それで、どうしても食べ物で取り切れないものがあれば、じゃあこういうサプリメントを摂ったらいいでしょうと。そういうアドバイスはトレーナーがちゃんとしていますから。われわれは指導するときに、日常の生活を聞いて、目的にもよりますが、こういうにしたほうがいいですよとか、こういうものを摂ったほうがいいですよとか、これはやめたほうがいいですよと、アドバイスしていくんです。

食事とトレーニングで5歳若返る!

高齢者向けの指導は、もう13年になるんですけど、介護予防事業で65歳の人から、最高90代の人も来てるんですが、まず指導に入る前に、なぜ運動が必要か、なぜ筋肉が必要か、筋肉を鍛えるということはどういうことか、それを教えるわけです。ちょっと運動して、その筋肉がきつくなるぐらいまでやることによって筋肉はそれに負けじと思って強くなって回復します。そういうことを説明しながら、ほとんどマンツーマンに近い形で、フォームをチェックしながら教えるわけです。

食事の面もきちっとしましょうと。人間の体は食べ物でできているんですから、年だから何でもいいや、好きなものを食べればいいやじゃなくて、年を取れば取るほど栄養のこと考えてしっかり取らないと、どんどん退化していく、筋肉が衰えるから駄目ですよと。運動を始めたことによって健康に対する意識を高めましょうと。

健康に対する意識が高まれば、食べることとか寝ることとかもちゃんと考えるようになる。効果が出てくれば5年前の体力に戻そうと、そういう目標を持ってやりましょうと。ラジオ体操とは違って、筋力をトレーニングで鍛えるので、体力が付いたことを実感しながら、5年前の体力を取り戻す。例えば70歳の人だったら65歳の体力に戻しましょうと。5年戻れれば、うれしい、素晴らしいことでしょう? でも、本当に皆さん熱心でね。とてもすごい反響なんですよ。


Text=まつあみ靖 Photograph=吉田タカユキ


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遠藤光男
遠藤光男
1942年東京都生まれ。日本ボディビルディング界の第一人者で、24歳だった'66年のボディビル・ミスター日本となる。翌年に東京・錦糸町で遠藤ジムを開き、その年にはモントリオールで開催された世界選手権で3位に。三島由紀夫や勝新太郎とも親交があり、大相撲界、プロレス界など幅広い人脈を誇る。
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